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放課後遊撃隊  作者: 夜狐
18/27

突撃

前線学校の生徒は時折野営をするため、寝袋や携帯コンロの扱い方も教わる。しかし、実際に野営する機会は少ないためそれら装備は学校の備品を借りる場合がほとんどだ。

「雪、起きて!時間無くなるよ!」

「寒い……」

翌朝早朝、まだ日が昇り切らない内に起床した。柑奈は寝袋に篭る雪をどうにか引き摺り出そうとしていた。秋の早朝は酷く冷え込んだ。

「流石に朝は冷えるな」

「カイロ持ってきて正解だったわね」

直斗は朝食として缶のスープを飲んでいた。ポケットにはカイロを入れてある。中々寝袋から出ない雪を見て、彼はカイロを彼女の寝袋に入れた。しばらくすると籠城も無駄と思ったのか、渋々外へと出て来た。

「スープ温めとくから、寝癖直しなさい」

明里は呆れつつも、彼女の缶スープを携帯コンロの上に乗せた。今日はHLの巣窟である学校を攻め落とす。それが終われば帰還出来るのだ。まだ寝ぼけている雪の髪を、柑奈がクシで直していた。直斗やその他多くの生徒は戦闘に向けての準備をしていた。彼もまた、昨日抜いた弾を、装填用のクリップを使って弾倉に詰めた。全弾入ったことを確認すると、弾倉をポーチへと移し、それを装着する。その時、部屋の入り口に目を移すと星道の生徒が2人立っていた。冬用の黒いセーラー服だ。その内1人が言った。

「あの、突撃の号令を務めてくださる方はいますか」

彼女は右手の信号ラッパを掲げた。すると、柑奈が真っ先に手を挙げた。

「はいはい!私やります!」

彼女は2人の元へ行くと、ラッパを受け取った。直斗は彼女が中学時代に吹奏楽部だったことを思い出した。

「マウスピースは交換済みです」

「ありがとね。合図はいつものでいいのかな?」

「はい。そちらにお任せします」

彼女は簡単な確認を済ませると戻ってきた。

「吹奏楽部なのは前に教えてもらったけど、信号ラッパも出来るんだな」

「簡単なやつならね」

彼女は何回かそのラッパの具合を試すように吹いてみた。無線機は前線学校の生徒も使用するが、大勢に簡単な命令を伝えるときには、未だに信号ラッパが使われている。意味さえ理解すれば、無線機より簡潔に伝達出来るからだ。突撃の号令をなどでは尚更で、また士気を高める効果もある。ラッパの具合を確認した柑奈は、まだ朝食を食べている雪に代わり、箱形マガジンに弾を詰める作業を始めた。手間のかかるドラムマガジンは昨晩に装填済みだ。

「おいおい、急がないとじゃないのか?」

直斗は腕時計を見た。雪は未だ寝起きのままだが、出発の時間が近づいていた。

「いつもはこんなに早くないから……」

彼女はスープを飲みながら普段より小さな声で言った。


 ともあれ、直斗達は出発の5分前には準備を終えた。装備と冬用野戦服を付けた彼が何気なく廊下に出ると、星道の部屋の方から歌声が聞こえた。1人ではなく、大勢で合唱しているようだ。直斗含めその場にいた数人がその歌を聴いていた。しばらくすると歌は止み、完全武装の生徒達が廊下へと出て来た。その中には玲花もいた。目が合い、直斗は彼女に声をかけた。

「さっきの歌は?」

「星道には大きな作戦の前に歌で士気を上げる習慣がありますの」

「なるほどな。何を歌ってたんだ?」

「星道の……軍歌のようなものですわ」

そうしていると彼女は他の生徒に呼ばれ、直斗に軽く頭を下げた後に去って行った。直斗はその星道の習慣を少し羨ましく感じた。宮堀には自衛隊上がりの教官がいるが、装備が統一されておらず、行進曲も無い。あるのはあまり歌わない校歌くらいだった。

