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放課後遊撃隊  作者: 夜狐
7/27

狙撃

今回から、後書きや前書きに世界観設定を書くことにしました。

 昼休み。学校がもっとも賑やかになる時間だ。前線高校の生徒も他の高校生と変わりなく、机を寄せて昼食を食べたり、廊下や教室での談笑に花を咲かせたりしている。直斗もまた、和也と話していた。

「最終的に、信号弾を撃ち込んで倒したんだ」

「なるほどなぁ……にしてもよく思いついたよな、それ」

「使えるもの探してる時に信号銃が見つかったからさ」

「しっかし、随分と厄介なのに遭遇しちまったよな」

「全くだよ。あんなのにはもう会いたくない」

2人は直斗が先日遭遇した、スライム状のHLについて話していた。直斗の咄嗟の閃きで倒せたものの、銃弾が効かないのはかなり手強い相手だった。


「今、ちょっといい?」

雪が教室に入り、直斗に話しかけた。彼女の後から柑奈もやって来る。雪は昼休みに入った時から、教室にはいなかった。

「ん?どうかした?」

「今日の放課後、仕事行けなくなった」

「用事でも出来たのか?」

「そゆこと。私と友達数人で、雪の服選んであげるの」

柑奈その用事についてを伝えた。

「だって雪、私服のバリエーション少ないんだもん」

「まぁ私も……興味ない訳じゃないから」

「それだと、今日の仕事は無理か」

「そうだね。明里にはもう言ってあるから」

それだけ言うと、2人はまた教室の外へと向かった。

「遊撃隊って、2人だけじゃ行けないのか?」

「無理なことはないけど……まあ、推奨はされてないな」

1年からずっと特殊化にいる和也にとって、遊撃科は知らない世界なのだそうだ。

「俺も遊撃科に移ろっかな〜。特殊よりは楽そうだしよ」

時折そうは言いつつも、彼は特殊化である事に誇りを持っていると、直斗は知っていた。


「さて、俺たちはどうする?」

直斗と明里は整備庫に来ていた。2人だけでは受けられる仕事も少ない。柑奈のように、仕事以外で行きたい場所もなかった。

「私は射撃訓練するつもりよ。直斗は?」

「じゃあ俺も行こうかな」

「そこの2人、ちょっといいかな」

 そうしていると、後ろの方から声をかけられた。やや中性的ではあるが、女の声だった。

「そう、君たちだよ。違ってたら申し訳ないけど、暇かな?」

話しかけたのは、髪が長く、少し背の高い女子生徒だった。隣に、無口そうな男子生徒もいる。2人は木製ストックのボルトアクションライフルを背負っていた。

「今は一応暇……ですね」

直斗はふと、その女子の方の制服を見た。セーラー服のワンポイントに色があり、それで学年が分かる。彼女は、3年生だった。

「それなら、私達の仕事に付き合ってもらえるかな?もちろん、報酬は渡すよ」

「私は大丈夫よ。直斗は?」

「俺も……そこまで危険じゃなければ」

「なるほどね。あ、自己紹介がまだだったね。私は神崎奈美(かんざき なみ)。こっちが……」

大塚光(おおつか ひかる)だ」

彼、光は奈美を遮るように言った。

「さて、早速仕事についてを話していいかな?」

そう言うと奈美は仕事の内容を話した。

「今回、私達はあるHLを狙撃する予定だ。本来は私達狙撃手の護衛として、2人分隊員を連れて行くんだが、生憎どっちも行けなくてね」

「倉岩の奴はともかく、フユノ先輩は今日見ましたよ?」

「ああ見えて体調が優れないそうだ。察して欲しいな。……さて、どうかな?HLが集まらない限り、激戦にはならないはずだ」

奈美は光から、直斗達に視線を戻した。彼と明里は、それぞれ了承した。


 4人は奈美達のジープへと乗り込み、光の運転で出発した。直斗達が使っているのよりやや大型だ。車載のM2の他に、荷台後方にM1919機関銃が載せられている。光は片手でハンドルを握り、結構な速度で危険区域を走り抜けた。

「光はどんな銃使ってるんだ?」

後部座席の直斗は彼に声をかけた。

「ウィンチェスターM70だ。弾薬は308ウィンの炸薬を増やして弾頭を潰した、308スーパー・マッチ・ハントだ。トリガーも削って軽くしてある。スコープは……」

彼は一方的に話してきた。専門用語が多く分かりづらかったが、物凄い拘りがあることは伝わった。

「彼、ストイックだからね……ちなみに私はKar98kだよ」

助手席の奈美が苦笑して振り向いた。


「先輩、この辺りでしたっけ?」

「そうそう。あのビルだね」

狙撃地点のビルに近づくと、光はスムーズにシフトチェンジし、速度を落とした。そして、ビルの入り口に横付けする。そこはオフィス街だったようで、背の高いビルや、飲食店の廃墟が並んでいる。

