決戦
もう2月ですが、明けましておめでとうございます。新年早々私生活が忙しく、気付いたら2月になっていました。残すところ後2話です。最後までお付き合いください。
翌日直斗達はドリームモール正面、以前狙撃に使った場所へと到着した。彼らのジープの横には、奈美達4人、そして和也率いる特殊科5人の乗った車がエンジンを切って停まっている。この日は、全員が小型無線機を携行していた。
「今日はよろしく頼むよ」
「こちらこそ。ありがとうございます」
直斗は奈美に礼を言った。少し離れた場所で、スコープを覗いていた光が口を開く。
「見えました」
彼の示す方向から、エンジン音が聞こえる。
緑色の戦車が4台、横並びで向かって来る。双眼鏡で覗くと、中央の2台に4人ずつ星道の生徒が乗っていた。戦車が停車すると、星道の生徒達は整列した。ハッチから車外に出た玲花が前に立つ。
「戦車4台、随伴歩兵8名、到着しました」
「来てくれてよかったよ。歩兵までいるなんてね」
「私の勇敢な同志達だ」
玲花とは別の戦車のハッチから顔を出し、アリナが誇らしげに答えた。
「さて、全員集まったな。作戦を説明する」
周囲を見渡し、直斗は言った。
彼は自分ドリームモールを見ながら説明を始めた。
「今いる位置と、建物右側面から同時に攻撃する。それぞれに戦車2台ずつだ。ある程度片付けたら、宮堀が建物に突入する。星道にはその間周りを警戒していて欲しい」
「了解しましたわ。攻撃中、周囲の見張りは……」
「この辺りはHLが少ない。でも、一応2人ずつくらいいるといいかな。万が一集まって来たら、その都度対応して欲しい」
玲花続いて光が質問した。
「もし探してるHLを見たら?」
「すぐに連絡して、逃さないようにしてくれ。仕留めても構わない」
「……HLを皆殺しにして、そいつが居なかったら?」
「そうならないことを願うが、最低でもHLの巣を1つ潰したことになる」
直斗は最後までそこが気掛かりだった。だが、この規模のHLを殲滅出来れば、作戦に見合うだけの戦果にはなるだろう。そう思うようにしていた。結局、最後はコマンダーがいるか、賭けになってしまう。
「……それじゃあ持ち場に着いてくれ。和也達は星道と一緒に側面を頼めるか?」
「ああ。喜んで」
ブリーフィングが終わると、それぞれが無線機のチャンネルを合わせ、車や戦車に乗って移動をした。直斗も、ジープをM2が使いやすい位置に動かして止めた。
「全員、配置完了しましたわ」
直斗の側に残った戦車から降り、玲花が言った。
「了解だ。それじゃあ信号ラッパを合図に始めてくれ」
そう伝えると直斗も射撃位置に着いた。伏せ撃ちの姿勢でFALを構える。足音がして顔を上げると、奈美が近くに立っていた。
「先輩、何か?」
直斗は立ち上がった。
「攻撃を始めれば、HLは押し寄せてくる。建物の中が見えたけど、かなりの数だ。どちらかが全滅するまで続くだろうね。それでも、やるのかな?」
いつもと変わらない、だがその言葉重く感じた。「やります」と簡単には言い切れなかった。しかし、
「今更引けません。奴らを全滅させます」
眼を見て、強く言い切った。
「聞くまでもなかったね。じゃあ、いつでもいいよ」
そう言うと彼女は持ち場へと戻った。直斗は大きく息を吸うと、伏せずに右手を高く上げた。それを見て、柑奈がラッパを口に当てる。
直斗が右手を振り下ろすと、高らかにラッパの音が響いた。それを合図に、あらゆる銃器が一斉に火を噴いた。大気を揺らす程の轟音だ。HLはショッピングモールから飛び出すが、すぐに弾幕によって薙ぎ倒された。銃の発砲音の間を縫って、戦車の主砲が轟音と共に砲弾を撃ち出す。榴弾が炸裂し、入り口の1箇所が崩壊した。
「あまり建物に当てないように伝えて欲しい!中に入れなくなる!」
直斗は無線機で玲花に伝えると、FALで突進する人型を狙い撃ちした。戦場を見渡すと、大柄な個体が目立つ。アーマーやオーガの姿も見える。だが、建物から出るHLの進路は限られ、現れたらすぐに射殺されている。建物の入り口近くは死体が山のように積み重なっていた。
僅か5分ほどでHLは全滅した。しかしどこからもコマンダーを見た報告は届いてない。直斗はジープの運転席に座ると、ゆっくりと建物の方へと車を進めた。奈美と和也のチームも内部へ入るために前進をしていた。彼らはそれぞれ2階と3階を担当する。
「地獄絵図ね……」
車から降りると明里は顔を顰めた。辺り一面に無残な肉片となったHLが転がっているのだ。無理もない。
「ここを通るの!?」
入り口を指して柑奈が叫んだ。個体の判別の付かなくなった死体が折り重なっている。
「ここ、開いてる」
