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放課後遊撃隊  作者: 夜狐
21/27

故郷

 直斗達はジープに乗って、校門の死体の合間を縫って出発した。自分用の他に奈美達の使う弾薬も多めに持った。また、小型の無線機も4つ渡された。先程の大規模な攻撃のためか、HLの姿はない。拠点へと向かう道中、3台のジープからなる車列とすれ違った。宮堀の生徒だが車や野戦服は汚れ、顔には疲れが見える。中には怪我人もいるようだ。

「彼らは?」

「撤退した部隊じゃないの?」

学校から15分程で目的地に到着した。廃墟と化した住宅街だ。周辺にはHLの死体が転がっていた。車から降りると、奈美達の姿を探す。少し歩くと、何かを叩く鈍い音が聞こえた。その方向へ向かう。

 そこでは冬乃が金槌を振るっていた。建物の陰になる場所で、彼女は木製の野球バットに釘を打ち込んでいた。

「支援に来ました。その、今は何を……?」

「もしよかったら、手伝って貰える?」

彼女は直斗達の姿を見ると、近くに置いてあるガラクタの山を指した。そこには太さや長さの異なる棒と、大小様々な刃物が置いてあった。

「針金とテープで、槍を作って欲しい。あんな感じに」

その素材の山の隣には、彼女の「完成品」が4本置いてある。

「やります」

雪は率先して彼女の隣に行った。冬乃は雪に近くにあった古い椅子を勧めた。雪が作業を始めると、直斗達は奈美を探そうとした。すると丁度、近くの建物から彼女が出て来た。それだけじゃない。光と大和、そして名前の知らない2人の生徒が集まって来る。全員、戦闘服はHLの体液で黒く汚れていた。

「支援に来てくれたんだってね。ありがとう。弾薬はあるよね?」

「ジープに積んであります」

「助かるよ」

奈美の指示で、光と大和の2人が弾薬箱を取りに向かった。

「今ここには私達6人しかいないからね。弾は1発でも多く欲しいんだ」

「6人?他の人は?」

明里が質問する。拠点を守るのに6人は少な過ぎる。

「他のはついさっき、2人残して撤退した。だから今は6人だけだ」

弾薬箱を運びながら光が言った。彼は最後の箱を降ろすと「監視を続ける」と言って近くのコンビニの屋根に梯子で登った。

「まだ襲撃の恐れがあるからね。私達は防衛に戻るよ」

奈美がそう言うと、集まっていた人員は補給を行う。奈美は真っ先にそれを終えると、配置に付くのか足早に歩き出した。

「襲撃ってどのくらいの規模ですか?」

直斗は奈美を追いかけた。

「詳細には分からないけど、かなりの激戦になるだろうね。光がさっき、大きな群れを見つけたそうだ。橋の向こうなのが幸いだけどね」

彼女が歩きながら答える。

「……重火器は?」

「軽機関銃1つに、重機関銃が1つ。迫撃砲は壊されたから砲弾だけが4つ」

「先輩、それでは危険だと思います。撤退しましょう」

機関銃は強力だが、2艇だけでは心細い。装填や銃身の冷却中は無防備だ。その上、この辺りは住宅街で機関銃の死角も多い。

「それは難しい相談だね。退く訳にはいかないんだ。ようやく取り返した、私達の故郷だからね」

彼女は足を止めて言った。強く言い切る口調だった。

「私と冬乃、光、大和は小学校からの付き合いでね。家も丁度この辺りなんだ。残ってくれた2人も、ここに家があった。だから、やっと取り戻したこの場所を何もせず奴らに渡す訳にはいかない」

「その通り。他のは付き合い切れないって帰ったけどね。他を巻き込む訳にはいかないから、やれる限りは自分達だけでHL殺して、ここを守り抜こうと」

聞いていたのか、冬乃も近くに来ていた。完成した釘バットを持っている。

「そんな訳だから、私達は6人でもここに残るよ」

そう言うと、奈美は去っていった。

 彼女らは連戦で疲労しているはずだ。弾薬にも限りがあり、人員は6人。その時柑奈が口を開いた。

「私は残るよ!」

彼女がそう強く言ったのは意外だった。

「私も、育った場所がHLに奪われたから、先輩達の気持ちが分かるの。だから、私はここに残る」

直斗は思い出した。以前彼女と、廃校に行った時のことをだ。

「それなら、私も残るわ。先輩達を置いては行けない」

明里もここに留まって戦うつもりだ。雪の方を見たが、彼女は冬乃のマガジンに弾を込めるのを手伝っていた。彼女も撤退する予定はないのだろう。

「それで、直斗は?」

明里が顔を向ける。

「俺は……」


 本当なら奈美達を連れて撤退したかった。あまりにも不利だからだ。その時、前に見た故郷を奪われ着の身着のままで避難した人々を思い出した。直斗はHLの脅威を身近に感じずに育って来た。だが、もし自分ならどうだろうか?敵に奪われた故郷を、仮の形とは言え取り戻せたのだ。戦いもせず、諦められるのか?仲間が戦う中、自分だけ逃げられるか?

