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禁忌種(タブーブラッド)の人生クエスト  作者: カッパ巻き
第一章:エセ冒険者と怪しい森
11/36

最初の〇〇

-tips-

 エンチャント。

 他の生物や器具などに魔力を付与し、筋力強化など何らかの特性を付加する練術(アーツ)

 それ自体は術師系統の纏職(ロール)ならば大体使用出来るが、道具や器具に練術(アーツ)そのものを付与するとなると、熟達した【付与術師(エンチャンター)】でもなければ不可能。


 ましてや■の付与に至っては、たとえ何者であろうと絶対に出来ないとされている。


 ――翌日。


 カブリオレの別荘に一泊したアッシュとソレル達だったが、アッシュが所用で出かけている間に、ソレル達もまた、今すぐにでも出なければならない用事が出来てしまった。

 それは、この辺りの土地に生きる者であれば絶対に無視できない存在からの招待であり、既にその場所へ向かう為の準備も終わっているとの事だ。


「アッシュはまだ、帰ってきそうにないの?」

「ああ、参ったな。せめて別れの挨拶はしたかったんだが」

「けどもう時間が無いみたいだ。残念だけど、カブリオレさんに伝言を頼んで――」


「皆様、お話があるのです」


 ふと、リイムが出発準備を始めていたソレル達に、そう声を掛けた。


「どうした? 改まって」

「はい、(わたくし)、良く考えました。その上で――決めました。あの方以外にあり得ません」


「「「ッ!!」」」


 ソレル達はリイムの、常に余裕の笑みを絶やさない彼女の、滅多に見られない真剣な表情と言葉で、全てを察した。


 ――(きた)るべき時が、来たのだと。



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「ぬぅ……昇格は無しか、ま。言われた事は事実だしなぁ」


 アッシュはトラインにある役所の冒険者課にて、今回の件に関しての報告と、それによる評価報告を受けた(のち)、広場にある長椅子に腰かけていた。

 アッシュの担当を行った冒険者担当の女性曰く――。


「貴方が特例魔窟(イレギュラーダンジョン)の攻略に関わったことは、蒼穹の銀翼ウィングラインブルーの方との確認も取れましたので事実であると認識しています」

「――しかし、今までの貴方の働きと報告から考えても――大梟熊(アウルベア)を単体で討伐した件と魔窟の主(ダンジョンボス)討伐に貢献した件については――少々盛り過ぎ、という判断を下さざるを得ません」

大梟熊(アウルベア)については、せめて討伐証明部位の右手でもあれば此方も真面目に検討したのですが――」


 との事だ。要は、今まで頑張って無かった分、じっくり様子見するから次頑張ってね。と言う事らしい。


 討伐証明とは、異種(クリーチャー)の討伐証明に、指定された異種(クリーチャー)の部位を提出する事。

 因みに大梟熊(アウルベア)を含め、熊系の異種(クリーチャー)の討伐証明部位である右手は珍味としても有名で、結構いい値段で売れる。


「くぅ、そこまで頭回ってなかったっての。必死だったんだぞこちとら!」


 隠している正体(・・)の事もあって、自身に関しては曖昧な報告になってしまったのが仇となったとは言え、勿体ないとアッシュは握り拳片手に悔しがる。

 (もっと)も、ついでとばかりに書いておいた今回の遭遇した異種(クリーチャー)の生態調査書なんかはそれなりの値段で買い取って貰えた。


「まぁ、それでも魔窟(ダンジョン)を攻略したのは事実。今回で結構な額と素材も手に入ったし、これからも真面目にしてりゃ昇格は確実。……確実かなぁ」


 実際そうは言えないかも――と、アッシュは内心で呟く。答えは簡単。


戦力(ちから)が足りねぇ――)


 本気でこれ以上の昇格を目指すなら、本格的に魔窟(ダンジョン)攻略に挑まなければならないのは必然。

 しかしアッシュは――単独(ソロ)で戦うには弱すぎる。

 

