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禁忌種(タブーブラッド)の人生クエスト  作者: カッパ巻き
第一章:エセ冒険者と怪しい森
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一日の終わり

-tips-

 敵意。

 ヘイトとも。冒険を行う上で、特に異種(クリーチャー)と戦う上で頭に置いておかなければならない要素の一つ。

 異種(クリーチャー)は魔力に敏感であり、多く魔力を発散する者は、異種(クリーチャー)から敵意を向けられ、標的になる事が多い。

 特に術師系や、補助系の能力を持つ纏職(ロール)持ちは、特に狙われやすい。

 その為、チームを組んで戦う時、そんな敵意(ヘイト)向けられ易い者を守護する(タンク)役の前衛が必ず必要となる。


「あ、脱出門(エスケープゲート)」 


 最後の一撃が放たれた(しばら)く後、スノウがこの場に出現した脱出門(エスケープゲート)に気付く。戦いは終わったのだ。


「さーて、じゃあ話して貰おうか。一体どういう事なんだアッシュ……アッシュ!?」


 ソレルが話しかけると同時に、ふらりとアッシュが力なく倒れる。それと同時に、機械弓(クロスボウ)は元の古びた形に戻った。


「ど、どうしたのアッシュ君! って、凄い熱! 後、腕もボロボロって!?――奇跡は切らしてるし、どうしよう!」

「はぁ、心配無ぇ、よ。どの道、奇跡はこれに、効かん……」

「その症状、もしや。魔熱(オーバーヒート)か?」

 

 ドンナの口にした魔熱(オーバーヒート)は呪文使いが(まれ)になる症状。

 原理は単純で、肉体を巡る魔力が本人の限界を超えて活性化する事で、体に負担を掛けて高熱を発してしまうと言うものである。


 これは特に――生まれつき自身の能力の限界を超えた魔力を保有してしまった者が良く起こす症状であり、アッシュが本気の力を中々行使しなかった理由でもある。


「俺自身、まだ宿した魔力に着いて行けて無い、のさ。はぁ……こうなると、五分はまともに動けねぇ……」

「そんなに、なってまで……」


 アッシュが己の肉体の限界を振り切ってまで――正体を晒してまで自分たちを助けてくれた事実に、蒼穹の銀翼(ウィングラインブルー)の皆が感動と申し訳なさで身を震わせる。


「そもそも、伝説の中に実在した魔王だか何だか知らないが、俺とそいつは似ても似つかない別人だ。俺弱いし」

「え、でもさっきまでのアレは……」


 スノウ達はハッキリと覚えている。

 事実、アッシュは不思議な道具を操り、絶体絶命のピンチを一気に塗り替えたではないかと。


「《エンチャント》。俺の生まれつき持っていた力でな。俺は、自分で作った……あー、手を加えた道具に様々な特性を付与できる。練術(スキル)でさえ、な」


 そう。己が手を加えたあらゆる道具に様々な能力を――それこそ本職の【付与術師(エンチャンター)】でも難しい能力まで付与できる。

 物が非常に多く入る鞄。小型な割に強力な爆弾。様々な薬品。そして――武器。


 道具に更なる力を与える力。

 それがアッシュの、アッシュ自身の唯一にして最大の取り柄だ。


「俺の体はまぁ、我ながらチグハグでね。妖精種エルフ並みの筋質に骨格強度。窟人種ドワーフ並みの魔力適正。果たして寿命はどちらに近いのか」

「そうか、妖精種エルフは生まれつき、持ち前の魔力で肉体を自然強化していると聞く。君はそれが出来ないのか」


 そして、それこそ彼が虚弱たる由縁(ゆえん)

 寄りにもよって妖精種エルフ窟人種ドワーフの互いの不得手を受け継ぎ、人より数倍膨大な保有魔力も、少し活性化させただけでこの有様。


 種族全体で見ても弱い方とされる唯人種(ヒューマン)の平均と比べてもアッシュの身体機能は更に低い。

その為、両腕は先程の強力な一撃の反動を受け止めきれず、ボロボロになってしまったという訳だ。


「俺が本当の顔を見せてしまったら、多分。この世の半分以上は敵になる。それから身を守るには、今の俺は余りに弱すぎる」

「そう、か。お前――」


 と、アッシュがここでとんでもない事を言いだした。 


「だがまぁ、何なら此処で後顧の憂いを断っておくか?」

「え、何を言って……」

「俺は、禁忌種(タブーブラッド)だぜ? 世の為の事考えたら、な」


 蒼穹の銀翼(ウィングラインブルー)の皆の間で、緊張の気配が走る。


「俺自身はアレをぶちのめせた時点で取り合えず満足だ。実の所、個人的な目的はあるんだが――まぁ、お前らがどうこうするのならそれも良い。後は煮るなり焼くなり好きに――」

「お前っ!! ふざけn……」


 ――バ ス ン ッ!!