「……今更退ける訳無いしな。それに、人員と銃は多いに限る」

彼は戦うことを決意した。奈美達は退かないつもりなのだったら、6人より10の方が勝算はある。それに、取り戻した故郷を守ろうとする彼女達を置いては帰れない。

 防衛戦を行うに当たり、直斗は学校へ無線で連絡を取った。追加の人員を送ってもらうためだ。宮堀の総務科の生徒が応じる。直斗は彼に支援を送って欲しいと伝えた。

「悪いけど、それは難しいな……。死体の処理と他の拠点への支援、更に学校を素通りして街の方へ逃げた奴の追跡で手一杯なんだ。手が空き次第向かわせるから、それまで耐えてくれ」

返答はそれだけだった。受話器を置くと、直斗は交信の内容を伝える。

「別に私達は大丈夫だよ。元々6人で戦うつもりだったんだ。それより、早く準備を始めよう」

奈美がそう言うと一同は集まり、作戦の会議と準備を始めた。メインの拠点は崩壊を免れた2階建のアパートだ。住宅街の先には小さな川が流れ、HLは橋を渡って来ると言う。確かに橋には多くの死体が転がっていた。まず奈美の分隊のM2は車から外し、拠点であるアパートの2階に3脚で設置した。ここなら橋とその近くを見張れる。担当は直斗と明里だ。続いて奈美達と共に残った2人が持っていた、M240機関銃を道沿いのコンビニの屋上に置いた。射撃もその2人が行う。奈美と光は2手に分かれて、橋に近い別の家の2階から狙撃と監視を担当する。それぞれに大和と冬乃が補助に付く。最後に、雪と柑奈はアパート付近から小火器での射撃を行う。また、各待機場所毎に小型無線機も配って連携を取れるようにした。さらに拠点周辺の様々な場所には冬乃の自作した槍などの近接武器が置いてある。また全員が刃物や工具など自衛に使える程度の武器を追加で持っていた。ジープ3台は最後の撤退用に、1箇所にまとめてある。念のためブルーシートを被せて置いた。

 作戦を開始する前、冬乃が口を開いた。

「これ、よかったら」

彼女が差し出したのは余った迫撃砲弾に手榴弾を括り付けた物だった。

「ブービートラップにしたいけど、時間と場所が限られてるんでね。くれぐれも、巻き込まれないように」

その即席爆弾はそれぞれの狙撃班、コンビニの機銃班、そして直斗達M2班が1つずつ持った。全ての準備が整い、後は襲撃に備えるだけだ。現状、敵の姿は見えない。光と、コンビニ屋上の2人を除いて、直斗達は崩れかけた家の前に集まっていた。

「懐かしい場所だよ」

ブロック塀にもたれて立つ奈美が言った。その塀の上に座る冬乃が答える。

「毎日ここで遊んでた。夏には水遊びしたり、エアコン効かせた部屋でゲームしたりね」

「冬には雪合戦やトーチカも作りましたね」

大和もしみじみとした様子で言った。

「思い出のある場所なんですね」

戦いの前だというのに、彼らは和んだ空気だった。

「だからこそ、簡単には諦められないんだ。撤退するにしても、やれる限りは守り抜きたいんだ。協力に感謝するよ」

奈美が直斗にそう言った後、監視をしていた光から通信が入る。

「橋の向こうに3匹いる。どうする?」

「狙撃出来るか?」

「可能だ。消音機もあるから、気付かれないだろう」

彼はそう答えると、M70を発砲した。消音器で小さくなった銃声が3回響く。しかし、それでも銃声は完全には消えない。

「追加で1匹。橋を渡られた」

光からの報告だ。

「それなら私が」

それを聞いた冬乃が塀から飛び降り、バックパックを背負って枝切り鋏を持った。以前と同様、静かに始末するつもりだ。

「冬乃先輩が向かった」

「了解だ。それと、橋向こうに群れが集結してる。始めた方がいいんじゃないか?」

直斗が返答する。

「そうだな……始めよう」



 散開し、それぞれの配置に付いた。直斗はM2のトリガーに指を掛ける。橋の向こう側には、人型のHLが5体は確認出来た。ゆっくりと橋を渡り始める。その後方にも、HLらしき姿が見える。

