決戦準備
家に帰った直斗はあのHL、コマンダーと呼ぶことにしたHLを倒すのか考えを巡らせていた。対物ライフルの連射にも耐える再生能力があるから、ロケットランチャーでも1発では仕留められないだろう。仮にそれで動かなくなったとしても、確実に死亡を確認したい。そうなると群れが厄介だ。今回は上手く逃げられたが、下手をすればあの大群を学校まで引き連れて帰ることになる。つまりコマンダーを倒した上で群れも殲滅する必要がある。
「4人だけじゃ無理だろ……」
直斗はベッドに仰向けになった。4人で無理なら、部隊を編成するか?とも考えたがそれも現実的ではない。直斗はありふれた遊撃科の生徒に過ぎない。人員集めは難しく、時間もかかる。しかし大規模作戦に備えてどうにかコマンダーは無力化したい。その作戦でコマンダーを倒すことも考えたが、ただでさえ延期になった作戦を、延期・変更させるようなこともしたくなかった。コマンダーとあの群れさえ倒せば、不安要素はかなり減るのだ。しかし……。彼は八方塞がりを実感した。そして、一旦それは考えないことにした。だが、今度は明里の話を思い出してしまった。吹雪作戦でのことだ。彼女の話を聞いて、直斗はこれまでの明里の行動の理由が分かった気がした。会ったばかりのころ、彼女は闇雲に突っ走っている印象があった。だがそれも、吹雪作戦の時に自分の非力さを痛感してのことだったのだろう。しかし、最近の彼女は直斗達を信用して、背中を預けてくれているようだ。
直斗自身も、自分の変化を感じた。ただ何となく戦っていただけの自分が、今はこうして大きな作戦を立てようとしている。しばらく戦いの中での思い出を振り返っていた。そして、彼は思わぬ盲点があったことに気が付いた。この状況を打開する可能性を見つけたのだ。
休日、直斗と明里は街中の喫茶店に来ていた。
「先に着いたからもう店にいるってさ」
直斗は携帯の画面を明里に見せると、店の中へと入った。落ち着いた雰囲気の店内を見渡すと、窓際の席で手を上げる人物がいた。2人はその席へと向かう。
「すみません。早く着き過ぎてしまって……」
そう言う人物は、星道の白川玲花だ。私服で会うのは初めてで、新鮮な印象だ。その隣に座っていた金髪の人物は、確かアリナという生徒だ。だが、彼女に連絡はしていないはずだ。
「同胞とは言え、隊長を1人で行かせるわけには行かなくてな」
「彼女、どうしても付いて来ると言っていて……」
「いいんだ。じゃあ早速始めてもいいかな?」
直斗と明里は向かい合う席に座った。話を始める前に玲花が言った。
「その前に、まずは何か頼むのがマナーですわよ」
4人はそれぞれ飲み物とスイーツ類を注文した。そしてようやく、直斗は本題を伝えた。
「そう言う訳で、ドリームモールを落とすのに協力して欲しいんだ」
「なるほど。あの場所を落とせば我々にもメリットはあるな」
アリナは肯定的だった。あのショッピングモールは宮堀の担当地区だが、星道との境目に近かった。彼女の話では星道からすると、厄介なHLの巣窟であるが、管轄地域の問題で攻撃出来ずにいたと言う。
「あの場所は何度か偵察で訪れたことがあります。その度に大規模な群れが観測されていますので、ずっとそのHLは居ると思いますわ」
玲花は否定的ではないが分かりやすく肯定の言葉は言っていない。
「なるべくそっちの都合に合わせる。俺たちはあのHLを倒せればいいんだ」
「私からもお願いします。戦車の火力があれば、有利に進められんです」
明里も真摯な口調で言った。それを聞いて玲花はしばらく考えているようだった。
「……質問ですが、そちらは何人参加される予定ですか?」
「……8人だ。もう少し増える可能性もある」
玲花はまた考え込んだ。
「2台だけでは厳しそうですわね……。私の指揮下の戦車は4台あります。ですが、4台全てを動かして、歩兵も加えた作戦となりますと学校側に承認を得る必要が……」
「どれくらいかかるんだ?」
「少なくとも1週間は……。負傷や行方不明のリスクを減らすために、勝手に作戦は行えないことになっていますの。他校との合同となると更に……」
簡単にはいかないか。星道は宮堀よりも規則が厳しいと聞く。ある程度予想はしていたが、実際に聞くと落胆せずにはいられなかった。
「なら非公式で行えばいい」
そう言ったのはアリナだ。
「非公式で?」
「ああ。部隊として引き連れるなら隊長の責任になるが、自己責任の集まりなら別だ。小規模での偵察と訓練なら自由にやれるだろう?」
「それは確かに……」
「玲花と私の戦車、それに私の勇敢な友人の車両2つで、『偶然合流したから攻撃した』ことにすればいいんだ。どうだ?」
「貴方という人は……」
玲花は得意気な彼女に呆れている様子だった。
