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放課後遊撃隊  作者: 夜狐
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廃病院

 整備庫のホワイトボード前。ボードに貼られた色々の依頼書を直斗達は見上げていた。

「これはどう?」

「依頼書をよく見なさい。8人以上からって書いてあるわよ」

明里は柑奈から受け取った紙をボードに戻した。

「じゃあこれは?」

「場所が遠いわね。他のある?」

直斗も提案するが、却下されてしまった。こんな調子で4人は今日の仕事を探していた。

「だったらこいつは?場所も近いし、人数制限なし」

直斗が新たに1枚取る。

「廃病院を探索して、使える医療機器が残ってるか調べる……だって」

「廃病院………いいわ。報酬もいいし、これにしましょう」

明里が頷き、雪と柑奈も彼女同様肯定の態度を示した。

「じゃあ、出してくるわね」

明里はその依頼書を持って窓口へと向かった。


 ジープでの移動中、直斗が言った。

「あるか調べるだけで、持ち帰らなくていいのか?」

「ええ。医療機器は大型のものあるからね。私達が調査してちゃんと残っていることが分かれば、後で大部隊が制圧、トラックで回収するらしいわ」

「でも、壊れてたりしたら?俺たちにはそれも分からないし……」

「壊れてる分には直せるそうよ。買い直すよりもずっと安いって」

その病院は車で15分程度の所にあった。直斗 は目的の病院前にジープを止めた。ここは平地であり、すぐ発進出来るようにもサイドブレーキは引いていない。

 その病院は2階建てで、面積は広い方だった。聳え立つその建物からは、異様な雰囲気が感じられた。

「直斗、これ」

明里が何かを渡す。受け取ると、それがビニールテープと小型のライトである事が分かった。

「中は暗いから、銃に巻いておきなさい」

道中で明里はM16のハンドガードにそれを既に巻いていた。柑奈もM2カービンに同じ事をしていた。

「こんな具合か。それより、雪はいいのか?」

「私は巻く場所ないから……」

雪のPPShはライトを巻けそうな場所がなかった。もしバレルジャケットに巻こうものなら、発射時の熱で溶けてしまうだろう。代わりに彼女はマガジンポーチを吊るサスペンダーに、L字型のライトを装着していた。

「2班に分かれて探しましょ。1階と2階で」

明里の提案で直斗達はそれぞれ分かれた。1階は直斗と明里が担当する事になった。4人は正面から病院の中へと入って行った。

 中は薄暗いが、割れた窓からの光で視界は充分にあった。光の届かぬ隅だけ、ライトで照らす。

「廃墟の病院。……肝試しみたいだな」

閑散とした院内は、耳鳴りがする程の静寂に包まれている。残された設備や落ちているガラクタが、ここにかつて人がいた事を示している。元が病院と言うこともあり、長居はしたくない場所だ。

「いつでも襲撃には備えていて」

明里は緊張感のある声で行った。2人はロビーを抜けると、診察室へと向かった。

「ここには置いてなさそうね」

少し調べて、明里がそう口にした。

「だな。診察室は無視でいいんじゃないかな」

診察室には、椅子や簡易ベッド、机があるだけだった。時折医療関係の資料や何かの容器が転がっているが、依頼されていた医療機器は置いていないようだった。

「にしても、いかにも出そうな雰囲気だよな」

念のため診察ベッドのカーテンを開けた直斗が言う。

「本当に出たらどうするのよ……」

吐き捨てるように明里が答えた。今日の彼女はいつもより動きがゆっくりで、肩に力が入り過ぎている気がした。

「……もしかして怖いのか?」

「怖くないわよ!ただ、HLを警戒してるだけ」

乱暴にドアを閉め、2人は診察室を後にした。次に向かうのが、1階の倉庫だった。目当ての機器が1番あると思う場所だ。倉庫には窓が無く、廊下からの明かりと、銃に取り付けたライトだけが頼りだ。倉庫は手前が小物用の棚のあるスペースだ。

「ほとんど空の棚だけか」

「この辺のは持ち出しやすい薬品類だったみたいね。機械は奥の方かしら?」

棚には薬品や注射器、テープやペンなどの備品が時折残っているだけだ。足下の段ボールも概ね同じだった。

少し進むと、本格的な暗闇になった。しかも、部屋が2手に分かれている。

「私は右を調べるわ」

彼女はM16を腰だめにし、暗闇の中へと入って行った。直斗は左の方に進んで、すぐに目当ての機械を見つけた。3脚にモニターの付いた、背の高い機器だ。それが7台ほど端の方に並んでいた。一応ポケットから資料を取り出して確認する。また少し奥に進むと、別の少し大きめの機械を発見した。何に使うのかは分からないが、資料で見たのと同じだった。

