温泉街決戦
一通りの調査が終わり、直斗達は旅館へと戻った。村山は社務所での警戒を続けるためその場で別れた。
「まず、俺たちから報告だ」
川沿いを調査した和也が口を開いた。
「川の所で1匹殺した。風呂場に入って来たのとほとんど同じやつだ」
「そうなのか?」
「ああ。だけど写真のはまだ他にいるだろうな。そっちは?」
「ええ。神社の所で猟師さんと会ったわ。どうやら商店エリアの方には潜んでいないそうよ」
明里も簡潔に報告をした。そして、山を調査する時には彼が同行することも付け加えた。
「それは助かるな。じゃあ、明日はそいつと合流して山狩か」
「そうなるな」
まだ日が落ちる前だがこの日の活動を終えることにした。5人は汗を流すため、また風呂へと向かおうとした。
「お風呂入るのはいいけどさ、水着まだ乾いてないよ?」
「大丈夫。どうせ濡れるし」
柑奈はやや乗り気ではなかったが、雪は特に気にはしていなかった。一旦それぞれの部屋に戻り、水着に着替えて浴場へと向かった。直斗も干しておいた水着を履いたが冷たく湿っていて、シャワーを浴びるまでは着心地が最悪だった。
風呂から上がると、改めてこの日得た情報を共有した。そして、明日の予定も立てる。明日は直斗と明里が神社へ村山を迎えに行き、旅館で残る3人と合流、そのまま山へと向かうことにした。
「そんじゃ、あとは夕飯までダラダラしてようぜ」
早速浴衣に着替えていた和也は畳の上に横になった。
「時間は結構あるけれど……そうね。今日出来ることはなさそう」
「2匹も倒したんだし、上出来じゃないか?」
直斗と明里、和也以外のメンバーは汗で濡れた制服を着替えただけだった。
「私も浴衣に着替えてこよっと。雪も来なよ」
「着方分かんないんだけど……」
「大丈夫!やってあげるから」
柑奈と雪が隣の部屋へと向かった。
「それなら私も着替えようかしら」
明里も立ち上がり、部屋を後にする。
「これが集団心理ってやつか?同調圧力だったか?」
彼女が退室したのを確認すると、直斗もポロシャツを脱いで浴衣に着替えた。
「んな難しく捉えんなよ。てか、さっきしばらくダラけるって言ったけど、実際どうするよ?」
「そうだな……館内散策でもして時間潰すか?」
「それいいな。早速行こうぜ」
直斗と和也は旅館を散策した。小さな旅館なので1時間程度しか時間を潰せなかった。しかし、2階の共有テラスの夕涼みは中々に心地がよかった。残りは自室で適当に時間を潰し、夕食となった。
夕食は何種類かの中から選べ、部屋で食べることになった。意外にも庶民的なメニューも多かった。ほとんどの食材が地元産の物を使っているらしい。直斗の部屋に明里達3人が集まり、机を囲んだ。
「至れり尽くせりって感じだな」
「ええ。でもその分、やるべきことはやるわよ」
「なんか、明里は相変わらずだな」
「飯の時くらい、気を抜いてもいいんじゃねぇか?」
「ある程度は抜いてるわ」
和也に明里が応える。
「もっと気楽に行こうぜ?」
「気楽過ぎるのもどうかと思うけど」
彼女は視線を部屋の奥に向けた。そこには無雑作に和也のSCARが荷物や着替えに混ざって横たわっていた。
「というか、雪はここにも銃持って来たんだな」
「一応は」
彼女静かに食事をしている雪の横には、弾倉を外した彼女の愛銃が置かれている。更に、浴衣の帯には浴場で見た拳銃が差し込まれている。
「ねぇ雪、帯に拳銃は絵面が完全に昔のチンピラだよ……」
その隣で柑奈が苦笑していた。
「私もベレッタ持って来たけど、流石にそうはしないわ」
明里は財布などを入れた巾着袋に銃を入れているようだ。部屋に来たとき、浴衣に似合っていたのを覚えている。
「柑奈、これ食べてもらっていい?」
「ん?いいよ」
ふと、雪が柑奈に野菜の小鉢を渡しているのが見えた。
「雪は小食だからさ、たまに私が食べてあげてるんだよね」
「そういや、前にそんなこと言ってたな」
雪と同じ分隊に移ってから、直斗は彼女と何度か昼食を共にすることがあった。直斗はそのときのことを思い出した。彼女の食べる量は、いつも少なかった。
「腹一杯なら俺が貰うぜ?大盛りにしてもらったけど、まだいけそうだ」
「和也相変わらずだよな」
「まあな。食って身体強くしねぇと、HLと格闘戦は出来ねぇからな」
少し早めの夕食の時間は和やかに過ぎていった。食後は学校に連絡をし、この日の行動を報告した。