「そろそろ時間ね。行くわよ」

明里に促され、直斗も外へと向かった。正面の入り口は戦車で塞いであるので、裏口や大きめの窓から外へ出た。

「雪は大丈夫そうか?」

「ダメね。まだ寝起きって感じ」

建物の外は中よりも一層寒かった。冬のように張り詰めた空気だ。緑系色の冬用野戦服を着て正解だった。星道の生徒達は隊伍を組んで並び始めている。改めて見ても装備は統一されている。中には対戦車ロケットのRPG-7を装備した生徒や、無線機を背負った生徒も見える。茶系色の野戦服を来た彼女らが凛然と並ぶ姿はこの小規模でも壮観であった。

「これより、最終目標である学校への強襲を行います。建物への損害を少なくする都合上、歩兵突撃によっての奪還となります。各員、友軍誤射は絶対にしないように」

集団の前に立った玲花が凛とした声で伝えた。直斗は何回か彼女と話して、彼女が上品なお嬢様と言った印象と、軍隊の指揮官のような雰囲気の2つを持っていること、そしてそれを的確に切り替えられる人物だと感じた。

「総員着剣!」

玲花が号令を掛けると、星道のライフル隊は素早く銃剣を取り付けた。宮堀の生徒も着剣する。静かな空間に、金属音がよく響いた。

「出撃です。行きましょう」

準備が整ったことを確認すると、玲花が静かに言った。


 隊列は白み始めた道を静かに進んだ。足音と装備の擦れる音だけが聞こえる。柑奈は玲花に呼ばれ、なにやら打ち合わせをしていた。夜の方が活発なHLは寝始めた辺りなのだろう。危険区域であるのに道中で1匹も出会わなかった。住宅街を抜けると、やがて学校が見えた。3階建ての普通の校舎だ。校門の前は道を挟んで畑のようになっており、全員がその土の上に伏せた。雑草が姿を隠してくれる。左隣には明里達がいる。ふと右を見ると、星道の生徒がいた。昨日見た、門番の1人だった。着剣したAK74を持つ彼女は、明らかに緊張していた。

「隣、失礼するよ」

そう声がしたと思うと、2人の間に青い腕章を付けた真面目そうな生徒、凛が伏せた。彼女同様、青い腕章の生徒が陣形の間に次々と入っていく。

「お久しぶりですね」

「こちらこそ」

直斗が青腕章の人物を見ているのに気付いたのか、彼女が言った。

「あれはウチの戦闘指導員、要するに後輩の面倒を見る役職です。野戦経験の少ない1年や戦車兵が多いものでして」

彼女らが配置に着くと、今度は伝令らしい人物が姿勢を低くしてやって来た。

「皆さんは第1陣です。号令と同時に突撃し、左方に展開して下さい」

それだけ言うと、彼女は移動した。

「流石、集団戦に慣れてるな」

「ええ。ウチじゃこういうのはほとんどないもよね」

双眼鏡を使いながら、明里が答えた。

「何か見えるか?」

「校舎の中に数匹。校庭に早起きなのが数匹。……HLの場合は夜更かしかしら?」

「かもな。でも、どうせ見えないところに沢山いるんだろ?」

「そのつもりでいましょう」

そうしていると、陣形の中央で玲花が中腰の姿勢になった。彼女は柑奈と目を合わせると、左手を挙げて合図を出した。柑奈は銃を置きラッパを構えると、突撃の号令を吹いた。静かな朝の中、高らかにその音が響く。

「第1陣、突撃!!」

玲花の声を合図に、突撃が始まった。一斉に立ち上がり、鬨の声を上げて走り出す。先頭は玲花と、赤い旗を持った生徒だ。周囲では青腕章の生徒が笛を吹き、命令を復唱している。直斗は真っ直ぐに校門を抜けると左方へと移動した。校庭に伏せたタイミングで再びラッパが吹かれ、第2陣が向かって来る。そして、それに反応して前方からHLが襲い掛かる。

「射撃開始!!」

玲花の合図で、一斉に銃が火を吹いた。校舎の中とその後ろから現れたHLに弾丸の雨が降り注ぐ。特に玄関は最低でも2艇の機関銃が狙いを付けていた。射撃の轟音に顔を顰めながら、直斗はHLの胴体に狙いを定めた。だが、引き金を絞る前にそのHLの頭が吹き飛んだ。HLの死体は山のように重なり、すぐに戦闘は終わるだろう。直斗が次の標的を探しながらそう思っていると、地響きのような咆哮が聴こえた。