「中に入ろう。先は任せていいかな?」

「直斗、行くわよ」

 明里は車から降りるとM16を腰だめにして中に入った。ビルのガラスドアは開きっぱなしになっていた。

「階段は……」

「あれじゃないか?」

直斗は上に登る階段を見つけた。エレベーターを使いたいが、当然電気は通っていない。

彼らは階段で6階まで登った。武器弾薬を持っての6階分は、中々に骨が折れた。


 やがて、屋上に出た。奈美達は依頼されたHLの居場所に目星は付けてあったのか、北と東の2方向に狙撃の準備をした。銃を置くための3脚や、双眼鏡を荷物の中から取り出す。

「そろそろ、教えてくれてもいいんじゃないの?」

準備の終わった光に、明里が言った。今回狙撃目標のHLに付いては、あまり詳しい説明を受けてなかったからだ。

「ああ。ターゲットは4本足で無駄にデカイ。ノロマだが、毒を撒き散らす」

「毒を?」

「神経毒の類いだ。動けなくなったところを、蚊みたいに血を吸うそうだ」

彼が渡した依頼書には、その不気味なHLを捉えた写真が添付されていた。

「対象が大きいから、見つけさえすれば楽なんだけどね」

奈美が双眼鏡を覗きながら言う。直斗と明里も索敵を手伝った。高いビルから見下ろすと、少し先の住宅街が完全な瓦礫となっている事が分かった。

「あの辺、建物がほとんど崩れてますけど何かあったんですか?」

「あれは……自衛隊との交戦の後だね。火砲で廃墟群ごと吹き飛ばしたみたいだけど……奪還は出来なかったらしい」

それを聞くと、直斗はなんだか複雑な気持ちになった。

 その時、直斗は視界の端に何かを捉えた。それは、緑色の車体の戦車だった。

「明里、戦車だ!あのビルの近くに」

「……あれは星道の戦車ね」

「知ってるのか?」

「逆に知らないの?」

星道、というのは県内にある女子校、私立星道女子高校のことだ。宮堀と同じ前線学校だが、女子校である以外に大きな違いがある。それは全国でも有数の、戦車を保有する学校である事だ。

「そこに戦車があるのは知ってる。でも、見るのは初めてだよ」

その戦車は少しすると、建物の裏に入って見えなくなった。珍しさを感じた直斗は、少しがっかりしながらも索敵に戻った。

「ちょっと、あれ!」

隣から明里の声が聞こえた。

「私にも見えたよ。光、こっちだ。ターゲットを捕捉した」

奈美にもそれは見えたようだった。直斗が後からそれを探す。

 見えたのは、5体のHLだった。細長い4本足で、高さは10メートル以上はある。胴体には丸い頭部が付いていて、そこから太く、長い針が突き出ている。恐らく、吸血用だろう。それらはゆっくりと歩き、ビルの影から移動してきた。距離は200メートル程離れているが、巨大であるため、発見は楽だった。

「なんだあれ……」

写真で見るよりもずっと異様な姿をしていた。

「HLはどんどん多様化して、変なのが増えてるって言うからね。見えないけど、あの周りは毒が充満してるんだろう」

「先輩、話してないで仕留めましょう」

「はいはい。2人とも、バックアップは頼んだよ」

 光はビルの端の方に伏せ、奈美は座って3脚に銃を乗せ、狙撃の体勢を取った。ボルトを操作して弾を込める。静かに呼吸をし、照準を合わせる。

「前の2体は俺がやります」

それきり2人の会話は終了した。後ろで見ていた直斗は、2人だけが違う空間にいるように感じられた。それだけ、奈美達は狙撃に集中しているようだった。

「ボーッとしてないで、他の方向見張るわよ」

明里に言われ、直斗は2人から視線を逸らした。

「先にいいかな?」

「どうぞ」

 そんな会話が交わされると、奈美のKar98kが火を吹いた。少し遅れて、光もM70の引き金を絞った。2発の轟音が空気を揺らす。弾丸が正確に頭部を撃ち抜き、組織を破壊する。特に、光の特殊な弾薬はかなりの威力を発揮したはずだ。2人は素早くボルトを操作し排莢、装填を行った。視線の先では2体のHLがゆっくりと崩れ落ちる。それを一瞥すると、また次の2体を狙撃する。今度は光のM70が先だった。そして、最後の1体に2人分の弾丸が命中する。動きの遅い、大きな的を射抜く事は、奈美と光にとっては簡単な事だった。それゆえ、最初の1体が動かなくなる頃には最後の1体が片付けられていた。

 直斗は、以前戦ったオーガの事を思い出していた。確実に頭に当てて、何十発もの弾を受けてもなお、あのHLは暴れ続けていた。

「オーガは頭撃ち抜いても生きてたのに、あの2人はあんなデカイのを1発で仕留めるなんて」

「オーガは特別頑丈なのよ。それに、今倒されたHLは生命力は弱いみたいね」

明里はHLの死体がある方に顎をしゃくった。奈美と光の2人はその死体に向けて銃を撃ちまくっていた。確実にとどめを刺しているのだろう。やがて弾が切れると、クリップを使って弾薬を押し込んだ。

