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放課後遊撃隊  作者: 夜狐
22/27

死守せよ!

 爆発音に冬乃は振り返った。彼女は家の2階、光と隣の部屋からFG42を撃っていた。

「M2の音が聞こえない。それにさっきの爆発は……」

彼女が部屋を移動すると、光はM70に集中しているようだった。短い間隔で射撃している。その時、接近する影に気付いた冬乃は彼の服を掴み、後ろへ引っ張った。

「先輩!一体何を……」

言い終わる前に、彼がいた位置に他より小柄な飛行型HLが激突した。人に似た姿で、腕が翼になったそれは牙を剥き出して甲高く吠えた。

「狙撃の時は夢中になり過ぎるな……って奈美が言ってた」

「……面目ありません」

激突のショックから立ち直ったHLの首に、冬乃は着剣したFG42を突き立てる。

「撤退しよう。ここはもう不味い」 

「しかし……」

「M2の音が聞こえない以上、孤立した可能性が高い」

「……了解です」

彼はM70を背中に背負うと、近くに置いてあった消音器付きのMP5を手に持った。

 慎重にドアを開けると、付近にはHLが集まっていた。幸い、まだ気付かれてはいない。拠点であるアパートを見ると、建物周辺にHLの死体が転がり、燃えているものもあった。銃声が聞こえたが、その場所よりも後方からだった。

「撤退した後か……」

「予備の拠点に向かいましょう」

無線機を試すが、応答はない。

「なるべく、音を出さないように」

FG42をスリングで吊った彼女は、バックパックを背負い、釘バットと自作の槍を持った。断続的に聞こえる銃声で、付近のHLはその方向へと向かって行った。冬乃は槍を置き、自分の近くを通った獣型を釘バットで殴打し、2回頭に振り下ろしてトドメを刺した。

「前方、アシッドです」

光が小さく言った。確かにその方向には肥満体のアシッドがいる。

「ここで殺す」

「撃ちますか?」

「いや、そうすると他のも集まるから……」

冬乃はバックと銃を外し、槍だけを持った。それを構えて、ゆっくりと接近する。そして、背後から勢いよく首に突き刺した。アシッドは振り向きながら溶解液を撒き散らしたが、冬乃は後ろに飛んで避けた。

「まだ息があります」

「あれでいい。多分時期に死ぬ」

槍は首の辺りを貫通しており、アシッドは動き辛そうにしていた。冬乃は外した装備を拾う。2人は事前に定めた合流地点へと急いだ。

 少し進むと、2人の近くの建物に弾丸が当たり白い煙を上げた。慌てて頭を下げる。狙いが逸れたか、貫通した弾だろう。

「これじゃあ味方にやられますよ」

「迂回しよう」

合流地点で派手に銃撃しているため、途中のHLの数は少なかった。

 合流地点は放置車両と瓦礫の山をバリケードとしていた。2人はそこの側面に当たる場所に出た。激しい銃撃が突撃するHLの群れに放たれる。戦況は直斗達が押されている。冬乃はバックパックからFG42のドラムマガジンを取り出して装着し、腰だめで群れを掃射した。銃口は反動でかなり暴れた。隣で光もMP5で射撃する。2人の援護により、群れの撃退に成功した。

「無事でよかった。それに助かったよ」

奈美は2人に礼を行った。

「戦況は?」

光が直斗に聞いた。

「今のは撃退出来きたけど、後何回耐えられるか」

直斗はFALの残弾を確認する。残り80発程だ。フルオートで撃てばすぐに無くなってしまう。束の間の休息時間でそれぞれマガジンに保弾した。まだ撤退する訳にはいかない。だがオーガやアーマーなど耐久力の高いHLが来れば弾を浪費してしまう。直斗はかなり長い間戦っている気がした。何故HLはあんな大規模な攻撃を仕掛けたのか。そもそも、HLに組織的な攻撃が出来るのか?そんなことを考え、彼は空を見上げた。