 熱で倒れてしまう為に本当の本気による戦いがそうそう出来ず、かといって正体がバレてしまう危険もあって仲間を募るのも難しい――正直言って、積んでいた。


(あぁ~。やっぱり入れて貰うんだったか――いや、あれだけ啖呵切って今更翻すなんて出来ないしそもそもソレル達に並びたいから昇格する気になってってのにこれじゃ本末転倒じゃねぇかでも実際このままで居ても如何にもならないしどうすればばばばば) 

「何を百面相してらっしゃるのです?」

「はぁうあっ!?」


 アッシュが突然聞こえた声の方向に顔を向けると、何故か大荷物を持ったリイムが立っていた。


「や、やぁリイム。今のは……まぁ将来について悩んでいた~みたいな? そっちこそ荷物なんか持ってどうしたんだ?」

荷物(これ)ですか? 荷物(これ)に関しては――すみません。今、お話よろしいですか?」


 と、真剣な表情でリイムが言うので、アッシュは座ったまま横にずれて場所を譲る。

 では失礼して、とリイムが荷物を下ろし、譲られた席に座った。


「で、改まってどうしたんだ?」

「ええ、実は――」


 と、リイムが一拍子置いて口を開く。


(わたくし)――蒼穹の銀翼(ウィングラインブルー)より脱退いたしまして」

「……はぁっ!!?」


 とんでもないカミングアウトに流石のアッシュも声を上げる。が、周りを気にして直ぐに平静になり、リイムに尋ねる。


「何があったんだ一体。あんなに仲良かったじゃないか」

「えぇ、ですが――そもそも、蒼穹の銀翼(ウィングラインブルー)という旅団(パーティ)は、それぞれが願い。言い換えるなら夢を持ち、その夢を叶える為の協力者を募る――そんな旅団(パーティ)でした」

「ソレルがそうだな。つまり、リイムを含めた他の皆も」


 ええ、とリイムは肯定する。彼女が知る限りだと、スノウはソレルと同じく、"神の塔"への挑戦が願い。ドンナについてはリイムも詳しく知らないそうだが、一度、"獣神"に至りたい、と言っていたとか。


「そして(わたくし)にも当然望みがあります。それは私の、ただ唯一の"(ひかり)"を見つける事」

「……光?」


 少し、昔話をしましょう――と、リイムが語りだす。


(わたくし)は、とある――辺境の小さな里に生まれました。そこでは、古くからある慣習がありまして、己を"影"と定めて特別な修練を収め、自身にとっての"光"たる至上の(あるじ)を求める、そしてその"光"たる至上の(あるじ)に仕える事こそを命題とするのです」


 アッシュはその言葉の意味を、その土地の人間の殆どが、自身の決めた(あるじ)に仕える為の修行をしている里――というものと理解した。 


「ところが、最近新たに里長の地位に立った男は、何と言うか古い習慣を(うと)み、()を良しとする方でした。その新たな里長が立てた方針が、里で育成した者を、里に相応の金額を払った者に仕えさせる。と、言うものでした」

「何だって? いや、それは――」


 まるで話が変わってくる、とアッシュは思う。

 リイムのいう里は、所謂(いわゆる)彼らなりの信仰か――もしくは信念の下で生活をしていると感じた。新たな里長の考えや方針というのは何というか、そういう物を軽視している様に感じたのだ。


「えぇ、私も里長が変わって以降は、そういうのは違うなぁと、常々思っておりました。そこで私――」


「里秘蔵の宝である秘伝書を盗――もとい、お借りした上で里を脱走致しまして」

「ぅおいっ!」


 思い切りが良いというレベルじゃねぇ、とアッシュがツッコミを入れる。


「えぇ、我ながら大きな決断――里に対する裏切り行為、といっても過言では無く。とはいえ、初めて里を出たあの時の心地と来たら、(わたくし)初めて呼吸をした様な気分でした」