雪はそう言うと、喫茶店らしき場所の窓ガラスを手に持った散弾銃の銃床で割った。いつものPPShは背中に背負っていた。残った破片も破り、中へと進入する。
喫茶店内は意外にも綺麗だった。薄暗い店内を抜けると広い廊下へと出た。窓が少ない分、不気味な暗さに包まれている。
「アイツが巻き込まれて死んでないといいけど。私がやるんだから」
明里はM16を腰だめにして先頭に立った。先程の戦闘の激しさもあり、異様な程静かに感じる。直斗は壁に貼られたポスターが目に入った。イベントの告知だが、もう何年も前の物だった。落ちているゲーム機や飾られたままの商品が、ここが長らくHLの巣になっていたことを物語っている。直斗は暗がりの中に何かが動く気配を感じた。
「止まれ」
彼はそう指示し、奥の方に眼を凝らした。すると、暗闇の中から何かが現れた。2体の狼型のHLだ。素早く、真っ直ぐに向かって来る。
「任せて!」
柑奈が前に飛び出すと、M2カービンで2発ずつ撃った。横転した体の頭を撃ち、息の根を止める。
「まだ全滅してなかったのね」
明里は死亡を確認するために振り返った。
「ああ。アイツも無事だったみたいだ」
そして、直斗のその言葉で前に向き直った。
薄暗い廊下の先、確かにその姿を認めた。コマンダーだ。歓迎するかのように、その場に立っていた。
「ようやく見つけたわよ……」
明里は口角を上げると、グレネード ランチャーに弾を込めた。
「作戦通りにやるぞ……撃て!」
直斗の合図で、彼女は榴弾をを発射した。足元に着弾したそれは爆炎を巻き上げた。煙が収まると、雪が前に飛び出した。彼女は散弾銃、モスバーグM500を発砲した。銃口から火の塊が撃ち出される。続けて5発、前進しながら炎を浴びせる。
「何よその弾!?」
「ドラゴンブレス弾」
それはショットガン用の焼夷弾だ。激しく燃焼する弾はコマンダーの体に火を付けた。悶え苦しむそのHLに、彼女はPPShを乱射して追い討ちを食らわせる。
「畳み掛けるぞ!」
直斗はそう叫ぶとFALを連射した。明里、柑奈もそれに続く。
全員の弾倉が尽き、発砲音が止んだ。コマンダーは倒れたまま動かない。
「流石に死んだか……?」
直斗はゆっくりと近付く。その時、コマンダーの腕が急速に動き、直斗の身体を弾き飛ばした。
「まだ生きてる!!」
そう叫んだ柑奈も、長い腕で薙ぎ払われた。
「この……」
雪はマガジンを変えたPPShで応戦するが、コマンダーは撃たれながら強引に彼女を殴った。彼女は商品の山を崩して店内へと飛ばされた。直斗が立ちがると、明里が銃剣を手に持って距離を詰めようとしていた。長い腕の攻撃を掻い潜ろうとするも、それは至難の業だった。直斗もコンバットナイフを抜いて加勢した。先程は不意を突かれたが、用心すれば避けれないことはない。しかし、攻撃を当てるとなると……。
「近付かせないつもりね……」
銃で撃てば早い話だが、弾倉を変えている間に袋叩きにされてしまうだろう。それを知ってか、コマンダーは絶えず長い両腕を振り回している。
突然銃声が響き、コマンダーの攻撃が一瞬止んだ。見れば、柑奈がM2カービンで援護射撃をしてくれた。
「今のうちに!」
直斗は叫ぶと駆け出した。明里も後に続く。2人の前に影が飛び出した。横の店に放り込まれた雪は物陰を伝って、コマンダーの死角からナイフで襲い掛かったのだ。胴体にしがみ付き、何度も刺突している。コマンダーの注意は完全に彼女に向いた。その隙に直斗と明里はそれぞれの獲物を思い切り突き刺した。明里は更に素早くベレッタM9を抜くと、頭部を撃ち抜いた。弾倉が尽きるまで連射する。すると、コマンダーは耳障りな甲高い悲鳴を上げて物凄い速さで逃走を図った。建物の外に出たのか、激しい銃声が聞こえる。
「俺たちも外に出る!撃つのをやめてくれ!」
直斗は無線機で叫んだ。銃声が止むとコマンダーを追って外へ飛び出した。すぐ間の前に、1台の戦車が滑り込んで停まった。ハッチから玲花が顔を見せる。
「HLは地下道の方へ逃げましたわ。どうぞ戦車の上へ」
「助かるよ」
直斗達が戦車に乗ると、エンジンを唸らせて発進した。
戦車は大通りの下を通る、地下道の入り口付近で停車した。
「中に入る。出口を固めてくれ」
「了解しましたわ。ご武運を」
そう伝えると、玲花の車両は去って行った。直斗は地下道の入り口を見つめた。暗闇が口を明け、中から冷たい空気が漏れ出ている。
「接近戦ね。拳銃の方が良さそう」
明里はM16を置いてM9の弾倉を変えた。直斗と柑奈も拳銃やナイフを構える。雪だけは散弾銃に弾を詰めていた。
「行くぞ……」
直斗と雪を先頭に、4人は地下へと足を踏み入れた。