 そろそろ戻ろうか、そう思ったその時、明里の悲鳴が聞こえた。直斗は踵を返し、その方向に向かう。

「どうした!?」

滑り込むようにして駆けつけ、銃口を奥の方に向ける。そして、彼も短く声を上げた。だが、もう一度ライトでその見えた物を照らした。

「人体模型か……脅かすなよ……。明里もこれに驚いたのか?」

「ええ……まぁ……」

彼女は目を逸らしていた。その人体模型は人の全身を模したタイプで、高さは直斗達と同じくらいある。それが何体も並んでいるのだから驚くのも無理はない。剥き出しの目がこちらを見ている気さえしてくる。

「あ、この機械はあっちで見つけたぜ」

彼は明里にさっき見つけた機械のことを教えた。

「ええ。……もう少し奥を見てみましょう」

先にはまだ暗闇があり、奥へと続いているようだ。明里は緊張した足取りで奥へと進んだ。右には筋肉と内臓の見れる人体模型。左には、骨格の模型が並べてある。その間を抜けるのは、どうにも気分が悪かった。

 暗がりの中、奇妙な音が聞こえた。ベチャ、ベチャ、という濡れた雑巾を叩き付ける様な音だ。

「なに、この音……」

明里が後退りする。その音は近づいて来ている。直斗はその音の方向、ロッカーの影にライトを当てる。恐る恐る待っていると、光の中に茶色の物体が飛び込む。もう1つ、それとよく似た形の物体が1つめより先に現れる。そして、引きずるようにしてその大元が現れた。それは先程と同じく泥色をした、巨大なゼリー状の生物だった。口を大きく開け、2つの目が黄色に光っている。それは耳障りな咆哮を上げて前足を伸ばして来る。

「なんだこいつは!?っておい、明里!!」

直斗が振り返ると、明里は悲鳴を上げて逃げ出していた。

 彼は纏わり付く恐怖を振り払い、数歩下がってFALを乱射した。発火炎の閃光と銃声の反響で目と耳がおかしくなりそうだった。弾倉を半分ほど使い、引き金から指を離した。その生物は、傷付いた様子を見せなかった。

「銃が、効かない……!?」

ゼリー状の身体にはただ弾頭が埋まっただけだった。背筋に悪寒の走った直斗は、急いで走り出した。後ろから不気味な声が追い掛けて来る。倉庫を飛び出し、廊下に出た。少し先で明里がM16を抱えて待っていた。

「直斗、あいつは!?」

「あいつ、銃が効かない!逃げるぞ!」

ちょうどその時、倉庫の扉を開けてその怪物が現れる。人をそのまま飲み込めるほどの口を開け、直斗達を嘲笑っているようにも見える。2人は廊下を走る。角を曲がると、階段から柑奈と雪が降りて来る。

「今の銃声は!?」

「スライムみたいな化け物だ!!銃が効かない!」

走りながら柑奈に説明をする。

「え?どれどれ?うわ!何あれキモ!!」

好奇心か、柑奈は角から顔を出した。すると、廊下を這うように進むその化け物と目があった。彼女は慌てて直斗達に追いつく。

「任せて」

一方、雪はその場に残った。ポーチからパイナップルに近い形の手榴弾を取り出し、素早くピンを抜いて投げつける。手榴弾が標的の目の前に落ちたのを確認すると、すぐに近くの壁に身を寄せた。

 数秒後に爆発が起こり、周囲の空気が揺れるのを感じた。爆風で近くの窓ガラスが割れ、周囲にガラスや手榴弾の破片が飛び散った。雪は怪物の様子を覗く。その怪物は至近距離で爆発を受けていた。その爆風で顔に当たる部分は潰れていた。しかし、依然として大口を開け、黄色の眼を光らせている。

「うそ……」

手榴弾も通用しないと分かると、彼女は全速力で距離を取り、様子を見ていた直斗達を追い越した。

「ダメ。手榴弾も効かない」

「どうすんのよアレ!?」

「とにかく今は逃げるぞ!!」

彼らは走り出し、エントランスから外に出た。あの怪物も時期に追ってくるだろう。

「ねぇ、これで蜂の巣にしようよ!」

柑奈が停めてあったジープに乗り、M2機関銃に飛び付いた。

「奴には手榴弾も効かなかった。口径が変わっても同じだと思う」

「じゃあどうするのよ!?このまま放っとく訳にもいかないし……」

明里は病院の入り口に銃口を向けたまま叫んだ。

「だから今からそれを……」

ふと、ジープの荷台が目に入った。そこにはいくつかの箱や雑嚢が載せられている。この中に使える物がないか、手当たり次第に開け始めた。

「あいつもHLだろ?何か弱点があるはずだ!」

箱や雑嚢からは応急処置セット、ロープ、信号用のラッパなどが出て来た。だが、使えそうなものは見つからなかった。

「雪、何かあったか?」

「今探してる」

「奴が来たわよ!急いで!」

警戒をしていた明里の声に振り返ると、エントランスからそのHLが這い出たところだった。外で見ると、その泥色の体表や粘液がよく見え、尚更気色が悪かった。ちょうどその時、直斗は信号銃を見つけた。そして、あることを閃いた。