 上空に3つの影が見える。飛行型のHLだ。

「上だ!!気を付けろ!!」

彼がそう叫ぶと明里達が一斉に撃ち始めた。

「全然当たらない!!」

明里が銃を下ろして言った。

「ギリギリまで引き付ける。降下した所を狙うんだ!」

直斗はそう伝えると、旋回する1体に狙いを合わせた。やがてそれは、彼に向かって急降下した。

「来るぞ!!」

直斗はセミオートでFALを乱射した。一斉射撃を受けて飛行型は墜落し、2、3度地面を跳ねた。

「まだ2ついるよ!!」

柑奈が叫ぶ。再び弾幕が張られ、1体は途中で地面に落ちた。だがもう1体が光に激突した。彼は衝撃で後ろに転倒した。牙を剥き、振り返った飛行型を直斗は素早く射殺した。

「光、大丈夫!?」

「クソ……腕が……」

彼の左腕は袖が破け、出血していた。

「大和、応急処置を!!」

冬乃がバックを投げ出し、救急箱を開いた。

「折れてる感じはねぇ……。だが、M70を構えるのは無理そうだ……」

大和はそれを使い、手早く処置を施した。

「傷は浅いです」

処置を終えた大和の言葉に、皆は少しだけ安心した。だが、腕の痛みで彼はライフルを構えられなくなった。

「まだ来るよ!こんどは地上から!」

柑奈が言った。HLの群れが再び現れる。

「さっきより数が多いわ!!」

明里は群れの中程に榴弾を撃ち込む。爆発で数体吹き飛ばしたが、侵攻は止まらない。その上アシッドやオーガの姿も見える。

「爆弾を!俺が使います!」

「了解だよ。各自、あの建物まで撤退!!」

直斗が奈美に提案すると、彼女は即席爆弾を渡し、指示を出してくれた。その場には直斗の他に、雪と明里が残った。2人が群れを食い止める間に直斗はFALをスリングで吊り、手榴弾のピンを抜く。

「投げるぞ、先に行け!!」

彼は爆弾を車の向こうに投げると2人に続いて走り出す。頭の中で数を数え、起爆のタイミングで地面に伏せる。その一瞬後、大爆発が起こる。千切れたHLの一部が近くに落ちた。しかし、群れはまだ健在だ。その上慌てて逃げたためか、奈美達の逃げた場所とは反対の所にいた。

「撤退場所はあっちよ」

「だな。撃ちながら横から合流しよう」

幸いなことに、奈美達の射撃に群れの大半引き付けられている。直斗達は自分の方に来たHLだけ仕留めれば良いのだ。

 3人は移動を開始した。走りながら時折振り返り、追跡者を攻撃する。

「援護を頼むわ!」

明里はM16をリロードした。雪が立ち止まり、PPShで薙ぎ払う。高速連射は残り1体の所で止まってしまった。弾切れだ。彼女に獣型が迫る。雪はマガジンを抜くと、それでHLの鼻先を殴った。怯んだ隙に距離を取る。そしてポケットから折り畳みナイフを出すと、それを突き立てた。その間に、今度は壁際にあった冬乃自作の槍を持ち、それでHLを仕留めた。

「残りこれだけ」

彼女はドラムマガジンを装着した。残弾は71発だ。

「俺も残り少しだ。明里は?……明里?」

返事をしない明里を直斗は不審に思った。

「アイツ……」

彼女は答える代わりに、唸るように言った。

 彼女が見つめる先に、1体のHLがいた。それは3人の方へと向かって来る。棘の生えた熊のような体に、犬科に近い細い顔をしたHL。以前、明里が白兵戦を挑んで敗亡したHLだ。それは強靭な生命力を持ち、今の装備では苦戦する。

「相手が悪い、逃げるぞ!」

明里はそのHLを睨んだまま止まっていた。

「……ええ、分かってるわ。だから、これをお見舞いしてやる!」

彼女は銃身下に付けたグレネードランチャーに榴弾を装填し、HLの足元に発射した。爆発がそれの姿を隠す。煙が収まると、それはまだ意識を保っていた。体液を流しながら地面に横転して、暴れている。

「ホントなら殺してやりたいけど、今は動けなくしたから充分よ」

彼女はランチャーを操作して排莢した。

 

 大型のHLを行動不能にし、3人は残りのメンバーと合流した。場所は崩れた店の中だ。かつてはレストランか喫茶店だったのだろうか。放置されたテーブルや椅子からそのことがうかがえた。

