休日
前線学校の生徒はある程度銃器の訓練を受けると許可証を手に入れることが出来る。それが無ければ、銃や弾薬の購入は出来ない。この許可証は猟銃用のとは異なるものである。
銃を持ち、異形の存在と戦う前線学校の生徒。しかし、彼らも結局は高校生。休日地元のショッピングモールに出かけ、買い物を楽しむ生徒も多い。その日の直斗もまさにそれだった。ただし、その場所は鉄砲店だったが……。
ショッピングモールの一角にある鉄砲店は広々としていた。鍵のかかるガラスケースの棚が並び、中では鈍い光を放つ銃が鎮座している。定番のM4系統から、HK416やACP9など先進的なモデルまで揃っている。銃の区画の近くには弾薬やマガジンの棚が並ぶ。これら棚の商品を買うには、銃の許可証が必要だ。ちなみに、弾薬は棚の前に小さなカードがあり、それをレジに持って行って必要な数を店員に伝えるシステムだ。これらと分けるようにしてスコープやグリップと言った拡張パーツや、ポーチやホルスターの棚もある。こちらは許可証がなくても、つまりは一般人でも買える。そんな店に、直斗は今日弾薬を買いに来た。
「ホローポイントか……」
彼はケースの中の弾薬を見た。いつも使っている7.62NATO弾の隣に、それと同じだが、弾頭が窪んだ弾が共に展示してあった。ホローポイントは先端の窪んだ弾で、着弾すると花弁のように外側に開く。貫通力は低いが、殺傷能力は通常弾よりも高い。ただ、ライフルのホローポイントは珍しいからか少し割高だった。
「直斗じゃないの。何か探してる?」
彼がしばらく悩んでいると、聞き慣れた声が横からした。見ると、明里と柑奈も買い物に来ていたようだ。2人の私服姿は新鮮だった。明里はパーカーを着たシンプルな服装で、柑奈は季節感のあるロングスカートを着こなしていた。ちなみに、直斗は長袖Tシャツにジーンズという無難な格好だ。
「私服見るの、なんか新鮮だな」
「そうね。何度か休みの日に会ったことあるけど、制服の方が多いものね」
その話を終えると、先程の話題へと戻った。
「えっと、何か探し物してるのか、だっけ?」
「ええ」
「大したことじゃないよ。ただ、いつも使う弾のホローポイントを買おうかどうかってね」
彼は明里にその商品を見せた。
「なるほど……弾薬のバリエーションはあってもいいかもね」
「それよりさ、明里はアレ買うのか決めたの?」
「そうねぇ……そろそろ決めないとよね……」
柑奈に言われた明里は、腕組みをして悩んでいた。
「明里も何か買おうとしてるのか?」
直斗が聞くと、彼女は「高い買い物なのよ」と言って彼を案内した。指差す先にあったのは、M203グレネードランチャーだった。
M203はグレネードランチャー、つまりは小型の大砲のような兵器で明里のM16ライフルに装着することが出来る。そのためには専用の四角形のハンドガードと照準器が必要だが、その商品にはそれらパーツも付属していた。
「欲しいけど、すぐ手が出る値段じゃないのよね」
「確かに結構するな……」
買えない値段ではない。しかし、一般の高校生に例えると来月はゲームセンターやカラオケにほとんど行けなくなる、そのレベルの値段であった。
「でもこれならあの硬いやつとかも倒せるし、集まってれば一気にやれるよ!」
「でも慎重に検討した方がいいぞ?グレネード弾も結構するんだし……」
「私の葛藤を悪化させないでよ……」
2人のアドバイスが彼女を追い込んだのか、明里は唸るような声を出した。そして、
「決めたわ」
と決意に満ちた眼差しで顔を上げた。彼女はいつもより大股で歩くと暇そうな店員に声を掛け、戻って来た。
「これをお願いします」
そう言われると若い男の店員はガラスの鍵を外し、展示してあったM203を明里に手渡した。
「中々に重いわね……でも、買います」
「お買い上げありがとうございます。グレネード の方はどうされますか?」
「榴弾15発で」
彼女は続いてレジへと向かい、会計を済ませた。
「買ったのか……」
「ええ……。手痛い出費だけど、これは先行投資よ」
明里は買い物袋の重さと、財布の軽さを噛み締めるようにして言った。
「これで作戦の幅が広がるね!」
柑奈は彼女のこの決断を支持しているようだ。直斗も一度慎重になるようには言ったが、チームの火力が上がるのはありがたいことだった。
「こいつには代金分の働きはして貰わないと」
明里の大きな、勇敢とも言える決断に、直斗も心を動かされた。
「よし!俺もあのホローポイント弾を買おう」
「悩んでたんでしょ?無理に買わなくていいのよ」
「気持ちは買う側に傾いてた。でも、明里に背中を押された感じがしたんだ」
そう言うと彼は、先程明里が声を掛けた店員の元へと歩いて行った。
「これって私も買った方がいい流れ?」
柑奈は直斗の背中を見ながら、ショルダーバッグの蓋を開けた。
「だから無理に買う必要ないわよ」
「うん。じゃあ弾の代わりに服買お」
「結局買うのね……」と思いつつも、明里は直斗が会計を終えるのを待った。やがて、彼がレジ袋を持って戻って来る。
「この後どうする?俺は暇だけど」
「せっかくだし他も見て回らない?」
「それいいね!高校生っぽい!」