「なんだ?」

校舎の裏の方からだ。顔を上げると、ゆっくりとそのHLが姿を見せた。

 それは巨大な亀のような姿をしていた。甲羅の頂点は建物の3階にまで達していた。すぐにその巨体に集中射撃が浴びせられる。だがほとんど効き目が無いように見える。HLは怯みもせず、ゆっくりと歩みを進めた。そして、その隙に通常のHLの群れが押し寄せて来る。直斗が顔を上げると、隣にいた星道の生徒が見えた。彼女は慌てて銃の弾倉を変えようとしていたが、軽くパニックになっているのか手間取っていた。そして、彼女の傍らに対戦車兵器、RPG-7が置いてあるのを見つけた。弾頭は装填してあった。突然の強敵出現に混乱し、忘れてしまったのだろう。

「借りるぞ!」

直斗はそれを掴むと後方に走り、発射準備を整えた。使い方は知っている。肩に乗せて撃鉄を起こし、亀型HLの首辺りを狙って引き金を引いた。射出された弾頭は首の付け根、甲羅に命中した。それでも銃弾よりは効力があったようだ。その爆発で、星道の生徒達が叫び始めた。

「対装甲戦闘!!RPG射手と弾薬手は後方へ!残りは雑魚を任せる!」

陣形から数人の生徒が抜け、直斗と同様にRPGの発射準備に掛かった。

「これ、お願いします!」

弾薬手だろうか。弾頭が複数本入ったバックを背負った少女が駆けて来た。

「俺でいいのか?」

「はい!時間がないので」

彼女は弾頭を組み立てて渡すと、直斗はそれを銃口に装填した。そして再び発射する。次々と他の場所からも攻撃が繰り出される。連続する爆発には流石のHLも耐えられないようだ。やがて、HLは前脚を折って地面に頭をつけた。だがまだ息はあり立ち上がろうとしていた。その時、1人の星道の生徒が陣形の大外を回って走り出した。彼女は雑嚢を手に抱えている。

「何をする気だ?」

彼女はその雑嚢をHLの大口に放り込むと、全速力で戻って来る。

「伏せろ!!」

彼女はそう叫び、周りが伏せたのを確認すると、いつの間にか持っていたリモコン式起爆装置のボタンを押した。先程彼女が投げた物、梱包爆薬が轟音と共に炸裂した。距離があったにも関わらず、直斗は爆発の熱を頬に感じた。そして、それを直撃したHLの頭部は原型を留めていなかった。

「残すは雑魚だけだ!1匹たりとも残すな!」

爆薬を仕掛けた彼女はそう言うと、陣形の方へと戻って行った。よく見ると彼女は、旗を持って突撃の先陣を切った生徒だった。長い金髪が特徴的だ。彼女の活躍もあり、残るHLは僅かになっていた。

 

「撃ち方止め!撃ち方止め!」

僅かに生き残りに過剰なまでの射撃が浴びせられ、すかさず玲花が号令を出した。最後の銃声が消えると、辺りには銃に安全装置を掛ける音がよく聞こえた。校庭にはおびただしい数のHLの死体が転がり、校舎には無数の弾痕が残っていた。何人かの生徒達はHLの死体を集めて燃やすため、校庭の端の方に穴を掘り始めていた。

「終わったわね」

その光景を眺めながら、傍に来た明里が言った。

「次は周囲の警戒だったか?」

「ええ。これだけ派手にやったら、集まって来るわ」

直斗はRPGを撃つために置いたFALを拾うと、校門の方へと歩いた。すると、学校に続く道を星道のトラックと2両と護衛の車3両が走るのが見えた。車列は校門から校庭に入ると停車し、黒い戦闘服を着た集団が降りた。

「星道の特殊部隊ね」

「ああ、校舎の掃討か」

校舎内の掃討はその部隊が担当する。彼女らは突撃には参加せず、野営した建物で待機していたのだ。その集団を見た後は、学校付近の道を監視していた。幸い今のところ、HLの気配はない。戦い終えた後、早朝の冷たい空気は清々しく感じた。直斗は監視のため、双眼鏡を使った。拡大された視界を徐々に動かすと、あるものを捉えた。