その夜、布団の中で直斗は目を覚ました。枕元に置いた携帯を見ると、午前2時であった。部屋の中は静寂に包まれている。もう一度寝ようと眼を閉じるが、眠気は無くなってしまっていた。しばらくは仰向けのまま、色々と考え込んでいた。よく耳を澄ますと、外の風の微かな音や、エアコンの作動音が聞こえてくる。その音の中に、何かの足音が混ざった。庭園の砂利を踏む音だ。この旅館に泊まっているのは直斗達だけ。そして旅館の人もこんな夜中に庭園にいるのは不自然だ。
布団から身体を起こし、ゆっくりと窓へと近づく。窓を静かに開けると、淡い照明に照らされた広めの庭が浮かび上がった。その光の届かぬ暗がりに目を凝らす。すると、光の中にそれは姿を表した。HLだ。全長は4m近くあるだろうか。漆黒の体表に細長い胴と手足。昼間交戦した個体より大きい。写真で見た這うものと呼ばれているHLだ。
「マジかよ……」
それは悠々と庭を徘徊していた。FALを取ってすぐ撃つか迷ったが、まずは和也を起こすことにした。
「おい、起きろ!HLだ!」
大柄な彼を揺すり、這うものに聞こえない程度の声で呼びかける。しかし、彼が起きる気配はなかった。続いて直斗は、明里の携帯に電話をかけた。番号は事前に交換済みだ。コール音が鳴る間、音が漏れぬようイヤホンを装着した。窓の外を見ると、それはまだ徘徊を続けていた。
「こんな夜中になんのつもり……?」
眠気と怒りの混じった明里の声が聞こえた。
「悪いと思ってる。でも緊急事態だ。窓の外にHLがいる。静かに確認してくれ」
「見間違いだったら承知しないわよ……」
不機嫌な声でそう言ったあと、隣部屋の窓が開く音がした。そして、彼女が短く息を飲んだのが分かった。
「一気にやろうと思うんだが、いいか?」
「ええ。雪と柑奈も起きてる。そっちに合わせるわ」
それだけ言うと電話が切られた。直斗はFALを掴み、初弾を装填した。セレクターをフルオートの位置にし、ゆっくりと動くHLに照準を合わせる。強烈な反動に備えて銃を窓枠に乗せて引き金を絞った。
連続で弾丸が発射され、発火炎で辺りが明るくなった。少し遅れて隣の部屋からも一斉射撃の轟音が聞こえた。
「なんだ!?何事だ!?」
流石に和也もその音で飛び起きた。
「庭にHL、デカいやつがいるんだ!」
「マジかよ!?」
慌てて彼はSCARを手に取り、弾倉を押し込んで窓に走り寄った。
「どこにいる?」
「あっちの……だめだ、逃げやがった!」
直斗は彼に位置を教えようとしたが、HLは素早く逃げ出し、建物の屋根を身軽に飛び越えて夜の闇の中へと姿を眩ませた。
「逃げられたか……」
仕留め切れず、落胆した直斗は弾倉を抜いてコッキングレバーを引き、薬室内の弾も取り出した。少しして、部屋のドアがノックされた。開けると、明里達が立っていた。
「残念だったわね」
「ああ。逃げ足が早かったな」
「今から追いかける?」
明里の発言に直斗は反対した。土地勘がない上、この暗闇ではあまりにも不利だ。そう考えていると、柑奈が言った。
「結構痛め付けたから血の後とか残ってるんじゃないの?」
「確かにそうだな……じゃあ追跡は楽そうだ」
「……明日は遅く起きていい?」
銃を首から吊ったままの雪が口を開いた。ふと彼女を見ると、浴衣の前が大きくはだけていた。直斗は目を逸らした。
「あー!またはだけてる」
柑奈がそれを慌てて直した。そうこうしていると、階段の方から足音が聞こえた。
「お客さま、今のは一体……」
慌てた様子で女将が走って来た。直斗は彼女にことの経緯を伝えた。
「まさかそんな……お客さまにお怪我などございませんか?」
「こっちは大丈夫です。それよりも、女将さんとか旅館の方は大丈夫ですか?」
「今当館に居るのは私と従業員1人でして。私と彼も無事で、旅館にも目立った損害はございません」
彼女は「もし旅館に被害があっても、その件の責任はない」と言うようなことも付け加えた。心なしか、直斗は安堵した。跳弾や流れ弾で多少なりとも旅館の庭に傷が付いてるはずだからだ。
翌朝は10時頃に起床した。既に気温は十分に上がっていた。朝食を部屋で食べた後、すぐにHLの捜索を開始した。
庭に出ると、思った通り戦闘の痕跡が残っていた。庭の壁には弾痕が残り、地面には黒い体液の染みが付いている。所々に転がった弾頭が日光を反射していた。
「このシミを辿れば、逃げた先が分かりそうだな」
直斗は地面にしゃがみ、その黒い跡を見ていた。昨日HLを目撃した辺りには、バケツをひっくり返したように大量の体液が染みていた。そして、その後は敷地外、山の方へと続いていた。