満場一致で、3人はショッピングモールで休日の残りを過ごすことに決定した。
「そう言えば、雪は一緒じゃないのか?」
多くの人が行き交う通路を歩きながら、直斗は2人に尋ねた。今更になってしまったが、せっかくならいつもの4人で時間を過ごしたかった。
「雪ならここには滅多に来ないわよ」
「そうそう。行きつけの店があるからね」
偶然にも、雪は同じ日に鉄砲店を訪れていた。しかし、直斗達のいるショッピングモール内の店舗ではなく、道路沿いの小さな店だ。店内はやや薄く、どこか古臭い印象だ。ケースの中に並ぶ銃器も定番品は抑えてあるが、古めかしいモデルやあまり使用者を見かけないモデルも多い。店内にいる客は、雪の他に2名ほどだ。ただ、彼女はこの店を気に入っていた。しばらくすると、彼女は初老の店主が彼女に声を掛けた。
「いつものやつ、入ったよ。どれくらい必要かい?」
「100発お願いします」
「はいよ。他にも見ていくかい?」
雪は短く「はい」と答えた。彼女は店内の拳銃のコーナーを見ていた。その時、ドアベルが鳴り1人の客が入って来た。その人物に雪は見覚えがあった。黒髪のショートヘアに眼鏡。以前拠点構築、そして星道の生徒を救出する際に行動を共にした、三原冬乃だ。2人は作戦の時、銃をきっかけに親しくなった。
「久しぶり」
「先輩は何か探し物ですか?」
「注文の品を受け取りに。まあ、しばらく見ていくけどね」
2人は並んで拳銃の棚を見ていた。
「Cz75……」
「久しぶりに来だけど随分増えたね。これは……コルトハンツマン?」
2人とも、最新の拳銃には目もくれずに珍しい品ばかりを探していた。
「そういえば、雪のその髪って染めてるの?」
冬乃は彼女の銀髪について言った。
「入学して少ししてから……。気持ちを新たにしようと思って」
「校則緩からね……私も染めようかな……なんて、2年半以上思ってるんだけど」
雪よりもやや長い自分の髪を、冬乃は軽く触った。
「じゃあ、そろそろ注文の品受け取って来る」
そう言うと彼女は店主のいるレジへ向かった。支払いを済ませると、冬乃は雪の所へ戻った。
「何買ったんですか?」
「ふふ……これだよ……」
そう言い、彼女は商品の箱を開けて中身を見せた。
「FG42専用、改造50連発ドラムマガジン」
その代物を見て、雪は目を見開いた。
「FG42は20連発の筈じゃ……」
「その通り。だけど、特注のこれなら機関銃のように運用も出来る……」
2人にとっては、その弾倉が何か特別な力を持っているように感じられた。
「自慢はこのくらいにしておいて、雪の方は何か目当ての物があってここに来た感じ?」
「あ、忘れてました」
そう言うと彼女はレジへと向かう。
「彼女と知り合いかい?」
「はい。学年は違いますが……」
「なるほどね。はいこれ、いつものやつだよ」
店主が渡したのは7.62㎜トカレフ弾だ。主にPPSh-41やトカレフ拳銃で使う。
「それにしても、トカレフ弾使う生徒は少ないからね。君含めて5人くらいしか見たことがないよ」
「残りの4人は?」
「星道の生徒さんだよ。あそこはロシア系の火器だからね」
彼女は代金を払い、紙箱に入った弾を100発分受け取った。
「その弾は手に入る所限られるからね」
知らぬ間に隣にいた冬乃に、一瞬雪はビクッとした。
「ここで確実に買えてよかったです。先輩、この後どうします?」
「学校に戻ってマガジンの試し撃ちしようかと……来る?」
「是非とも」
そう言うと2人は、それぞれの商品を手に店を後にした。
翌日昼間、冬乃、奈美、光、大和の4人は危険区域内で車を走らせていた。本来なら授業中であるが、こうして危険区域に向かう時もあるのだ。運転は光で、相変わらず高速で荒れた道を突き進む。
「それが例のマガジン?使い勝手はどう?」
「バランスの悪さを除けば、最高」
奈美は冬乃の新しいドラムマガジンのことを言っていた。
「後続車が僅かに遅れています!速度を落とした方が良いかと」
大和は後ろを振り返る。後続にジープが4台繋がっているが、光の運転について来れず距離はどんどん開いていく。
「少し飛ばし過ぎたか」
彼は大和に言われたように減速した。だが、目的地はすぐ目の前であった。スムーズにギアを落とした車は古いアパートの前に停車した。やがて後続車も追い付いた。
「冬乃、HLは居そう?」
「見たところは敵影なし」
「でも、部屋の中に居る可能性はあります。大和、部屋を調べるぞ」
光は愛銃のM70を車に残して消音器付きのMP5を持ち、64式を構えた大和とアパートの方へと向かった。一方冬乃と奈美は周辺の道を歩いた。後続車から降りた生徒も、散開して敵を探した。
「冬乃、戻って来たね」
Kar98kを楽に持った奈美が言った。
「数年かかって、ようやく」
冬乃もゆっくりと歩きながら返した。
「例の作戦だとあのスーパーまで取り返すらしい」
「それじゃあ、ほぼ完全に取り戻せる訳だね」
「そうだよ。ようやく、取り返せるんだ」
もうすぐ大規模奪還作戦が始まる。2人の言い方には、強い意志が現れていた。
弾薬はある程度は学校で無料、又は定額で入手出来る。しかし1人あたりの上限には限りがあり、扱う種類も少ないため店舗で購入する生徒が多い。