 ソレルが声を荒げてアッシュの胸倉を掴む――その前に、リイムがアッシュの顔に手刀をかましていた。


「……怒りますし、ブチますよ」

「どっぢも、じてから、言う、な――ぐふっ」


 アッシュは、最後の余力を振り絞ってツッコミを入れ、意識を手放した。



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「で、いいのか」

「この話はもう禁止します。次はこうです」


 目を覚ましたアッシュが問おうとするが、リイムが見えぬ速度で拳を突き出したので追求をやめた。続けてソレルも呆れ気味に口を開く。


「つーかそんなボロボロの奴をどうこうする気なんて起きねぇよ。詰まんねぇ冗談かましやがって」

「――悪い。本当に」


 そうこうしている間に皆による犠牲者達の骨の片づけが終わり――今だ気を失っていたカブリオレを起こす。


「起ーきて、カブリオレさん?」

「……フゴ、っは! 木は、あの怖い木はどうなったのかね!?」

「もう倒したってんだよおっさん」

「そ、そうか。助かったー……と、いうかソレル君はちと気安すぎると思うがどうだね」


 と、無事だったカブリオレと共に皆で帰る為の準備を始める。


(所で、もう前の顔に戻ってるんだね)

(ま、今回は仕方無いにしても、カブリオレさんにまでバレる訳にも行かないしな)


 こっそりとドンナが言う通り、アッシュは既に擬装用の、白地の仮面を被り直している。これもアッシュの作った物で、被った者の姿を擬装する事が可能な代物だ。


「いやしかし、こんなに貰っていいのか?」

「俺達もたっぷり持ってってるし問題ねぇさ」

「それを言ったら私なんて何の役にも立ててないのに貰ってしまったよはっはっは」


 皆が腕いっぱいに抱えているのは、吹き飛ばした邪樹擬巨人(ギガースイビルトレント)の抜け殻――質の良い魔力をたっぷり含んだ木材の束である。


「どの道、持ちきれない程の量だからね。僕達は犠牲者の骨も外に運ばなければだし」

「そうだよー? 何ならソレルが一番お(こつ)持って?」

「おう!! 俺ならまだ余裕だぜ!」

「そこで即答するソレルは良い奴すぎるな」


 そうやって皆で持つべき物を持った後、揃って脱出門(エスケープゲート)の前に立つ。


「それじゃ、帰ろっか」

「ああ」

「私達、どれだけの間消えていたでしょう?」

「そういや、魔窟(ダンジョン)の中って時間の流れ方違うんだっけか」

「え、そうなのか」

「本当かねそれ!? 外に出たら全てが滅んでたとか嫌だよ私!!」


 と、冗談交じりに話しながら、皆で脱出門(エスケープゲート)を潜って行く。


 世界が青白い光に包まれて行き――。



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「よっと、此処は――」

 

