表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後遊撃隊  作者: 夜狐
24/27

吹雪作戦

故郷解放隊は宮堀と連携して行動している民間軍事企業である。戦車や航空機を持たず全国的には小規模な方だが、宮堀のある県内では上位の戦力とされている。

 その日は、冬にしては珍しく気温が高かった。危険区域へと続く橋に何台もの車が集結し、エンジンをかけていた。

「遂に今日、我々は攻勢に出る!日々の小さな抵抗により、HL勢いは衰えている。その隙を突き、我々は一気に戦線を押し上げるのだ!!」

最前列の車上で、30代後半の男が叫ぶ。彼は民間軍事会社「故郷解放隊」の中隊長だ。彼を筆頭とした部隊に、宮堀の遊撃隊から有志が合わさり、総勢は100名を超える。隊長の乗る車の右斜め後方に、明里達のジープは待機していた。運転席には明里が、隣には彼女の友人の未央(みお)という黒髪の女子生徒がいる。彼女は銃身の短いSIG551ライフルを抱えていた。2人はM2機関銃を搭載したジープの担当だ。未央が射手で、明里が運転手兼補助を務める。ちなみに、雪と柑奈は別の車で待機している。

「始まるね」

「ええ。奴らを追い返してやりましょ」

2人とも士気は高く、いつでも出撃出来る状態だった。彼女らだけでなく、皆がHLを打ち倒し、土地を奪還する熱意に燃えていた。

「これより、吹雪作戦を開始する!!」

演説を終えた中隊長が拳を振り上げ、その場の全員が鬨の声を上げた。

「景気付けだ。進軍ラッパを鳴らせ」

隊長に命じられ、近くの車両にいた柑奈が高らかに信号ラッパを吹いた。

「前進せよ!!」

その音を合図に、エンジンを唸らせて車が発進する。


 車列は橋を抜けると散開し、3台1組で前進した。ほぼ全ての車が重火器を積み、HLとの交戦時にはM2を中心とした火力を持って最短で殲滅する。建物は無視し、少しでも遠くまで、横一列の陣形を保つようにして前線を押し進めた。それはまさに破竹の勢いであった。朝の10時から火力に物を言わせた作戦で進軍し、夕暮れ時までにはかなりの範囲を制圧することが出来た。この時点まで、作戦は順調であったことを明里は覚えている。


 やがて日が陰り始める。冬の夕暮れは早く、油断するとすぐ夜になってしまう。作戦の参加者は廃墟の中に陣取るか、塹壕を掘って夜に備えた。

「こんな所で、穴掘りさせられるなんてね」

「これも勝利の為よ」

明里と未央も1人用の小さな塹壕、通称タコツボを2つ繋げたものを地面にスコップで掘った。M2は車から外し、3脚を使って設置してある。時間はかかったが、一応形にはなった。