そして、そこに到着すると真っ先に雪が柑奈の所へ駆け出した。

 柑奈は怪我をしていた。額から血を流し、顔の半分が赤く染まっている。

「柑奈!!」

雪は彼女の肩を掴んだ。前髪をかき上げて傷口を見ると、止血された後だった。

「派手に出血してたけど、軽傷の部類だよ。本人も元気そうだ」

「そゆこと。結構痛いけどね……」

奈美と柑奈の言葉を聞いて、雪は脱力して座り込んだ。他の面々も、軽い切り傷などが目立った。

「今のは凌げたけど、そろそろ弾が尽きそうだね……」

「弾無くとも、この銃剣で屠って見せます!」

苦笑しながら言う奈美に、大和は意気揚々と答えた。弾薬は残り少ないが、士気は下がっていない。片腕を負傷した光も、まだ戦えそうだ。

「そうだな……。やれるだけやってやろう」

直斗は撤退という言葉が浮かんだが、それを振り払った。今は弱気になるより、士気を上げた方がいい。

「そんなこと言ってたら来たわよ。休ませてくれないみたいね」

明里の指す方向を見ると、HLの群れが再び向かって来る。前回と違うのは、先頭にアーマーがいることだ。数は6体。

「アーマーは眼を狙え!」

奈美はスコープを通して唯一装甲のような皮膚に覆われていない眼を狙撃する。柑奈も隣で応戦するが、疲労からか1発で仕留められなかった。最初に奈美が2発目で命中させ、柑奈は6発撃ってようやく撃破した。その間に取り逃がした個体に距離を詰められる。

「自分が受けて立ちます!!」

大和が着剣した64式を構えて店の外に出た。1発撃って注意を引き付ける。アーマーは狙いを定め、全速力で突撃した。彼はギリギリまで近付けると、渾身の刺突を放った。見事眼を貫いたが、重量を乗せた突進の勢いに押されて転倒し、銃を手放してしまった。アーマーはまだ息があり、64式を刺されたまま暴れ狂っている。

「トドメは任せろ」

光は素早く接近するとホルスターからデザートイーグルを抜き、片手で眼を至近距離から撃ち抜いた。マグナム弾の強烈な反動で銃口は真上を向くほど跳ね上がるが、弾丸は確実にHLの脳を破壊した。

「アーマーは猪と同じ。真っ直ぐにしか進めない」

冬乃も外へ飛び出し、自分の方へ突進するアーマーを迎え撃った。激突する直前に真横に飛んで回避し、素早く回り込むと眼球に銃口を押し付けるようにして発砲した。

「やるわよ、直斗!」

「ああ。2人同時にな」

直斗と明里も冬乃同様店を飛び出し、HLの突進を回避してからの攻撃を行う。至近距離から1発、確実に撃ち込む。残る最後の1体は、柑奈がM2カービンで狙撃して仕留めた。

「硬いのは今ので最後だな。後は……」

残るHLの群れの何体かを射撃で仕留めた。

「くっ、このマガジンで最後だ!!」

直斗は残り1つの弾倉を銃に装着した。

「私もあと1つと半分。ライフルは最後の手段で、後は拳銃と銃剣頼りよ」

明里はM16を置くと、M16用の銃剣を構える。グレネードランチャーを付けた状態では着剣出来ないからだ。直斗もコンバットナイフを鞘から抜いた。

「来るぞ!!」

やがて群れの最前列が到達した。瓦礫の影から飛び出した直斗は人型の首に不意打ちを食らわせた。素早くナイフを抜くと、隣では雪がいつ冬乃から貰ったのか、釘バットを振り回すのが見えた。

「頭、押さえて」

彼女にそう言われ、直斗は倒れたHLの背中に乗った。雪が頭部を叩き割り、絶命させる。

「ナイフより、こっちの方が良さそうだな」

直斗はそれを見て、冬乃の作った武器を思い出した。丁度近くに手製の槍を見つけ、それを手に取る。長さがある分、安全に攻撃出来る。

「アシッド!!向かって来るよ!!」

柑奈が叫ぶ。肥満体のHLを3体視認した。

「近付かれたマズいな。銃を使うぞ」

隣で獣型を刺殺した明里にそう言い、直斗はブローニングハイパワーを抜いた。明里もM9を構える。拳銃弾に余裕はあるが、多い訳ではない。慎重に狙いを定め、確実に頭を狙う。乱戦での精密射撃は難しく、弾を浪費してしまう。

 アシッドを拳銃で狙っていた時だ。直斗は雪の悲鳴を聞いた。彼女は獣型に脚を噛まれている。無事な方の脚で蹴り付けるが、HLは平然としていた。

「この!!」

柑奈は叫びながらHLの胴体にカービンを乱射した。雪は無事脱出したが、カービンの弾はそれで最後だった。

「大丈夫!?」

「軽い出血。靴越しでどうにか無事」

脚を少し引きずりながらも、雪は戦闘を再開した。

 ふと、直斗は衝撃を感じ、何かに押し倒された。肩に鋭い物が食い込み、痛みが走る。うつ伏せになり、地面しか目に入らず、状況が理解出来ない。ただ痛みがあるのみだった。

「こいつ!!」

明里の声だ。少しすると肩の痛みが軽くなった。刺さっていた物がゆっくりと抜かれる。

「立てる?」

「助かったよ……。こいつにやられたのか」

隣にはいつの間に接近されたのか、人型の死体が転がっていた。明里の手を借りて立ち上がる。そして2人は同じものを目にした。廃墟の中を抜けて、更に15体以上のHLが向かって来る。