 地に足が付く感覚と共に、アッシュの知らない森の景色が広がっていた。


「僕達が光に飲まれた場所――と同じ様だね」

「トラインの東の森だ。はぁ、無事に着いて良かったー」

「いや、安心するにはまだ早い。周りはそのままでも他がどうなっているか――って、あれは……おおー-い!!」


 目を皿の様にして周囲を睨んでいたカブリオレだったが、ある方向の奥に居る――カブリオレと似た衣服を着た集団に向かって大声を掛けた。


「ん? あ、あれは……おい皆! 会長だ!! 会長がいたぞー-!!」

「なんだって!?」

「本当だわ! 会長~っ!!」


 声を掛けられた集団は、カブリオレに気付くと彼を会長と呼び、此方に向かって走り始めた。


「って、会長!?」

「あの人、偉い方だったのですね」

「しかも、部下っぽい人達に慕われてる感……じ?」



「おおっ!! 私の帰りを待ち望んでいたか! 私は生きて帰ったぞ――っ!!」

「会長~~っ!!」


 ――が。


「やっっと見つけたぞクソ会長ゴルァああああっ!!」

「仕事放っぽってどこで遊んでやがったてめぇええッ!!」

「奥さんカンッカンですよダメ会長~!!」


「ぎぃやああああああっ!! 諸君、説明を! 彼らに説明を~~っ!!」



「慕われてる――のか?」

「嘗められてるだけかもね」


 とにかく、皆はトロッコ商会によって保護され、トロッコ商会会長のカブリオレの計らいで、トラインにある彼の別荘に御厄介になる事になった――。



 ◆ ・ ◆ ・ ◆



「なぁ」

「ん?」


 別荘でカブリオレからたっぷりのご馳走を頂いた後、ソレルがベランダで外を眺めていたアッシュに声を掛けてきた。

 

「お前さ、蒼穹の銀翼ウィングラインブルーに入らないか?」

「ごめんなさい」

「即答かよ!!」


 口にし辛い言葉を吐き出す為に、持っていたグラスの氷水を軽く含み、アッシュは続ける。


「誘ってくれるのは嬉しいさ。本当にな」

「だったら……」

「だが、今の俺では皆の足を引っ張るだけさ。実力的にも、世間的にも――な」


 ぐっ、とソレルが悔しそうに顔を歪める。

 そんな事無い――と、口に出来たならどんなに良かったかと。

 

 だが彼も理解しているのだ。

 アッシュの事は、世界に全てを晒すには余りに刺激が強すぎる。


 時にそれは――劇薬にすら成りうる物だと。


「もともと俺は「何でも屋」なんて揶揄されてた男だ。そんな奴が銀級冒険旅団(シルバーパーティ)に突然所属? 何か裏があると思われるのは必然さ」

「――俺にもっと力があれば」


「それはこっちの台詞だ。けど――それだけじゃきっと駄目な気がするんだ」


 カラン――とグラスが鳴る。


禁忌種(タブーブラッド)。この悪名を、世界は異常なほど怖がってる。それを払拭するには――相応の何かが必要だ」

「……そう言えば、やりたい事がどうとか言ってたが」


 ああ――と、アッシュが呟き。ゆっくりと、上を指さす。


「神の塔――その天辺(てっぺん)へ」

「ッ!! 今だ伝説の中でしか語られない、誰も到達した事の無い幻の魔窟(ダンジョン)!」


 そして、その頂点に――神が居るとだけ伝えられている。


「――神に会いたいのか!?」

「まぁ、用が有ると言うか、ね。笑いたきゃ――」


 ドン――ッ! と、ソレルがベランダの手すりに拳を打ち付けた。


「笑わねぇ、笑う訳ねぇ。誰かの夢を――ましてや、同じ夢(・・・)(いだ)いた奴を笑ってたまるか!」

「……ソレルも、か!」


 そうだ――と、口にすると同時にソレルは満点の星煌めく空を見上げる。


「子供の頃からの夢だった――俺は、誰も見た事の無い場所に行ってみたい。神の塔は、俺の夢だ」

「そうか、先は長いな」

「そうだ! だから――」


 ソレルはアッシュに手を差し出す。


「仲間が駄目なら――競争相手だ」

「似た言葉で――好敵手(ライバル)ってのあるぜ?」

「ならそれだ!」


 二っと笑うソレルの手に、アッシュは音が鳴る程勢い良く、握手に答えた。


「弱っ!! 本っ当! 力弱いのな!」

「ああ。だから俺は、皆に負けない最高の仲間を探すよ。そして、ソレルより先に――神の塔へ到達する! 今決めた!」

「上等だ!!」


 此処に、一つの約束が生まれた。お互いの思いと願いが生んだ――星の様に煌めく約束が。


「…………」


 そして、そんな二人を陰から見つめる者が一人。


「あれ、どうしたの? リイム」

「い、いえ何でも。それより今日は汗をかいたでしょう? (わたくし)が背を流して差し上げますね!」

「ひぇえ、リイムがご奉仕リイムに! あ、ドンナ! ドンナを洗ってあげてよ毛深いし!」

「私も最初はそのつもりだったのですが、何故かどうしても見つからなくって」

「逃~げ~た~ね~!?」


 こうして、アッシュの最初の大冒険――その一日が終わった。


 そして――夜が明ける。

-tips2-

 禁忌種。


 詳 細 不 明 詮 索 禁 止

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