「俺は情報量で溺れそうなんだけど」


 それはさて置き、とリイムが締め、本題に入ると言わんばかりに向きなおる。


「単刀直入でお頼み申します、アッシュさん。私の――(あるじ)になっていただけませんか?」

「な、なに言って!」


 つい仰け反りそうになるアッシュの手を逃さんばかりに掴み、リイムは真っすぐにアッシュの目を見つめる。


「あの時の言葉、嘘偽りありません。私は貴方の――あの奮闘に、眩き光を見たのです」

「……必死だっただけだ。俺弱いし、それよりもソレルみたいな人間の方が――」


 アッシュは己を否定するが、いいえ。とリイムは首を振る。


「その必死の力を、その時その瞬間に(ふる)える者を弱者とは申しません。それに貴方はあの時、私達を笑った者達に対し、激しく怒ってくれました。その時の私がどれだけ嬉しかったか――分かりますか?」


「いや、あれは……そ、そうだ! 何でも屋の下に付くなんてって、馬鹿にされるぞきっと」

「好きに言わせて置けば宜しいのです。何より、貴方はいずれ、大事を成すのでしょう? ごめんなさい。昨日の夜、聞いていたんです」


「う……しかし、な。後、あれだぞ――俺の正体がバレた時、多分リイムもただじゃ済まないぞ」


 リイムは一瞬きょとんとした後に微笑(ほほえみ)を浮かべ、一言。


「望むところ、です」


 負けた――と、アッシュはため息をついて観念する。

 そこまで迷いの無い笑みを見せられて猶無下に出来る程、アッシュも図太い神経をしてはいない。


「分かった。(あるじ)って話は兎も角、手を組む事に不満は無い。ならまず、それこそ、ソレル達に話つけなきゃならない。このままは余りに不義理だ」

「いえ、彼らにも既に私の気持ちを伝えてあります。それに彼らは今、王都へと向かう馬車の中かと」

「何だって!?」


 ――そう、リイムが己の思いをアッシュに伝えた頃には、蒼穹の銀翼(ウィングラインブルー)三人(・・)は、ノドッカやトラインも所属している王国。"ドラグレスト王国王都"へ旅立っていた。

 今回の一件が王の耳に届き、事件を解決した彼らを表彰する為の招待をしたからだ。


「急の要件だった事と、招待状に貴方の名が無かったことで待つ理由にも出来ず。挨拶も無く分かれる事、皆悔いていましたよ」

「いや、俺の事は別に良いが――あぁ、借りができたな」


 相手もきっと、そう思っているでしょうねとリイムは内心で苦笑する。


「全く。しかしリイム、本当に悔いは無いんだな?」

御座(ござ)いません。ですが――えぇ、勿体無いと思った事が、一つだけ」

「ん……?」



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「……さびしーよー」

「俺だってそうさ。だが、リイムの望みだしアッシュは良い奴だ。好敵手(ライバル)を手助けしちまった事になるけどな!」

「それに、永遠の別れでもないんだ。そう悲しむ事もないよ」


 王都へと向かう馬車の中。

 蒼穹の銀翼(ウィングラインブルー)の四人……否――今は三人は、かつての仲間に思いを馳せていた。


「むしろ、大変なのはここからさ。彼女の空いた穴をどうにかする為にも、新しい仲間の募集して――後、戦略の見直しもしなきゃ、ね」


 ドンナの言葉通り、旅団(パーティ)の連携は戦闘を行う上で重要な事。

 一人減ったら似た様な事が出来る仲間を入れれば元通り――とはならないのが旅団(パーティ)編成の難しい所であり、面白い所といえる。


「何気に防御面任せっきりだったしねー。リイムったら、派手に戦って敵意(ヘイト)を集めながら、回避と攻撃を同時に行う、なんて凄い事してたしね」


 それは、【暗殺者(アサシン)】の様に敵意(ヘイト)を集めやすい纏職(ロール)持ちが、攻めと回避を同時にし続ける事で自身に注目を集め続け、味方を攻撃&補助に徹底させる、俗に言う回避(タンク)というリイムの得意戦法(スタイル)だ。


「それな。俺が一旦防衛職取ってみるか?」

「王都は騎士の(みやこ)だ。そっちを頼るというのもアリかもね。所で、今後の旅団(パーティ)の雑用の役割も当て直さないと、昨日、じゃなくて一昨日はどうなってたっけ?」


