同胞
お久しぶりです。私生活が忙しかったため、1ヶ月程投稿出来ませんでした。最近は安定し始めたため、また投稿を再開したいと思います。
「先輩!また来ます!」
「食い止めろ!セミオートで弾を節約するんだ!」
少女が叫ぶ。先輩と呼ばれた彼女は指示を出し、自分は別の窓から疾走するHLを小銃で射殺した。彼女は、残りの弾薬が少ない事を憂いていた。
(残り1本と半分か……)
その時、別の方を警戒していた機関銃が轟音を響かせた。
「機銃はなるべく使うな!イリーナ、そっちを頼む!」
イリーナと呼ばれた少女が、機銃手の隣に移動する。
「クソ……こんなところで……」
彼女は舌打ちをし、迫り来る2体を仕留めた。
「隊長、弾薬が残りわずです」
「生憎こっちもな……」
狙撃銃のスコープから目を離し、イリーナが言った。
「……この波を凌いだら撤退だ。ここにいてもいずれ押し切られる……」
彼女は自分の選択を後悔していた。
「いや、後悔している暇はない。今はとにかく最善策を考えろ……」
直斗は、銃声の方へと車を走らせていた。確実に音は近くなっている。
「直斗、あれ!」
助手席の明里が叫んだ。直斗も彼女が目にした物が見えた。軍用車だ。だが、近くに人の気配はなかった。
「あの銃声の人達のか……あそこだ!」
彼は50メートル程先の建物からマズルフラッシュを認めた。銃声もそこから聞こえる。彼はクラクションを鳴らして近付き、車を止めた。その音に反応し、3体の狼のようなHLが突進して来る。
「任せて」
雪が車から飛び降り、PPSh-41で3体を仕留める。続いて2体、今度はトラのような姿をしたHLが物陰から現れ、襲いかかる。相応に図体が大きく、そして素早い。
「……あれは無理」
「オッケー!」
応戦しようとした雪はジープの方へと逃げた。代わりに、柑奈が車載のM2でHL達を薙ぎ払った。50口径の弾丸がHLの体を砕いた。2体を仕留めると、柑奈は引き金から手を離した。
「いい判断だったわね。あれは拳銃弾じゃ倒せないわ」
「明里、あのHLは?見たことがない」
「あのトラみたいなのは獣型でも強い方よ。私も滅多に見かけないけど……」
「君達は一体?」
直斗が明里と話していると、建物の中から声が聞こえた。女性だ。
「俺たちは宮堀の生徒です。そっちは?」
「今そちらに向かいます」
声の主はそう答え、建物のドアを開けて姿を現した。彼女は黒髪を後ろで束ね、メガネの似合う真面目そうな女子生徒だった。彼女は半袖のセーラー服を着ていた。胸には赤色の紐タイを付け、左腕に青い腕章を付けている。
「私達は星道女子校の生徒です」
彼女の後ろに、もう3人女子生徒がいる。
「来てくれて助かりました。弾薬が残りわずかだったので」
そう言う彼女は中西凛と名乗った。AKS-74を持っている。凛の後ろの生徒達はそれぞれ自動小銃と機関銃、狙撃銃を持っていた。だがそのいずれもロシア製だ。
「あそこにある車はあなた達の?」
直斗は先程軍用車を見かけた方を指差した。
「ええ。生憎、アシッドにやられましたが……」
「アシッド?」
聞き慣れない言葉だった。明里の方を見たが、彼女も首を傾げていた。
「HLの一種です。太った人型で、強酸性の液体を吐く。この辺りでは見かけないので知らなくても無理はないでしょう」
凛はこれまでの経緯を話した。彼女達4人は訓練も兼ねた偵察任務に当たっていた。車両を止め廃墟の捜索に入ったが、その間にアシッドというHLに車両を使用不可にされてしまった。アシッドはその場で仕留めたが、銃声が他のHLを呼び、あの建物に避難したそうだ。
「無線機とか、使えないんですか?」
「それもやられてしまったよ」
運悪く、直斗達のジープにも無線機は積んでいなかった。
弾薬は残り僅かで、全員をジープに乗せて離脱することも出来ない。
「私が先輩達の方へ伝えに行くわ。雪、護衛について」
そう言うと明里は車の運転席に座った。明里に呼ばれた雪も車へ乗り込んだ。
「離脱用にトラックを呼ぶから、それまでなんとか耐えてよね」
「任せてくれ。出来れば、護衛に2台ほどジープも連れて来てくれると助かる」
「了解したわ」
彼女は直斗にそう言うと、車のエンジンをかけて発進させた。その音に反応してか、瓦礫の影から1体の人型が飛び出した。
「3時方向!!」