「マジかよ……」

別の方向から奈美の声がした。

「増援だ!!」

そちらからもHLが進軍して来る。

「これ、マズいんじゃないの……?」

「そうだな……だけど、やるしかねぇ……」

直斗は右手に拳銃を、左手に槍を構えた。明里も銃とナイフを手に持つ。他の面々も少しずつ後退し、背中合わせになるように陣を組んだ。新手との距離は、徐々に縮まる。

「やってやるわよ……」

「ああ。なるべく一撃で仕留めよう……」

皆が決戦の覚悟を決め、武器を構える。


 すると唐突に機関銃の轟音が響き、HLの群れが薙ぎ倒された。

「この銃声は!?」

直斗は顔を上げた。すると今度はエンジン音が聞こえた。ジープの音ではない。それよりも大きく、重いエンジンのようだ。

その方向から現れたのは、緑色の戦車だった。それが4台。車体には完全武装の、見慣れぬ戦闘服の生徒が5〜6人乗っている。1台が直斗達の側で停車し、ハッチが開いた。

「ご無事ですか?」

ハッチから黒髪の女子生徒が顔を出した。彼女には見覚えがある。星道女子校の玲花だった。他の人員も、そこの生徒だ。

「玲花!?どうしてこの場所が?」

「先程、そちらの学校から無線での連絡がありましたの。現在各拠点に戦車隊が支援に向かっていますわ」

「そういうことか……」

直斗は納得した。宮堀は応援を送るのは厳しいため、星道にその要請を出したのだ。合同作戦がここでも実を結んだのだった。残る戦車隊は攻撃を始め、次々とHLは銃と砲弾の前に倒れていく。

 玲花は戦車1台と生徒6人を護衛に残すと、残る3台を率いて別の場所へと向かった。星道の戦車隊が辺りのHLを殲滅したのだ。

「どうにか、全員無事に守り抜けたね」

「星道が来なかったら、ヤバかったけど」

安心した様子の奈美に、冬乃が皮肉を込めた風に言った。

「そのことに関しては、私の判断ミスだったよ。危険な仕事に付き合わせてすまない」

彼女はその場の皆に頭を下げた。それに対して明里は応えた。

「いいんですよ。元から危険は付き物ですし、それを承知で残ったんですから」

彼女以外にも、誰1人として奈美を責めるようなことは言わなかった。思わぬ増援に助けられたが、直斗達はこの場所を守り抜いたのだ。

 戦闘が終わってしばらくすると、明里がゆっくりと歩き出した。直斗も後に続く。

「全員、無事でよかった」

「そうね」

後は再編成した民間企業の部隊を待つだけだ。星道の戦車は辺りに脅威なしと判断すると、別の場所へと向かって行った。明里は何気なく歩き、近くの民家に入ると2階へと登った。

「どこ行くんだ?」

「風に当たりたくて」

2人はドアを開けてベランダに出た。周りに見えるのはHLの死体と廃墟だけだ。

「いつか、取り戻してまた住めるようになるといいな」

「その礎を築くのが、前線学校の仕事よ」

「分かってるよ。もっと戦線を押し上げて、奴らを追い出してやろう」

2人の頬を撫でる風が心地よかった。直斗は周囲を双眼鏡で観察した。と言っても、目視の範囲に動くものは見えないのでかなりの距離の索敵になる。

「何か見つけた?」

「……あの方向にHLの群れだ」

直斗がそう言うと、明里も双眼鏡を覗いた。

「結構な数ね……でも、危険区域の奥に向かってるみたい。気付いた様子は……待って!!」

「どうした!?」

明里は驚きの声を上げた。そして、直斗も同じものを目にした。

「あいつ、合同作戦の時の……」

群れの中にいる、長身の人型のHL。星道との合同作戦の後に目撃したのと同じ個体だ。

「……あの時感じたのは間違いなかった。私は、アイツに一度会ってる……」

明里は唸るように言った。

「一度会った?」

双眼鏡を下ろすと、彼女はそのHLを睨んでいた。

「……去年の冬、吹雪作戦の時よ」

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