「この距離だと、サプレッサー付いてても聞こえるわよ」

「そうだろうな。でも、やるしかない…………始めてくれ」

直斗は無線で指示を出した。

「了解だ」

光がそう答えると、先頭のHLを射殺する。

 銃声に反応し、残る4体が顔を上げた。光と奈美の2人が素早くそれらを片付ける。その銃声に、橋向こうのHLも反応し、こちら側へと殺到する。

「射撃開始だ。なるべく弾を節約しろ!」

M240が火を吐いた。HLはそれでも捌き切れない程の数だ。

「あんなに隠れてたなんて……」

明里が驚きの声を上げる。直斗もM2で群れを上から射撃した。

「オーガとアシッドか……体力の多いオーガはM2で狩る!アシッドは狙撃に任せる!」

無線でそう伝えると、鬼のような姿のHLを射撃する。ライフル弾は何発も耐えたオーガだが、流石に50口径を前にしては数発で無力化出来た。肥満体のアシッドもすぐに狙撃で仕留められる。橋での防衛線は優勢だった。

 しかし、状況はすぐに変化した。コンビニの方から悲鳴が聞こえた。見れば、屋上の機銃班の後方にHLがいた。学校を襲撃した飛行型だ。そこに陣取っていた2人はその飛行型と、降下してくるもう1体の相手で精一杯になっていた。

「飛行型だ!!上空に注意して……」

その時建物の下から銃声が響く。あの高速連射は、雪のPPShだ。続いて柑奈のM2カービンも吠えた。

「大丈夫か!?」

「なんとかね!それよりそっちは?」

慌てて向き直ると、かなりの数が橋を渡り終えていた。直斗は夢中でM2を掃射した。明里もM16で応戦している。そこへ通信が入る。奈美からだ。

「不味いね……かなりの数が押し寄せてる」

「了解です。橋のは俺達がM2で食い止めます。先輩は厄介な個体をお願いします」

彼は狙いを調整すると橋を渡ろうとする群れに弾幕を浴びせた。M240の2人は空を旋回するHLの対応に当たっている。飛行型を想定しなかった事を悔やんだ。押し寄せる群れはM2と狙撃で阻めてはいる。だが、徐々に前線が押し上げられていた。再び無線機から奈美の声がした。

「悪い知らせだ。橋よりこっち側……つまり横からも接近中だ」

「その辺りにはいなかったはずでは!?」

「ああ。どこから湧いて来たんだかね……」

真っ先に反応したのは光だった。

「そっちの方向はM2の死角だ……」

直斗が唸るように言った。すると機銃のある部屋に雪が入って来た。

「私と柑奈が加勢に行く」

「分かった。気を付けろよ」

「私も行った方がいい?」

「明里はここにいてくれ。万が一に備えたい」

2人が去ると、直斗は射撃を再開した。


「弾切れだ!!」

彼はそう言うとM2のカバーを開け、予備の弾帯と交換した。作業中、明里が射撃を行う。弾帯を装着してカバーを閉じ、レバーを2回引く。明里の援護もあり、戦線にそこまで変化はなかった。しかし

「悪いけど、この建物は放棄だ。後方へ移動する」

奈美の悔しそうな声が無線機から聞こえた。撤退中なのだろう。銃声が移動しながら聞こえた。

「直斗!!」

明里が叫ぶ。気が付くと周囲はHLに囲まれていた。撃ち漏らしたHLが建物に群がる。

M240班が射撃しているが、それでは倒し切れなかった。群れは窓や壊れた壁から侵入しようと押し寄せている。

「出るわよ!!このままじゃ閉じ込められるわ!!」

「そうだな……だが、コイツをくれてやる!」

直斗は撤退の準備をすると、冬乃自作の爆弾を掴んだ。手榴弾のピンを抜き、窓から落とす。幸い出口は反対側だ。明里の先導でHL数体を蹴散らし、外に飛び出す。背後から轟音が響いた。衝撃波を背中に感じる。

「今ので、かなり巻き込めたはずだ……」

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