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放課後遊撃隊  作者: 夜狐
17/27

合同作戦

星道女子校は小規模の偵察などを除いて集団戦が基本である。一方宮堀は、6人以下の小部隊での行動が多い。

 大規模作戦が正式に発表されどこか慌ただしい様子の宮堀に、再び星道の生徒が訪れた。あの時救助した4人の他に、先日もいた白い腕章を付けた将校の生徒、そして新たに生徒会長も一緒だった。彼女らは感謝の言葉を述べ、短剣を渡した。シンプルな見た目だが、柄や鍔、鞘に装飾が施されている。直斗達は勿論、奈美の分隊やトラック、護衛のジープに乗っていた生徒にも渡された。装飾入りの短剣やホルスターなどを贈るのは星道の風習らしい。この時初めて、白い腕章の人物の名前が分かった。彼女は白川玲花(しらかわ れいか)。明里の言ったように、戦車隊の隊長を務めているらしい。この前会った時もそうだったが、直斗と同じ高校2年生とは思えぬ、上品な言動をしている。

「ところで、皆様は合同作戦についてはご存知ですか?」

一段落したところで、玲花がそう切り出した。

「合同作戦?」

「ええ。宮堀の皆様と(わたくし)達星道との……」

彼女の言っていた作戦のことは初耳だった。

「皆様が計画をしている作戦、そこへ星道が合わせるように提案した作戦なのです。ある地点を共同で落とすことにより私達は拠点の確保を、皆様は側面からのHLの妨害を軽減できる、そのような作戦ですわ」

「2、3日前に決まった」と言うようなことを彼女は付け加えた。話を持ちかけられた宮堀の運営陣も、攻勢を有利に進められると快諾したそうだ。

「ただ、最近どうにもHLの動向に違和感があります。作戦の時はどうかお気をつけて……」

HLの動向に違和感がある。直斗はどこかで似たようなことを聞いた気がしていた。


 それからの数週間、大規模攻勢に加え他校との合同作戦。時折星道の生徒も訪れ、宮堀は混乱寸前とも言える忙しい日々を送っていた。だがHLに打撃を与えること、そして珍しい相手と共闘出来ることから、生徒達の士気は高かった。作戦には2年生の遊撃科を中心に部隊が編成された。小規模での行動の多い宮堀の生徒向けに、集団戦の特別授業も行われた。そして星道との最初の接触から4週間後、ついに合同作戦が実施されることになった。

 作戦当日午後3時。日が落ちるのも早くなり、半袖では薄寒さを覚えるようだった。直斗達作戦部隊、約40人は校庭で待機をしていた。既にジープやトラックの準備は整っている。

「来たな」

直斗は双眼鏡から目を離した。学校に続く道を、4台の戦車とトラック、ジープと同等の車が1列になって進んでいる。星道の生徒達は戦車の砲塔付近に乗っていた。制服の上に、茶系色の野戦服を着ている。

「タンクデサント……!」

雪が興奮した様子で呟いた。彼女達は歌を歌いながら宮堀の校門を通り抜け、戦車とトラックを停めた。彼女らは素早く戦車から降り、戦車兵はハッチから外に出て、綺麗に並んで整列した。先頭に立つのは当然玲花だ。彼女の後ろ、列の中央には赤い校旗を持った生徒がいる。

「戦車4両、随伴歩兵25名、特殊部隊員15名、只今到着しました」

「こちらも全て整っています。いつでも出撃可能です」

宮堀側の隊長が玲花と握手をした。そして、作戦は実行に移された。

 この作戦での最終目標は、HLの巣窟となっている廃校の制圧だ。更にその道中の森林公園もHLが巣食っており、その場所を戦車と歩兵による部隊で突破するのだ。作戦はHLの動きの鈍い夕方に行い、夜間は近くの廃墟で野営をし、翌朝に学校を落とす。野営の候補地付近はHLの数が少ないこと、夜間であっても屋内で静かにしていれば安全であることは確認済みだ。

 まずは森林公園までの移動だ。その場所までは戦車を引き連れていて、その上安全な道を選ぶため1時間程の時間が必要だった。宮堀の生徒達はジープやトラックの他、何人かは星道の戦車に乗ることが出来た。直斗は、玲花が車長を務める戦車の車体に座っていた。隣には雪もいる。