「にしても、随分楽でしたね」

「支援型は特化してるのが多いからね。奴らは毒が厄介だけど、それ以外は大したことないみたいだ」

支援型、という聴き慣れない単語を奈美が口にした。直斗は、そのことに付いてを質問した。

「2年生はまだ習わないんだった。HLの大まかな括りの1つで、味方のHLを助けるタイプの呼び名だよ」

「さっき倒した、毒みたいに?」

「そう。他にも霧を出したり、偵察のような役割をするやつとかもね」

「なるほど……」

「勉強になります」

いつの間にか、明里も真剣な様子で聞いていた。

「ただ、ここらで支援型は珍しいはずだ……」

奈美は顎に手を当てていた。

「珍しいんですか?」

「ああ。この辺りで長らく支援型は目撃されていなかった……。それに、支援型単体での行動は……」

彼女は何か考え事をしているようだった。

「先輩、そろそろ帰りましょう。奴らが集まって来ます」

光に言われると、奈美は「それもそうだね」と普段の調子に戻った。彼女は銃をスリングで背負うと、撤収の準備を始めた。光も同様だ。

 行きと同様、明里と直斗を先頭に階段を降る。登りよりはいくらか楽だった。先にロビーに出た直斗は足を止めた。なぜなら、ロビーの中に2体の人型HLがいたからだ。今はまだ気付かれていない。彼は明里達を手で制した。

「まずいわね……」

「あの2体だけ……な訳無いか」

群れで行動するのが基本のHL。恐らく、建物の周辺に集まっているのだろう。4人は階段出口から様子を伺った。割れた窓の隙間から、数体を視認した。

「私が囮になるから、3人はジープまで走って」

「囮って、相手の数も分からないのに?」

「エンジンがかかるまでの僅かな間だけよ」

「ジープにはM2とM1919マシンガンが積んである。エンジンさえかかればこっちのモンだ」

直斗は難色を示したが、光は同意したようだ。

「先輩は荷台の機銃に付いて下さい。あんたはそのジープまでの護衛だ。いいか?」

光の命令口調に思う所はあったが、代替案は無かった。

「明里、無茶はしないでくれ」

「分かってるわ。……行って」

明里が飛び出すと、「こっちよ!」と叫んでHLの注意を引いた。続いて直斗達がその後ろを通り抜ける。背後から銃声が聞こえた。全力疾走でジープにたどり着くと、光がエンジンを掛けた。車の前後、2方向から人型のHLが迫る。

「そっちは任せた!」

奈美がM1919で後ろの敵を掃射した。直斗は前方のHLを狙う。ギアをローに入れた光も、ホルスターから抜いた大口径拳銃、デザートイーグルで応戦する。

「明里!急げ!」

走り寄る2体の胴体を撃ち抜いた直斗は、ビルの方へ向かって叫んだ。数秒後、彼女が飛び出した。振り返り、腰だめで追尾するHLを射殺する。

「早く車に!」

明里が後部座席に転がり込む。続いて直斗も助手席に乗ると、光が乱暴にギアを繋げ、発進させた。彼は急速にジープを加速させ、座り掛けていた直斗は身体を車体にぶつけた。その間、ずっとM1919の銃声が聞こえていた。やがてHLとの距離が開き、奈美が機関銃の掃射を止めた。

「なんとか、逃げ切れたみたいだね」

奈美は機銃のグリップから手を離した。

「明里、お陰でスムーズに徹底出来たよ」

「あれくらい当然。基本戦術よ」

直斗は明里に礼を言った。行きよりは少し遅く、ジープが街を走り抜ける。

「あいつらの毒も、あと数時間で消えるだろうね」

奈美が先程までいた狙撃地点の方に顔を向けた。

「2人とも今日はありがとう。あの個体はなるべく早く仕留めたかったんだ」

彼女は完全に警戒を解いた様子だ。

「俺からも礼を言う」

光も、前を向いたまま言った。

「役に立てたみたいで良かったです」

直斗は謙遜した。

「あの先輩」

「何かな?」

明里の声に、奈美が顔を上げる。

「上手く射撃するコツって、何かありますか?」

「コツねぇ……」

顎に手を当て、彼女はしばらく考えた。

「練習あるのみかな。銃のクセを掴んで、それを見越して射撃する。風速とか落下分も考慮すべきだけど……アサルトライフルではそこまでは要らないかな」

「狙撃のコツなら俺が教えられる。まずはミルを覚えるところからだがな」

運転しながら、光が静かに口を開いた。

「……彼にそれを聞くとかなり長くなるから、相当の覚悟が必要だよ」

彼の言葉に、奈美は苦笑した。

前線学校で狙撃手を目指す生徒は多数いる。だが、実際に狙撃手として活躍するのはその3割程度と言われている。

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