新たな前線、偵察任務
いよいよ最終話です。
2週間が過ぎた。寒空の下で、直斗はトラックから弾薬箱を下ろした。そしてそれを指定の場所まで運ぶ。それを何度も繰り返す。重機関銃の弾は重く、戦闘とは違う意味での重労働だった。
「手伝ってくれてありがとうね。こういうのは総務科の仕事なのに」
「いいんだ。暇してたからな」
隣で作業していた、黒髪の見知らぬ少女が礼を言った。恐らく同級生だ。拠点整備の仕事を、手持ち無沙汰だった直斗は手伝っているのだ。
「あれから、もう1年か……」
少女は機関銃の隣で、前線のある廃墟の街を見ていた。
「あれからって?」
「吹雪作戦。私は良い思い出ないけどね」
直斗達がコマンダー、そしてその取り巻きの群れを殲滅してからHLの動向は静かになった。これを好機と見て、約2週間後には延期となった大規模作戦が発動された。吹雪作戦の失敗から、今回は制圧した拠点の堅守に力を注いだ。HLの抵抗は予想より小さく、作戦は拍子抜けする程簡単に達成された。街を取り戻したのだ。制圧した範囲は吹雪作戦に劣るが、防衛力は遥かに高い。ここを足掛かりに、更なる土地の奪還が目指されるだろう。今もそれを固めるために拠点が作られており、戦闘を主としない総務科を始め警備科、その他暇な生徒が動員されていた。拠点はただ掘っただけの塹壕ではなく、テントまで備えてある。プレハブ小屋やトーチカを作る計画もあるようだ。重砲も運び込まれ、次なる作戦の下地が整えられつつある。
直斗はコマンダーを撃破したことについては伏せておいた。遊撃科は自由度が高いが、あの作戦は少々規模が大き過ぎた。それに星道も勝手に行動した訳であり、黙っていた方が色々と都合が良かったからだ。しばらくは拠点の構築がメインになるだろう。遊撃科も次の前線の様子が分からない以上、慎重な行動をする様に言われている。
「荷物はさっきので全部か?」
「うん、後はこっちで運んどくから、もう大丈夫だよ。本当にありがとうね。色々と」
「気にするなよ」
直斗は彼女に手を振ると、他の場所で作業している明里の方へと向かった。去り際彼女の方を見ると、近くの土嚢にSIG551ライフルが立て掛けてあるのが見えた。
明里の方も作業に区切りが付いたようだ。
「お疲れ」
「テント立てるのって、案外疲れるのね……」
明里は土嚢に座ると水筒の水を飲んで一息吐いた。
「終わるとさ、案外静かなものなんだな」
「こういうもんじゃないの?でも、これは足掛かりに過ぎないのよ」
「分かってるよ。まだまだ取り戻す場所は多いからな」
かつてHLの襲撃を警戒していた場所で、ここまで気を抜いて作業出来るとは思わなかった。その事実が、改めて奪還に成功したことを感じさせた。2人が話していると、1台のジープが向かって来た。やや運転に慣れていない様子だ。
「2人とも!新しい仕事持って来たよ!」
柑奈が運転席から降りた。助手席には雪がいた。柑奈は手に依頼の書かれた紙を持っている。直斗と明里ぎそれを覗き込む。
「最前線での偵察か……」
「そ。未知の領域に何があるか、ビデオカメラで撮って来るんだって」
「つまりは先駆けになれるってこと」
「私達にピッタリの仕事じゃない?」
柑奈と雪の2人が説明した。直斗と明里は顔を見合わせた。当然、断る理由はない。
「とりあえず、学校まで戻るぞ。装備を整えないとな」
武器や弾薬、偵察用の大型カメラや3脚やらを車に載せると、直斗はジープを走らせた。新しい前線を抜けると、広い道路があり、背の高いビルも多く見える。前線から少し離れたこの辺りの地点は拠点設営には向かいないため、放置されている。それでもHLを野放しにはせず、定期的に巡回をしている。時折HLは見かけるが、すぐに倒されるので大きな問題にはならない。目指すのはその区域の1番端だ。この辺りは初めて訪れる場所だった。