「戦車なんて初めてだよ」

玲花に「そんなにかしこまらなくても大丈夫」と言われたので敬語はやめていた。だが、彼女自身は相変わらずだった。

「お友達の方も随分と喜んでますね」

「雪は昔の武器とかが好きなんでね。この戦車見たときも興奮してたよ」

星道の装備を見渡すとAK-47や74の他、RPDやSVDなどロシア製の銃ばかりだった。

「星道は教範が東側準拠で、独自の装備調達ルートも確保していますの。と言っても、国家とは特に関係はなく、あくまで装備と教本だけですわ」

ハッチから上半身を出した彼女が振り返った。彼女達の乗る戦車もソ連製のT-34だ。正確にはT-34をモデルにした、前線学校向けの新しい戦車らしい。内部構造などはより便利なものに改造されているそうだ。その戦車の揺れを感じながら、直斗は隊列を見回していた。1台の戦車を先頭にジープやトラックを戦車で挟むようにしての行軍だ。側面からの攻撃を警戒しているそうだ。まだ時間はしばらく掛かる。限られたスペースの中、なるべく楽な姿勢で時間を過ごすことにした。


 「全車停止、戦車部隊は前へ。各員、突破陣形へと展開せよ」

普段とは違う凛とした声で玲花が指示を出した。森林公園の入り口へと到着し、隊列は大きく形を変えた。4台の戦車が前方へ、周囲に歩兵やジープが展開する。トラックは後方から護衛の部隊と共に少しの間待機する。

集団戦に慣れぬ宮堀は少し手間取ってしまった。この公園突破は星道が前の敵を、側面を宮堀が担当する。直斗と雪も戦車から降り、先頭に近い右側面へ移動した。

「……前進!」

陣形の展開が終わったことを確認すると、彼女が指示を出した。4台の戦車が前進をする。HLを誘き出すため、そして歩調を合わせるためか1台の戦車が外付けの大型スピーカーから行進曲を流していた。勇壮なマーチに合わせ、隊列が広大な芝を前進する。

 やがて、前方の森の中からHLの群れが現れた。数は計れず、種類も多様だ。戦車が一斉に火を噴いた。轟音と共に榴弾が放たれ、着弾点で炎と土煙、そしてHLの千切れた身体を巻き上げる。生き残りには機銃や小銃の容赦のない一斉射撃が襲いかかる。

「凄いな……」

その火力に直斗は圧倒されていた。

「直斗!こっちにも来たわよ!」

明里が叫ぶ。見れば雑木林からHLの群れが飛び出して来た。直斗はセミオートで弾を節約しながらHLを仕留める。特に珍しい姿のはいなかった。後方、つまり陣形の反対側からも銃声が聞こえる。時折前方を見て戦車隊の前進に合わせて移動する。

「アシッド!!戦車に近付けるな!!」

その誰かの声に振り返ると、陣形の斜め前から肥満型のHLが体を揺らしながら突進していた。戦車の車長が機銃で射殺する。だが、続いてもう3体が戦車へと向かって行った。

「まずい!!」

直斗はフルオートに切り替え、薙ぎ払うように掃射した。1体は仕留めた。だが残る2体が戦車に張り付き、履帯の部分に強酸を吐き出した。金属の部品がいとも簡単に溶た。片輪を失った戦車が制御不能になり、陣形を乱して停車する。主砲は陣形正面に向け、車長はハッチの機銃で近づく敵を掃射している。だが、その死角を縫って1体の人型、他より細身で素早いHLが車体を登り始めた。

直斗は引き金を絞ろうとした。だが、ハッチに鋭い爪のある腕を掛けようとするHLを狙えば、今機銃を撃っている彼女にも弾が当たる可能性があった。投げ出すように銃を地面に置くと、腰の鞘からコンバットナイフを抜いて走り寄る。

「誰か助けて!!」

既にHLは車長の生徒に組み付き、鋭い爪を彼女に立てていた。直斗は車体に飛び乗ると、ナイフをHLの首に後ろから突き刺した。乱暴にそれを引き抜くと、今度は腕を回して首筋を掻き切る。ようやくHLは爪を離し、彼はそれを砲塔から蹴落とした。振り返った車長がホルスターから拳銃を抜き、何発も撃ち込んで息の根を止める。

「ありがとう……助かったよ……」

彼女は首や頬に切り傷を負っていた。出血はしているが、軽症の部類だ。彼女はハッチから車外に脱出し、残る4人の乗員も外に出た。拳銃や短機関銃で武装している。彼女らは直斗に礼を言うと、陣形の中央へと移動した。