「こいつでいけるかも知れない!」

筒に撃鉄とグリップを取り付けたようなシンプルな信号銃と、それ用の弾を数発持って荷台から飛び降りた。

「信号銃なんかでどうする気!?」

「そうだよ!榴弾なら吹き飛ばせるかもだけど……」

明里と柑奈は止めようとするが、直斗は中折れ式のそれに信号弾を装填、撃鉄を起こした。

「信号弾は弾が燃えて光るだろ?それを奴の口の中に撃てば……」

「……!確かに、内側から燃やせば効果は期待出来るかも」

明里も彼の作戦を理解したようだった。直斗はHLの前に膝撃ちの姿勢で信号銃を構える。片脚は曲げて地面に付け、なるべく身体を安定させる。本来信号弾は上に撃つものだ。標的を狙う物ではない。だから、照準器が付いていない。彼は自分の勘を頼りに狙いを定める。そして、引き金を絞った。

 乾いた破裂音と共に赤く光る弾が発射された。それはHLの上顎に当たり、地面で光を放ち続ける。

「外したか……」

直斗は弾を装填し、2発目の用意をした。精度を上げるために、HLを引きつける。それは直斗を丸呑みにしようと、大口を開けて迫って来る。先程よりやや下を狙い、引き金を絞る。今度は真っ直ぐに、赤い閃光が口の中に入った。闇のような口内から赤い煙が上っている。

「これでどうだ……!?」

息を飲み、HLを見つめる。すると、突然甲高い奇声を開げて苦しみ始めた。身体を揺すり、前足を振り回して、吐き出そうとする仕草をしている。

「効いてる!!」

柑奈が歓声を上げた。直斗は3発目を装填し歩いてHLに近づく。悶絶しているその口に近距離から撃ち込んだ。灼かれる箇所が増え、HLは更にもがき苦しんだ。

「上手くいったみたいだ……」

「ええ。あとは力尽きるのを待つだけ。……いい判断だったわね」

直斗と明里はそのHLを見ていた。燃え続ける弾体を吐き出せず、息絶えるのも時間の問題だろう。ふと、雪がHLに近づいた。右手には小さな箱を持っている。

「おい、あんまり近づくと……」

直斗が注意するより先に、彼女はその箱をHLの口の中に投げた。すると小さな爆発が起こり、HLの一際大きな悲鳴が響く。爆発で頭部が裂け、そこから煙が上っている。

「ねぇ雪、何を投げたの?」

「予備のガソリン。空き箱に少し移したの」

「どうりで火が強くなった訳だな……」

柑奈に聞かれ、彼女は平然と答えた。雪がガソリンを投下したこともあって、少しするとHLは身体を折るようにして崩れ、そのまま動かなくなった。辺りになんとも言えない異臭が立ち込める。

「なんだこの臭い……」

「HLの焼ける臭いでしょうね。あまり嗅がない方がいいわよ」

直斗と明里、そして柑奈は撤収の準備をしていた。雪だけは鼻をハンカチで押さえながら、小さめの容器に入った燃料を、HLの亡骸に少しずつ掛けている。完全に焼却するつもりなのだろう。

「雪、危ないからそろそろ戻りなさい」

「……分かった」

炎が少し広がったのを見て、彼女は踵を返してジープに乗り込んだ。全員の搭乗を確認すると、直斗はエンジンを掛け、車を発進させる。


 「帰ったら報告書の作成、手伝ってよね」

「報告書?」

「珍しかったり、強力なHLを見つけたら報告の義務があるの。特徴とか、どうやって倒したかとか」

「なるほどな」

直斗は運転しながらあのゼリー状のHLのことを思い出した。あれは銃弾の効かない、中々厄介な相手だった。あれに飲み込まれた事など、想像もしたくない。

「そう言えば明里、あいつを見た時真っ先に逃げてたよな」

「えっと……」

「それ聞いて思い出したんだけど、前に任務で夜のお墓行ったとき……」

柑奈の台詞を明里が遮る。

「その話は関係ないでしょ!それに、あの時は安全な距離を取っただけよ!初めて見るタイプなんだから、それが得策でしょ!」

「もしかして明里って、幽霊とか苦手な……」

「そんな訳ないわよ!そんなの、全然怖くないから!」

彼女は顔を真っ赤にして、直斗の言葉を否定した。

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