「あのマンション良さそうじゃない?」
明里が指を差した。車を止めてその方向を見る。細長いビルが立っていて、外階段があるのが見えた。これならHLがいるか分からない、建物の中に入らずに済む。高さも充分だ。
「あそこにしよう。車停めるぞ」
直斗は路上にジープを止めた。帰りにすぐ出られるよう、車の頭を道路に向けておく。
「これ、手伝って」
雪は荷台から大きなビニールシートを取り出し、車体に掛けようとしていた。
「あの溶かすやつがいるかもだから」
「アシッドか。確かに厄介だよな」
直斗は彼女を手伝ってシートを掛けた。正直どの程度効果があるか分からないが、気休め程度にはなる。それが終わると、マンションの非常階段へと向かった。
「鍵は?」
「空いてるわね」
入り口には鉄柵があったが、少し押すと簡単に空いた。4人は屋上を目指して階段を登る。廊下に面した部分は銃を向けて確認するが、HLは見えなかった。
階段を登り切り、屋上へと辿り着いた。直斗は奈美と光の狙撃を手伝った時のことを思い出していた。あの時も階段でひたすらビルを登っていた。今いるマンションは周囲の建物の中でも高い部類に入り、街の様子がよく見えた。
「疲れた……ちょっと休憩……」
柑奈が座り込んだ。階段でここまで登るのは中々に疲れた。
「休んでていいわよ。カメラ、設置しよ」
明里と直斗は荷物を開き、カメラの設置を始めた。テレビの撮影でも見かける大型のモデルだ。雪は既に双眼鏡で偵察していた。
「もう撮れてるのか?」
「ええ。雪は何か見つけた?」
直斗はカメラを覗き、廃墟の街を移した。まずは端から端まで、ゆっくりと撮影する。ビルや店の多い地域がしばらく続き、その先には住宅街が広がっている。端の方には太い道路と田畑の跡が見えた。現状、ありふれたHLしか見えない。
「薬局みえる?緑の看板の」
「薬局?住宅街のか?」
雪に言われ、直斗はその看板を見つけた。
「そこから奥の方に見ていって」
カメラをズームさせつつ動かした。
「見えた。HLの群れだ……何だあれは……」
「何?どうかした?」
明里にカメラを譲った。
「普通の人型なんだけど、大きくないか?車と比較してみてくれ」
「そうね。明らかに大きい……」
その場にHLがいることは珍しくない。だが、総じて大きさがこれまでの個体より大きかった。また、滅多に見ない姿や、初めて見る姿のHLも確認出来る。
「うわ、あそこデカいやついるよ」
柑奈が言った方向にカメラを向ける。住宅地を窮屈そうに歩く像のようなHLを捉えた。他にも、至る所でHLが徘徊していた。
「まさに魔窟って感じね」
明里が呟いた。
「あそこを落とすのは難しそうだな。でも、やるんだろ?」
「当然よ。そのために銃を取ったんだから」
困難な戦闘になると分かっていても、明里の士気は高いままだった。直斗は雪と柑奈の方を振り返る。
「ここまで来たんだもん。この先もやるに決まってるよ。ね?雪」
「同じく。この前のショットガンももっと撃ちたいし」
2人もまた、戦う気持ちは充分に持っていた。
「そう言うと思ったよ。俺も遊撃科に移ったんだ。精一杯戦ってやるさ」
直斗も、目の前に広がるHLの領域を前に宣言した。
「まずはこの情報を持ち帰る。そして、明日からでも始めよう」
冬の真ん中の、冷たい風がビルの上を吹き抜け、4人の髪を撫でた。
最後までお付き合いありがとうございました。
1年以上も書いていたとなると感慨深いですね。この世界観は気に入っているのでセルフスピンオフものちほど書く予定です。
次回作もなるべく早く投稿しますので、お付き合い頂ければ幸いです。
改めてありがとうございました。また次回作でお会いしましょう。