「なんとか、助けられたな」

「そうね。ただ……」

直斗は明里と合流した。彼女は中央へと避難した星道の生徒達を見ていた。顔の傷は長く残るだろう。それが同じ女子としては心配だったようだ。

「いいえ。あの子も分かってたはずよね。そういうリスクはあるって」

隊列は故障した戦車をその場に残し、前進を再開した。直斗もFALを拾い、戦闘へと戻った。

 宮堀と星道の連合部隊を前にHLはその数を減らしていた。至る所に死体が転がり、進む先の地面は榴弾の衝撃で抉れていた。突進する獣型を2体まとめて射殺した直斗は、雑木林の先に窪みがあるのを見つけた。そしてそこに、何やら黒い物体が見えた。

「あれって、HLの……」

「ええ。繁殖に特化したタイプね」

明里もそれには気付いたようだ。HLには未だ謎が多い。繁殖もその一つだ。同型のHL同士で増える場合もあれば、子を産み落とすことに特化タイプも存在している。今、2人が発見したのがそれだ。それは高さ1メートル程もある、巨大な芋虫のような見た目をしている。

「何か見つけた?」

前列にいた星道の生徒が話しかける。彼女は火炎放射器を装備していた。

「ああ。あそこに」

「なるほど。私の出番だね」

彼女は笑みを浮かべるとその窪みに近づき、自身の獲物をそちらに向けた。勢いよく燃え盛る炎が放たれ、HLを包み込んだ。甲高く、凄まじい声を上げてそれはのたうち回った。よく見ると、HLは胴体の真下に4本の足を持っていた。辺りに焦げ臭い、嫌な臭いが漂う。

「ああいうのは燃やすのが1番。弾丸だと産まれる前のが残るかもだからね」

彼女はHLが転げ回る先に火炎を放ち、更に燃え上がらせた。やがてそれは身体を丸め、動かなくなった。

「へへっ。一丁上がりってね」

彼女は得意げに笑っていた。

「なんというか……凄惨ね……」

「ああ……」

HLの焼死体を後にし、3人は隊列へと戻っていった。その頃には生き残った敵は僅かになっていた。星道のライフル隊がそれらを片付け、戦闘は終了した。

 連合部隊は故障した1台の戦車から持てる限りの荷物を持ち出し、進軍を再開した。この時点で損害は戦車1台と軽症複数名。離脱者は3名だが、命に別状はない。

 森林公園を抜け、2階建ての何かの施設へと到着した。戦車や車両を駐車場に停め、黒い戦闘服を着た星道の特殊部隊が中の安全を確認した。この施設が今夜の夜営地となる。安全が確認されると、トラックから食料や寝具を運び込んだ。


 一通りのことが終わると、明日の朝までの長い休息時間となった。既に日はほとんど沈んでいる。トラックに置き忘れた荷物を取りに駐車場まで向かった直斗は、戻る途中で戦車に近寄った。アシッド対策にシートが掛けられているが、改めて正面から見るとその車体は静かな威圧感を放っていた。彼は兵器マニアではないがつい見続けてしまった。

「ってそろそろ戻らないとな」

もうHLが活発な時間だ。明里にもすぐ中に戻るよう言われていた。その時彼は、足元に何かが落ちているのを見つけた。それは星道の戦車兵が被っていたヘルメットだ。布製で耳まで覆えるような形状をしている。誰かが落としたのだろう。彼はそれを拾うと、施設の方へと戻った。建物の入り口は戦車を横付けして塞いであるので、荷物を持って入るのは少し苦労した。

 施設は宮堀と星道の生徒で場所を分けて使っていた。壁の張り紙などからして、区役所か何かだったのだろう。自分の荷物を明里達に預けると、星道のヘルメットを持ち主がいるであろう所へと持って行った。会議室、と表示プレートのある部屋に近づくと2人の女子生徒が門番のようにしてパイプ椅子に座っていた。傍には自動小銃が置かれている。

「ここから先は男子禁制です」

「そうなんだけど、その」

「それ、戦車兵の……どうしてあなたが?」

彼女らが不審そうな顔を向けてくる。単純に忘れ物を届けに来ただけだが、怪しがられてしまった。その時、2人の後ろから「どうかしましたか?」と声が聞こえた。玲花だ。彼女も同様に、直斗が手に持っている物について質問した。