女子生徒の1人が叫び、皆がその方に銃を向ける。その中で柑奈が真っ先にM2カービンを3連射し胴体2発、頭に1発撃ち込んで仕留めた。まさに一瞬だった。
「助かったよ柑奈」
「間に合ってよかった……危なかったかも」
彼女は冷や汗を拭う仕草をした。
「素晴らしい反射、そして精度でしたね」
星道の1人、狙撃銃を持った長い銀髪の生徒が前に出た。彼女は真っ白な肌をしていた。
「もしかして、あなたは狙撃手ですか?」
「違いますけど……」
「そうでしたか。かなりの腕前でしたので」
彼女は柑奈に狙撃手の道を勧めた。
「せっかくのお誘いですけど、私は感覚で狙ってるから……」
それを柑奈はやんわりと断る。柑奈は確かな銃の腕を持っている。だが、彼女にはあくまで自己流の撃ち方があるのだ。
「自己紹介が遅れましたね。私はイリーナと言います」
「外人さんだったの?確かに綺麗だなとは思ったけど……」
「正確にはハーフです。母方がロシア人の」
柑奈も自分の名前を言った。この時にイリーナと凛が2年であることが分かった。残る2人は1年生だ。
「この2人は戦車兵で、それぞれ砲手と操縦手です」
凛が彼女達2人を紹介した。
「初めて会ったよ!戦車の中ってどんな感じなの?」
柑奈は興奮した様子で2人に質問していた。直斗も星道の戦車乗りを目にするのは初めてだった。
30分程が経過した。念のため付近の建物に隠れていたが、あれ以来HLの接近は見られなかった。
「来ました!トラックです!」
双眼鏡を覗いていた砲手の少女が言った。宮堀のトラックが向かってくる。先導しているのは明里のジープだ。
「柑奈、辺りを警戒するぞ。エンジン音で集まってくるはずだ」
直斗はFALの安全装置を外した。やがて幌を張ったトラックが接近し、荷台を向けて停車した。奈美達の車と、もう1台の武装したジープが護衛に付いている。
「すぐに乗車しましょう。多数接近中です」
イリーナがスコープ越しにHLを捉えた。
「救援感謝します!早く荷台に乗るんだ!」
凛は1年生2人を乗せた後、自分もトラックに乗り込む。操縦手の少女が持っていた機関銃を荷台の中で構える。直斗達もそれぞれ車に乗り、急いで発進させる。
その後方を、多数のHLが全速力で追って来る。直斗達のジープはトラックの右側についた。彼はFALの銃床を折り、単発でHLを狙う。他の車両からも拳銃やライフルの弾丸が飛ぶ。車載のM2は全力で駆け抜ける時には安全上使用が難しい。
「2時方向、アシッド!!」
荷台から凛が叫んだ。直斗がその方向を見ると、タンクのような体型をした人型のHLが2対見えた。不恰好に両手を振り回しながら走っている。
「あれがなんでも溶かすってやつか……」
直斗は不自然な射撃体勢になるFALを置き、ホルスターから拳銃を抜いた。だが、アシッドの前を疾走する普通のHLが邪魔だ。弾丸がそのHLで止められてしまう。
「自分達にお任せを!!」
横からの声に振り向くと、声の主は大和だった。運転手の光は車両を直斗達の横に強引に寄せ、アシッドの前に出る。そして冬乃が車両後方に付けたM1919機銃を掃射する。更に大和がHLの群れ後方に手榴弾を投擲した。強靭な肩から投げられたそれは、車両から充分に離れた場所で爆発した。残るHLも次々と射殺された。
「今ので最後?」
「だといいけどな」
柑奈とそう話した直後、左後方から新手のHLが飛び出した。それは4速歩行で、豚くらいの大きさがある。丸みのある体に堅そうな棘が何本も生えている、巨大なハリネズミのような姿だ。その数は4体だ。
「なんだあいつ!?」
直斗は初めて見るタイプだった。彼はブローニング拳銃を発砲するが、手応えがなかった。隣で柑奈もM2カービンを撃つが、
「弾が弾かれてる!」
と叫んだ。そのHLの足は見かけよりも早かった。凛や冬乃が機銃で攻撃するが多少怯みはするものの、すぐにまた突進の勢いをぶり返していた。
立ち上がってM2を使うか。だが、それには転落の危険がある……直斗が考えているとき、トラックの荷台から凛が言った。
「目だ!奴の目を狙うんだ!」
「目を狙えって言っても……」
「なるほどね!」
柑奈は狭い車内でも構えやすい、自身のM1911で慎重に狙いを定める。トラックの荷台でもイリーナが狙撃銃を構えている。柑奈が発砲した。だが、揺れる車の上では弾丸を命中させるのは難しかった。その上、車は瓦礫を避けるために蛇行運転になっていた。