「仕上げは私がやるから、荷物運んで貰える?」

「終わったら手伝ってよ?防寒装備って重いんだから」

明里は穴を掘り続け、未央は車から荷物を降ろした。中身は寝袋やマット、防寒着、カイロ、食料品などだ。彼女は苦労してそれらをタコツボへと運び込んだ。

「これが今日1番の重労働だったかも」

「ありがとう。私達は8時まで見張りだから、気を抜かないようにね」

他の参加も野営の準備を終え、見張りに就いていた。明里達も警戒はしつつ、携帯食糧で早めの夕飯を食べた。固形燃料で温めた缶詰だ。

「にしても、未央が参加するなんて意外だったわ。ハードな任務は嫌、とか言ってなかった?」

「せっかくのチャンスだと思ったんだ。地味な私でも、活躍出来るって」

未央はよく言えば平均的、悪く言えば地味な生徒だった。作戦に参加したという事実があれば、少しは地味な自分を変えられると思った。だから彼女は志願したのだった。

「明里はなんで志願したんだっけ?」

「これが自分の役目だと思ったからよ。後、友達を1人だけ行かせる訳にはいかないから。ドジな未央に怪我でもされたら嫌だからね」

「……完全に否定出来ないのが残念だよ」

未央は苦笑して食べ終えた食事のゴミを集めた。片付けが終わると、厚手の手袋を装着する。

「機銃手はいいわね。私は厚手の付けると引き金が弾けなくなるから」

「役目代わろうか?」

「大丈夫よ」

2人は前線の方に身体を向けた。冬の夜は寒く、そして静かであった。戦場には不似合いな程、星空が綺麗だった。


 翌朝、過剰な程の防寒装備によって2人は無事に夜を乗り切ることが出来た。太陽はまだ廃墟のビルに隠れている。

「おはよう」

「おはよ。今日も寒いね」

明里は寝袋から出て朝食の準備をしていた。未央も渋々寝袋から這い出した。

「今朝もこの缶詰かー。熱々のトースト食べたい」

「言われると食べたくなるわね。食べるならジャムとかはどうする?」

「バターとジャムがいいかな。イチゴの」

2人は昨晩と同様、缶詰を携帯ストーブで温める。その間に乾パンをつまむ。

「わざわざ冬にやらなくてもいいのにね」

「確かにそうね。出来れば寒くない時期がよかった」

朝食を食べながら、2人は前線の先に広がる廃墟の街を眺めていた。



「帰ったらコタツに飛び込みたい。それかベッドの中」

「そうね……。とりあえず私はシャワー浴びたいわ」

2人は雑談しながら朝食を食べていた。

「何か動いた!!」

突然、明里がM16ライフルを構えた。未央も食べかけの缶詰を置くとM2のトリガーに指をかける。

「どこ?」

「見えなくなったわ……でもあの辺りに」

その時横の方向、別の塹壕でライフルが吠えた。散発的に銃声が続く。

「あそこ!家の側!」

未央は人型のHLをその眼に捉え、M2のトリガーを押した。大口径弾がHLの頭部を粉砕する。辺りから聞こえる銃声も激しくなっていた。

「ちょっと、何よあの数……」

明里の声で未央は照準から眼を外した。すると、廃墟の間を抜けてHLの大群が向かって来るのが見えた。

「なんでこんなにいるのよ!」

叫びながら未央はM2を撃ち続けた。


「弾切れ!」

突如M2の連射が止まった。未央は機銃のカバーを開け、弾薬箱から予備の弾帯を取り出して装填した。重いコッキングハンドルを2回引く。再び射撃をしようとした時、彼女のすぐ目の前までHLが迫っていた。

「伏せて!」

明里が叫び、未央は咄嗟に地面に伏せた。すぐ近くで銃声が響い、背中に何かの液体が掛かる。

「危なかったわね……」

見ればそのHLは胸を撃ち抜かれて死んでいた。

「ありがとう……助かった」

背中に付いたのはそのHLの体液だろう。不快感に耐えながらも未央は射撃を再開した。


「ねぇ、あいつら、全然減ってない気がするんだけど……」

撃ちながら、未央が明里の方を見た。彼女も同じことを思ったのだろう。HLは死体の山を乗り越え、勢いを落とさずに進軍を続けている。それどころか、群れの先頭は徐々に前線を上げている。また大型の個体も増えつつあった。油断すれば突破されることは2人にも分かった。実際、明里は10m程の至近距離でHLを射殺した。

「これ以上無理だよ!撤退しよう!」

未央は振り返った。M2の弾薬も少なくなり、銃身の冷却も間に合わない。一方、HLは絶え間なく襲い続ける。明里も側面の対応に追われていた。

「下がるわよ!!先に行って!!」

明里もこれ以上止まるのは不可能だと感じ、撤退を決意した。先に未央がSIG551を持ってタコツボから飛び出す。その間、明里が援護をした。続いて彼女も、最低限の装備以外は捨てて後に続く。


 既に防衛線は突破され、後退する味方の姿も見えた。2人は銃を乱射し、近付くHLを退けながら味方との合流を目指した。しばらく走った時、2人の足元で小石が飛び、煙が舞った。

「馬鹿野郎!!射線に入るんじゃねぇ!!」

廃墟の中からM4ライフルを構えた。中年男性が怒鳴る。故郷解放隊の兵士だ。

「すみません……」

「死にたくなかったら射線に気を付けろよ」

男は舌打ちした。

「あの、他の人は……」

未央は恐る恐る彼に聞いた。その廃墟にいるのは彼1人だけだったからだ。

「若造が2人いたけど、ビビって逃げやがったよ。お前らも突っ立ってないで敵を撃ちやがれ」

彼は乱暴に言うと前線に向き直った。

「畜生、数が多過ぎる……」

彼は押し寄せるHLの群れを見て再び舌打ちした。明里達も必死に応戦するが、小銃の火力だけでは凌ぎ切れなかった。その時、遠くからラッパの音が聞こえた。

「畜生撤退信号だ!!お前ら引くぞ!!」


 それを合図に、戦線は崩壊した。全員が陣地を放棄し、後方へと退却する。明里達も時折振り返って銃を撃ち、ひたすらに後方を目指した。

「未央!」

未央が瓦礫に躓いて転倒した。明里は手伝おうと手を伸ばすが、背後からHLが迫っていた。未央は身体を反転させ、仰向けになって銃を乱射する。それでも5体程の群れが襲い掛かる。明里は負傷を覚悟で飛び出すと未央の手を掴んで立たせた。その時真横から激しい銃声が聞こえて群れが薙ぎ倒された。