「戦車の所に落ちてたんで、届けに来たんだが……」

「そういうことでしたのね。ありがとうございます」

玲花はそれを受け取った。

「それなら先に言ってくださいよ」

番兵2人に「一方的に疑ったのはそっちだろ」と言いたい気持ちもあったが、言わなかった。玲花は一旦部屋の中へ入る。少しすると、1人の生徒を連れて戻って来た。彼女は、以前直斗達が助けた4人の1人だった。記憶だと、砲手の1年生のはずだ。

「ありがとうございます!って、あなたは……」

「その、また会ったね」

お互いにそのことに気が付いたようだった。

「あの、もしよろしければ少しお話ししませんか?私も、他の学校の方とお話しするのは滅多になくて」

玲花にそう誘われ、3人は近くの椅子で話すことにした。


「それにしても、凄い火力だったよ。星道には全部でどれくらいの戦車が?」

「およそ30台程ですわ。ただ、全ての戦車を同時に動かせる訳ではありませんが……」

学校の防御や予備もあり、同時に向かわせられる戦車の数は決まっているそうだ。それでも、その火力は身を持って体験している。

「じゃあ、今回の合同作戦も?星道だけで充分な気がしてたんだが……」

それは直斗が少し気になっていたことだ。あれだけの火力であれば、わざわざ合同作戦など立てる必要がなかったのではないかと。

「概ねはその通りですわ。遠征中の部隊と、学校と周辺の防衛の要因の確保のため。それから……」

「同胞との連携を強めるため、ですよね」

1年生の彼女が続きを言った。

「ええ。前線学校同士の連携を強め、HLに対してより広範囲で対応可能にする。それがこの作戦のもう一つの目的になります」

「なるほど。こっちとしても頼もしいよ」

しばらくの間3人は雑談をしていた。同じ前線学校でも星道は全くの別世界のように感じた。だが、明日も早いということで早めに解散となった。去り際、玲花は言った。

「明日は早朝に突撃を仕掛ける予定です。宮堀の皆様も、入念な準備をお願いしますわ」



 直斗が戻ると、まず明里が気付いた。

「随分遅かったわね」

「向こうの生徒と話しててさ」

「もしかしてナンパでもしてた?」

柑奈が揶揄うように言った。

「そんなことしてないって」

直斗は座ると、夕食の準備をした。と言っても、ゼリー飲料と携帯食料だ。他の生徒も同様の食事だ。中には缶詰を固形燃料で温めて食べている生徒もいた。

「久しぶりに食べたな。これ」

「そうね。泊まりの仕事なんて少ないものね」

明里達は直斗が話している間に済ませたようだった。雪はデザート代わりなのか、ジュースの粉末を水に溶かしていた。

「明日はかなり早いんだよな」

「そうよ。だから早めに寝た方がいいわ」

明里は寝袋を用意していた。

「ねぇ、マガジンの弾は抜いた方がいいかな?それとも入れっぱなし?」

装備の手入れをしていた柑奈が言った。銃は一箇所にまとめて置いてあるが、弾倉とその他装備は個人で持っておく。

「そうだな……俺は抜いておくよ。入れっぱなしはバネがダメになりやすいって言うしな」

直斗はFALの弾倉から弾を抜く作業を始めた。抜いた弾は蓋の付いたポーチに入れておく。

「そうね。明日の朝入れる時間くらいはあると思うわ」

明里と柑奈もそうした。だが、雪は寧ろ逆だった。ドラムマガジンに弾薬を入れていた。

「私のは時間かかるから……」

PPsh-41のドラムマガジンは装填に手間がかかる。彼女はマガジンの蓋を開いて、中央のネジを回しながら弾薬を1発ずつ立てるように入れていく。安全のため、厚手の手袋を付けていた。

「装填が手間なら、長い方のマガジン使えば?」

「だめ。バラライカはドラムマガジンじゃないと」

明里にそう言われたが、雪は拒否した。思い返せば、彼女はドラムマガジンを使っていることの方が多かった。

「何にせよ、早く寝なさいよ。明日は早いんだから」

明里はそのまま寝袋へと入った。装備は緩めているが、鞘に入れた銃剣はベルトに付けたままだ。

「俺も、作業終わったら寝るかな」

そう言うと直斗は、最後のマガジンから弾を抜いた。

前線学校の生徒は時に学校や危険区域で夜を過ごすこともある。そのため野営の基礎を授業で教わる。しかし実際に行う機会は少ないため、寝具等は学校の備品を使う生徒が多い。

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