「我々は個々に巡回、あるいは訓練中に合流、更にはドリームモール攻撃を計画する宮堀と偶然出会い、現場判断・自己責任で攻撃した……。このシナリオでどうだ?」
「……それなら数日以内に可能ですわ。作戦の方、よろしくお願いします」
アリナに呆れつつも、玲花は首を縦に振った。
「本当か!助かるよ!」
直斗と明里は歓喜のあまり立ち上がりそうになった。
「おっと、これは密約だぞ?くれぐれも内密にな」
アリナはそんな2人をたしなめ、不敵に笑った。
玲花達と別れ、2人は店を後にした。
「さっきこっちが8人て言ってたけど、私達4人の他に誰がいるの?」
「言い忘れてたな。奈美先輩と冬乃先輩、それから光と大和だよ」
「え!?いつの間に!?」
驚きで明里が大きな声を出した。
「昨日相談持ちかけたら乗ってくれてね」
昨日、直斗は彼女ら4人に声を掛けた。すると彼女らは「前回の借りがある」ということで快諾してくれたのだった。
「この後、和也も誘うつもりだ。日時が合うといいけど……」
「いつの間にそんな……。でも、これで心強くなったわ」
「後は、俺たちでコマンダーをどう倒すかだ。この事は明日、4人で話し合おう」
仮に他のHLを殲滅出来ても、コマンダーを倒せなければ意味がない。戦車砲を撃ち込むことも考えたが、建物の中に逃げられる可能性も考える必要がある。つまり、結局は銃かその他近接武器で殺すことになるだろう。
翌日、今度は雪と柑奈も入れてコマンダーの倒し方を考えた。だが、必要な物はわかっている。より高い殺傷能力を持つ武器だ。4人はショッピングモール内の鉄砲店に来ていた。
「弾は可能な限りホローポイントね。私はランチャーと銃剣、どっちを付けた方がいい?」
「そうだな……ランチャーで頼む。先に爆破して、回復する前に距離を詰める」
明里に続いて柑奈が言った。
「私はカービンとUZI、どっちかな?」
直斗は少し考えた。そして
「カービンで頼む。万が一に備えて、狙撃のバックアップは欲しいからな」
「分かった!乱射も出来るように弾沢山買っておくね!」
「雪はいつものPPShでいいよな?接近戦なら強力だ」
直斗が雪の方を見ると、彼女は首を横に振った。
「これ、どう思う?」
そう言うと彼女は携帯の画面を見せて来た。直斗はそれを見た後、明里と柑奈に渡した。そこには12ゲージの弾らしき物が映っている。
「なんだこれ?ショットガンの弾か?」
「……使ってからのお楽しみ」
質問しても、彼女はそれ以上答えなかった。
更に翌日、この日は学校のある日だ。直斗は朝、教室で和也に話しかけた。
「なぁ和也、今週暇か?」
「放課後ならな。遊びの誘いか?」
「今実は大きな作戦考えてんだけどさ、どう?」
直斗は神妙な様子で伝えた。和也もそれを察する。
「……詳しく話してくれ。何するつもりなんだ?」
直斗は彼に作戦の内容を伝えた。すると
「いいぜ。特殊科は遊撃科より実戦投入が少ないからな。暴れるチャンスだぜ。5人ほど誘ってみる」
「助かるよ」
星道のコマンダーが建物内に逃げ込んだ場合は、彼らに援護して貰おうとも考えていた。これで準備は整った。後は都合を合わせ、作戦を実行に移すだけだった。
和也を仲間に引き入れた日の放課後、玲花から連絡が入った。「今週ならいつでも攻撃出来ます」と。直斗は携帯の画面を一緒にいた明里達分隊の3人に見せた。作戦準備のため、整備庫に集まっていた。
「和也達もいつでも行けるらしい」
「じゃあ、明日でもいいかしら?」
「ああ。そう送っておくよ」
直斗は玲花、和也、そして奈美にメッセージを送った。
「いよいよだね!今夜は寝れそうにないよ!」
「新兵器の出番……楽しみ」
「弾どれくらい持ってく?」
「全部。持てる限り」
柑奈と雪の2人は充分な意欲だった。戦いの前だと言うのに、遠足前日の子供のようだった。明里はと言うと、意外にも冷静だった。
「ようやく復讐が出来るのね」
「ああ。存分にやってくれ」
柑奈達2人は早速準備のために一旦直斗達から離れた。2人きりになった時、明里が言った。
「ありがとね。復讐に付き合ってくれて」
「いいんだよ。あのHLは放置出来ないし。それと、礼なら倒してから言ってくれ」
「それもそうね。準備はしっかり出来てるんでしょうね?」
「勿論だ。そっちも頼むよ」
騒がしい放課後の整備庫では、誰も直斗達のことなど気にしていなかった。彼らが明日起こす行動など、知らないようだった。その様子が、直斗はどこか面白く感じた。
「何かさ、人知れず悪と戦う漫画の主人公みたいな気分だ」
「少し分かるかも。でも、実際巨悪と戦うのよ」
明里は笑いながら言った。
「じゃあ、俺達も準備するか。明日、放課後すぐに決行だ」