「炊事洗濯は私だったんだけど、用があってリイムに任せてたっけなー。悪い事しちゃった」

「へぇ、偶然だな。俺も鍛錬をもう少しやっときたくて、買い出しの用事リイムに頼んじまった……いや、リイムからやるって言いだしたんだったか?」

「そうか。僕も実は、弓の調子を見る為の時間が必要でしょうって、僕の役割だった役所への報告書の作成をリイムが……」


「「「………………アレ?」」」



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「実は私……皆さんからなんだかんだ理由を付けて、皆で分担すべき雑務を一人で受け持っておりました……結構、前から」

「はぁ!? 雑務って、旅団(パーティ)全員。四人分の雑務を一人でか!? 何でそん、な――」


 と、アッシュの言葉が詰まる。何故ならリイムの顔に影が差し、今まで見た事も――否、今までも兆しは感じていた、怪しい気配を醸し出し始めたからだ。


「私――少し自分でもどうかな? と思う様な癖がありまして……」


 と、恍惚を帯びた笑みを浮かべて――。


(わたくし)、頼られたいのです。我が心からの奉仕で、身も心も融かして、さらけ出して――私無しでは、居られない程に――フフ」

「あの、リイム?」


「あんなに心強い皆さんが、皆私を頼るのです。お願い――って、(わたくし)に、依存して」

「…………」

「あぁ、皆さん。今、私無しで、大変でしょうね……きっと今私を求めて――フフフ、フフフフフフ」


 と、暗い笑みを続けるリイムを見て、アッシュは思う。

 アレ? 俺ひょっとして、早まった真似をしたのでは? と。


「さて、それでは我が(あるじ)。いかようにもご命令を。私はあなたの影として、誠心誠意努めましょう」


 と、先程までの黒い気配は何処へやら、リイムは静かに微笑み、アッシュへと僅かに姿勢を下げて傅く。

 だが、先刻までの様子を見ていたアッシュからしたら、この目の前の少女が色んな意味で恐ろしくて仕方が無い。


「く、クーリングオフって効きます?」

「はて、意味の解りかねる命令は聞けません」

「だ、騙されたぁ!! ソレルーっ! この色々と危ない人引き取ってくれーーっ!!」


 と、アッシュは叫ぶが残念。ソレルは既に馬車の中である。


 こうして、世界に許されぬ者。禁忌種(タブーブラッド)の少年アッシュの物語は始まった。

 傍らには、己が光を探し求め、時にその光すら飲み込まんとする影の少女。


 そしてこれこそが始まりだった。

 このイディアリスに、新たな混沌の兆しが――。


「って、ぁあああああああっ!!」

「まぁ、急にどうしました?」


 と、アッシュは何かを思い出した様に大声を出した。


「俺、結局昨日受けた依頼まだ完了してない! しかも殆どの荷物ノドッカの宿に置いてったままだ! 早く帰らないと延滞料金取られる!」


 と、アッシュはトラインからノドッカに繋がる馬車乗り場へと向かおうとして――。


「って、カブリオレさんに挨拶なしで行くのはあり得ないか。リイム、俺ちょっと用事全部済ませて来るから、もう自由にして貰っても」

「付き添います。それが、私の望みです」


 付いて行く気まんまんのリイムに、もう好きにしてくれ! とアッシュは大急ぎで駆けだした。

 そしてその背後をリイムが――はい。と返事をし、笑顔で追走する。


 そしてこの事を切っ掛けに、物語は新たな局面へと動き始める。それがこのイディアリスにどの様な結果を招くかは、今は誰にも分からない。 


-tips2-

 リイム・ゼラ。

 長さにバラつきのある黒髪で、右目を隠した【暗殺者(アサシン)】の少女。

 得意武器は鈎爪。敵のヘイトを一身に集めながら回避と攻撃を行う、攻防一体の特殊な前衛スタイル。

 普段は控えめで、自己主張しない性格だが、知らずに物事を任せていると、いつの間にか彼女に全てを委ねてしまい、彼女自身に依存させられている、という危険な性質の持ち主。

 因みに彼女が他者を好意的に感じる要素は意思の強さが主。特に格上が相手で命の危険があろうと、決して諦めず、己の全てを投げ打って挑む様な人種は特に好み。


 第一章終了。 二日後投稿再開。



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