地下道は冷たく、闇に包まれていた。先頭に立った明里が、小型のライトで道を照らしている。地下道は長く、出口の光は点にしか見えない。
「ゴミばかりね……」
風に流されて来たのか、段ボールやゴミ袋が散乱している。
「見て、これ」
柑奈が道の右端をライトで照らした。そこにはボロ布が敷かれ、近くに空の缶詰やスプーン、毛布が置いてあった。
「随分前に、誰かいたみたいだな……」
直斗は前に向き直った。その時、前方のゴミ袋の山が動き、影が飛び出した。
「来るぞ!!」
4人は一斉に撃ち出した。影が目の前で倒れる。
「アイツじゃない!!」
明里が叫ぶ。倒れていたのはごく普通の人型だった。次の瞬間、ゴミの山を蹴散らしてコマンダーが飛び出し、明里に掴みかかった。明里は首を絞められ、壁に叩き付けられる。
「この野郎!!」
直斗は2人の間に割って入り、コマンダーの腕をナイフで無我夢中に引き切った。HLは腕を離して距離を取った。直斗はそこにブローニングハイパワーの全弾を撃ち込んだ。後から柑奈と雪も銃を乱射し、明里も首を押さえながらM9を連射する。4人はマガジンを変え、何発も撃ち続ける。
「もう死んでるよ!」
柑奈がそう言うまで、発砲は続けられた。コマンダーはコンクリートの上に倒れ、動かなかった。雪が死体を蹴り、2発撃ち込むも反応はなかった。しばらくは全員耳鳴りがして互いの声もほとんど聞こえなかった。やがてそれが軽くなると明里が言った
「今度こそ死んだみたいね」
「ようやくか……。明里、首大丈夫か?」
「少し絞められただけよ」
彼女の首には痕こそ残ったが、それ以外は平気そうだった。
「死体はどうする?」
「念のため外に持って行こう。手伝ってくれ」
直斗はコマンダーの脚を持って引き摺った。
「標的を倒した!繰り返す、標的を倒した!」
外まで死体を運ぶと、直斗は無線機を使って全体に伝えた。ようやくだ。彼は達成感で思わず叫んでしまった。その連絡を受けると、死体を一目見ようと星道の生徒が集まって来る。
「どうやって倒したの?」
「とにかく撃ちまくった。それだけだ」
「これ、もう動いたりしないよね?」
「多分な。ここまではピクリともしなかった」
彼女達の質問に答えていると、クラクションを鳴らして軍用車が2台向かって来る。
「倒したみたいだね」
「所詮はHL、不死身じゃねぇんだな」
先頭の車からは奈美と光が降りた。そして、後続からは
「やったな。祝いにメシでも行こうぜ」
和也が降り、直斗の肩を叩いた。
「ああ、そうだな」
戦いが終わったことを実感し、直斗は疲れを感じた。頭も身体も、ここまで使ったのは初めてだった。その時、彼は鼻に付く臭いを感じた。見れば雪がコマンダーの死体に携行缶に入った予備の燃料を掛けていた。
「念には念を入れて。……だめ?」
「……このまま放置するのも何だしな。いいぞ」
彼は呆れつつも、皆に後ろに下がるように言った。やがて周りの安全を確認すると、雪はM500に1発だけ焼夷弾を込め、死体に着火した。小さな爆発が起こり、燃え上がる。直斗は廃病院での戦いを思い出した。その場の皆がコマンダーが燃えていく様子を見ながら、戦いの終結を実感していた。特に、明里はずっと炎の中を見つめていた。
「諸君、喜びたい気持ちは大いに分かるが、これはあくまで非公式な作戦だ」
不意にアリナが割って入る。彼女に言われてその事を思い出した。
「今回のことには私からも感謝をしたい。これで我々も動きやすくなる」
「俺達の方こそ助かったよ」
「また何かあったら言ってくれ」
アリナはそう言うと戦車に乗り込み、星道に撤収を促した。
「直斗さん」
去り際に玲花が呼びかける。
「また、どこかでお会いしましょう」
「ああ。どこかでな」
彼女も戦車に戻ると、仲間を引き連れて去って行った。
「俺たちも帰ろうぜ」
「もう少し残るよ。店が決まったら連絡してくれ」
和也に誘われたが、直斗は残ることにした。危険区域ではあるが、火を付けたまま帰るのはどうにも気が引ける。
「それじゃあ、私達も撤収するよ。長居すると、HLが集まるから気を付けてね」
奈美達も車へと乗り込み、早々に走り去った。後には、いつもの4人が残る。
「終わったわね」
「本当にな」
静寂に包まれる中、直斗達はコマンダーを包み込む炎を囲っていた。
「ありがとね。付き合ってくれて」
明里は目を見て礼を言った。戦いの終わりを実感すると、一気に疲れが押し寄せた。4人はその場に座り込んだ。
「でも、まだ終わった訳じゃないのよね」
「ああ。今度こそ取り戻すんだ」
直斗と明里は次に待つであろう戦いに向けて、炎を前に決意を固めたのだった。