「2時方向、コンビニの近くだ」

それに視線を合わせたまま、彼は言った。隣で明里が双眼鏡を取り出す気配がした。

「何よあれ……」

彼女も直斗と同じものを見た。

 それは、HLの群れだった。だがその構成は異様だった。通常の群れのボスに当たる個体が何体も集まっていた。そして群れの中央に統率者と思われるHLがいた。3メートル程の人型で、外観こそ特徴に欠けるが異質な雰囲気を放っていた。

「どうする……?」

「……気付いてないなら無視しよう。交戦は避けた方がいい」

明里はM16を構えたが、直斗はそれを制した。先程の戦闘で弾薬、特にRPG-7を多く消費している。この状態ではこちらから仕掛けるべきではない。やがて、その群れは通り過ぎ、視界から消えた。


 校舎の方を振り返ると、中から時折銃声が聞こえた。星道の特殊部隊が内部の生き残りを仕留めているのだろう。やがて銃声が収まると屋上に彼女らが姿を現し、歓声が上がった。

「終わったみたいだな」

この後は民間軍事会社に占領を任せる手筈だ。その前に、直斗は玲花に先程のことを伝えようと思った。任務を終えた特殊部隊員と話している彼女に近づく。その前に、ある1人の生徒に話しかけられた。

「君だったかな?真っ先にRPGを撃ち込んだのは」

彼女は、あの大型HLに梱包爆薬を仕掛けた金髪の生徒だった。

「アリナだ。あれは見事な判断だったよ」

そう名乗った彼女は握手を求めた。

「俺は直斗って言う。その、直接爆薬仕掛けたのはすごかったよ」

2人は握手を交わした。

「先駆けと危険な仕事は私の得意分野だ。まぁ、今回先駆けは君に越されたけどな」

そう言い、アリナは笑った。

「さて、私は旗を屋上に立てに行こう。制圧の証だ。勇敢な同胞に会えてよかった」

それだけ言うと、彼女は校舎の壁に立てかけてあった旗を取って中へと入って行った。直斗は本来の目的のため、玲花の方へと歩いた。

「お疲れ様ですわ。何かご用ですか?」

「ああ。この後は企業の部隊に引き継ぐんだよな?その事で実は……」

振り返った彼女に、直斗はHLの群れの事を話した。

「異様な群れが……了解しましたわ。無線で連絡をしておきます」

彼女はそう言うと近くで待機していた、無線機を持った通信兵の所へ向かった。


 やがて企業の部隊が到着すると、玲花は状況を報告した。到着した部隊は重機関銃や対戦車ロケットなどの重武装だった。また校門には有刺鉄線も設置するそうだ。引き継ぎの間に、直斗達は可能な限りHLの死体を掘った穴へと集めた。そして、学校を去る時に火を付けた。HLとは言え、死体を触るのは正直抵抗があった。野営地である施設へ到着すると、後は宮堀へと帰るだけだ。直斗はまた戦車の砲塔付近に座っていた。死体の転がる森林公園を、車列が速いペースで通り過ぎる。その際死体を戦車が踏み潰し、彼は不快な振動を感じた。

 

 速度を保ちつつHLには無視か強行突破をしたため、行きよりも早く戻ることが出来た。宮堀の校庭に両校の生徒は整列し、感謝と別れの挨拶を交わした。これにて、合同作戦作戦は無事に終了した。すぐに解散となり星道の生徒達は車や戦車へと戻る。その時、玲花が直斗に声をかけた。

「もしよろしければ連絡先、交換いたしませんか?あなたには不思議な縁を感じたもので」

「ああ。少し待ってな」

直斗は携帯を取り出した。確かに彼女とは妙に接点が多かった。

「ありがとうございます。学校を跨いだ、個人間での関わりも必要だと思いますの」

「そうだな。何かあったら、連絡してくれて大丈夫だ。4人程度でよければ、協力出来る」

「こちらこそ。戦車が必要な時はいつでもご連絡下さい」

「……それは冗談か?」

「半分本気ですわ。時間は必要ですが、1台程度なら……」

そう微笑む彼女の顔を見て、直斗は強力な味方を得た気がした。


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