「明里、少しの間真っ直ぐ走って!」
「今なら行けるわ!やるなら急いで!」
彼女は直線で走れるコースを見つけると少し速度を落とした。その間に柑奈が引き金を絞った。
3発目で弾丸が命中し、HLは勢いのまま前に転倒した。
「当たった!!」
柑奈が振り返って叫んだ。その時、光の車両が真横に接近した。
「この先は道が広い。全速力で距離を離して、停車した瞬間に全部仕留めるぞ」
それだけ言うと彼はアクセルを踏み込み、トラックの運転席の方へと向かった。彼の言う通り、その先は大きく開けていた。それぞれの車両は横1列になり、限界まで加速をする。また、可能な限りの火力を浴びせ、生き残るHLの速度を少しでも落とす。
「今だ!!」
光が叫ぶと一斉にブレーキをかけた。不快な軋む音が響き、車が減速する。完全に止まり切る前、イリーナが発砲した。続いて奈美もHLの目を撃ち抜く。最後の1体を、柑奈がM2カービンで仕留めた。僅かな差はあったが、ほぼ一瞬の出来事だった。
「ナイスだ!!」
直斗は声を上げて喜び、柑奈もハイタッチを求める。
「またあんなのが来る前に移動するわよ」
明里もほっとしたような表情だったが、すぐにギアを入れ直して車を発進させた。
やがて一行は宮堀が警備する橋へと到着した。重武装の警備科の生徒が彼らを迎えた。車両は校庭端の開けた場所に停めた。
「本当に助かりました……。ありがとうございます」
荷台から降りた凛が頭を下げる。残る3人の星道の生徒も頭を下げて礼を言った。
「困った時はお互い様です。この後は、どうやって学校まで?」
「ここなら携帯も繋がると思うので、ご迷惑でなければ校門まで迎えに来て貰おうと」
彼女はポケットから携帯を取り出すと、どこかへと連絡していた。激しい運転と戦闘もあり、皆が疲れ切った様子だった。
「明里もありがとうな」
一仕事終え、運転席で休んでいた彼女に声をかける。
「彼女らも仲間なんだから当然よ」
少し誇らしげに彼女は返した。もうすっかりと日が暮れ始めていた。そんな中、明里が危険区域のある方角を見て言った。
「あんなHL、初めて見たわ」
「そうだな。あんな奴らがいるなんて」
「……何事もないといいけれど」
彼女はその先を言わなかった。だが、直斗はどうにも不穏な空気を感じていた。
20分程すると、校門の方からエンジン音が聞こえた。見ると、2台の軍用車が停められていた。車から4人の人物、星道の生徒達が歩いて来る。その先頭の、黒髪の生徒は左腕に白い腕章を付けていた。
「皆さま、この度は私達の仲間を救って下さり、ありがとうございます」
彼女は洗練されたような仕草で礼を述べた。
「そんな、大袈裟ですよ……」
思わず直斗達もかしこまってしまう。
彼女は凛達の方へ行くと色々と話しているようだった。中でも、戦車兵の1年生2人を特に心配している様子だ。
「彼女、星道の将校ね」
明里がその人物の方を見て言った。
「将校?階級があるのか?」
「そこまで細かくないけど、命令をする立場は決まってるそうよ。白い腕章がその証」
戦車兵の1年生達と話す彼女は、確かにそれらしい風格を持っていた。そして、彼女が振り返り直斗の達の方へと戻って来る。
「宮堀の皆さん、改めて本当にありがとうございました」
「あ、ありがとうございました!」
彼女がまた礼を言うと、後ろにいた1年生も頭を下げた。彼女らは感謝の言葉を述べ終えると車に乗り込み、自分達の学校へと戻って行った。
「よかったわね。助けられて」
「ああ」
一仕事終えた後の、誇らしさと僅かな疲労がやって来た。そんな中、直斗はあることを思い出した。
「先輩もありがとうございました。ところで、あの拠点はどうなったんですか?」
「それなら大丈夫だよ。駐留する部隊はあの後すぐに来たからね。君達の方も、よくやってくれたよ」
そう言うと奈美は笑った。直斗達は本来の目的である拠点の構築だけでなく、共に戦う仲間である星道の生徒の救出、その双方に無事成功したのだった。
HLは様々な外見や性質を持つが、地域差が大きい。宮堀管轄の地域は比較的特徴の薄い個体が多く見られる。だが、この最近はあまり見かけなかった個体との遭遇も増えている。