 撃ったのは雪だった。彼女はPPSh-41で残るHLを射殺していた。

「行って。ここは私が」

「……背中は任せたわ。気を付けてね」

加勢するよりも、大人しく下がった方がいいと判断し、2人はまた撤退を再開した。何度も小刻みに吠える雪の銃声が聞こえた。


 戦場は混乱を極め、皆が後方へと一目散に走っていた。明里は接近戦に備えてM16に着剣していた。なるべくHLとの戦闘は避けるが、進路を塞ぐ個体との交戦は避けられなかった。

「弾が無くなりそう……そっちは?」

「私もあと30発と少しだけ……」

2人とも弾薬切れ間近だった。運の悪いことに、2人はやや大型のHLが真横から突進して来るのを見つけた。

「やるわよ……」

熊に近い胴体に犬科特有の細長い頭部のHLだ。背中には棘が、逞しい前脚には鋭い爪を持っている。2人はそのHLにセミオートで弾を撃ち込んだ。だが、10発以上受けても勢いそのままに未央を体当たりで突き飛ばした。

「よくも!!」

明里はHLに銃剣を突き立てる。皮膚が分厚く、手応えは少なかった。HLは鬱陶しそうに明里を睨むと、強靭な前脚で一振りした。回避が間に合わず、その衝撃で明里は数メートル地面を転がった。全身に鈍い痛みを感じる。顔を上げると、そのHLが未央を押し倒すのを見た。

「やだ!!離して!!」

爪は戦闘服を貫通して彼女の身体に突き刺さり、必死にHLの体を蹴るも脚は虚しい音を立てるだけだった。明里は痛みに構わず立ち上がる。ライフルは攻撃を受けた時に手放し、遠くに転がっている。明里はベレッタM9をホルスターから抜くとHLに乱射した。続いてコンバットナイフを構えて突進する。一心不乱に何度もそれを突き立てた。何回そうしただろうか。HLが明里の方へ顔を向けた。彼女はその眼に睨まれると、動けなくなった。先程の痛みが蘇る。弾の切れた拳銃と、刃渡りの短いナイフでは勝てる気がしなかった。HLが口を開け、ゆっくりと前進する。

「ボサっとしてんじゃねぇ!!」

乱暴な声が聞こえた。先程の中年の男が割り込み、M4ライフルの全弾を撃ち込んだ。

「タフな野郎だな……」

彼は舌打ちするとM4に付けた銃剣で斬りつける。

「倒れやがれ!!」

男はHLの太い首に銃剣を突き刺し、奥まで捩じ込んだ後に思い切り斬り裂いた。

「こいつは時期に死ぬ。とっとと逃げろよ」

明里は我に帰るとM16を拾い、倒れている未央に手を伸ばした。

「立てる?」

「な、なんとか……」

彼女は立ち上がったが、HLによる傷が痛々しかった。明里が手を離すと、彼女はまた倒れてしまった。

「ごめん……。脚に力が入らなくて……」

「肩を貸すわ。早く帰るわよ」

明里は未央を支え、後方へと歩き出した。


 瓦礫を避けて進み、坂道を登る。頂点に辿り着くと、味方がそこへ待機していた。少し遅れて先程の男も合流した。

「車が足りないんだ。もう少し先にトラックがいるから、怪我人以外は歩いてくれ」

1台の軍用車が止まっていたが、運転手の若い男がそう言った。

「俺達は大丈夫だから、学生さん2人が乗れよ」

周りにいた故郷解放隊のメンバーに言われ、明里と未央は車に乗った。前線の方を振り返ると、HLの群れが追撃に来ていた。

「追手だ!出発するぞ!」

運転手はアクセルを踏み込んだ。明里は遠くなっていく廃墟の街を眺めていた。その中に、奇妙なHLの姿を見つけた。異様に背の高い人型で、周囲に大型HLを従えている。それはまるで命令するように腕を動かしていた。実際、群れはそれに従っているように見えた。


明里は話を終えた。

「吹雪作戦はこんな感じよ」

「……その、未央って子は……」

直斗は会ったこともない彼女のことが心配だった。

「それなら大丈夫よ。今は総務科に移動してる。ただ、傷はずっと残るし、もう戦いたくはないって……」

HLに押し倒され、死を目の前に感じたのでは無理もないだろう。そして

「あのHLに前会ったって、そういうことなんだな」

「ええ。未央の事とかで忘れてたけど、同じHLだと思うわ」

「そうなると、あいつはかなりの群れを従えてる指揮官クラスってことか……」

直斗は尚更あの個体を討伐する必要があると確信した。そして、その為の方法をすぐにでも考えるべきだとも。

「直斗にお願いがあるの」

明里が真っ直ぐ彼の方を向いた。

「ワガママに聞こえるかもだけど、あのHLは何としても倒したいの。私も全力で協力するから」

「ああ。アイツはかなりの脅威だからな」

直斗は頷いた。

「それに、これは私の復讐でもあるの。私が未熟なせいもあった。八つ当たりかも知れない。でも、アイツだけは許せないの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