「元々山捜索する予定だったよな。早速行こうぜ」
和也は頭の後ろで手を組み、早速向かおうとした。
「地元の猟師さんに先導してもらう話、忘れた?」
「そういやそうだな」
少し呆れた様子で明里が言った。5人は猟師の青年、村山の所へ向かった。昨日と同じ、持ち場である社務所にいるそうだ。
神社の方は向かうと、村山の隣に60代の男が立っていた。彼は背中に、ブローニングの自動ライフルを背負っていた。
「こんにちは」
「こんにちは。昨日の深夜、奴が出たんだって?」
「ええ。逃げられちゃいましたけど」
直斗は村山と軽く話した後、隣にいる男が誰かを訪ねた。
「彼は僕の師匠の田辺さんだよ。この道数10年のベテラン」
「まあ、そう言うことだ。よろしくな、学生さん」
彼も村山と同じく、人当たりが良さそうな顔をしていた。
「それで、昨日銃声がした訳だから奴に弾は当てたんだろ?血痕を辿りゃあすぐに見つかる」
「ええ。体液の跡が山の方に続いてました」
「それじゃあ早速向かおう。駐車場にある俺のバン乗ってくれ。歩いたんじゃあくたびれちまう」
「でも、エンジンで気付かれると思うんですけど……」
柑奈が控えめに言った。
「それなら大丈夫だ。奴らは音に反応するんだろ?寄って来た所を学生さん達の銃でやっちまえばいいんだ。俺たち猟師と違って、機関銃持ってんだからな」
「それなら行けそうだね。昨日は距離があったけど、近距離から掃射すればすぐに倒せそうだし」
「それじゃあ、お願いします」
直斗達がそう言うと、田辺は快く引き受けた。
目的地とする山へは田辺のバンと、村山の軽トラックで向かった。万が一分断された時も考え、軽トラの方には和也が乗っている。山は青葉生い茂る典型的な日本の風景であった。然程高くない中腹辺りで2台の車は停車した。
「こっからは徒歩だな。足場は悪くねぇが、道が狭いからな」
そう言うと田辺はライフルを持って車から降りた。直斗達もそれに続く。
山中には狭いが道があった。気温は高いが、日光は木に遮られ、風が吹き抜けると涼しいくらいだった。途中の道路もそうだったが、昨晩のHLの体液の後は残っていなかった。猟師の田辺はほとんど迷わずに直斗達を先導していた。
「居る場所が分かるんですか?」
「まあな。怪しい所にはいくつか目星が付いてる。俺たちの銃だけじゃあおっかなくて近づけなかったけどな」
彼は振り返り苦笑した。直斗はFALを腰だめにして周囲を警戒しながら進む。風が木々を揺する音だけが響いていた。
10分ほど歩くと、傾斜が急な地点にたどり着いた。その斜面に、大きな穴が空いている。
「俺はここが奴らの巣穴だと見ている」
田辺はライフルを構え、ゆっくりとその洞穴に近付いた。洞穴の前の地面に液体が垂れた痕があった。
「こいつは動物の血じゃねぇな……」
「じゃあ、昨日撃った……」
「それで間違いねぇ。村山、穴の中を見てくれ。この距離なら散弾銃の方が頼りになる」
そう言えわれ村山はゆっくりと穴を覗き込んだ。銃口もその中に向けている。
「何も見えません……うわ、この臭い」
彼は左手で小型のライトを持ち、それで中を照らした。直斗が覗き込むと、生臭い臭気が鼻をついた。照らされた先に、茶色の毛皮が見えた。それは赤い血に濡れており、散乱した白い骨も同様だった。その血生臭い光景に直斗は顔を背けた。
「田辺さん、奥に動物の死骸が!」
村山が振り返った。直斗の代わりに田辺が穴を覗く。
「ありゃあ昨晩か今朝ってとこだな……。奴はまだ近くにいるかも知れねぇ」
その時、後ろの方から銃声がした。連射の間隔が短い、雪のPPShの音だ。驚いて振り返ると彼女が発砲していた。そして狙う先に、疾走する件のHLがいた。それは手足を高速で動かし、直斗達への距離を詰めている。
「出やがったな!」
和也が真っ先に反応し、SCARをフルオートで撃った。その後から直斗達もそれぞれ発砲する。すると、突進していたHLは唐突に背中を向け、直斗達から離れていった。強烈な跳躍を何度か繰り返し、完全に射程と視界から姿を消してしまった。
「また逃げられた!」
照準から目を離した柑奈が叫んだ。
「追うわよ!まだそんな遠くには行ってないはず」
弾倉を交換した明里は、HLが姿を消した方へ向かおうとした。しかし、それを田辺が制止した。
「待て。この山道じゃあ奴が有利だ。それに、奴は撃たれるとすぐに逃げる。持久戦に持ち込まれて、疲弊した所をやられちまう」
「じゃあどうするのよ……」
明里はやや苛立った様子だ。
「会敵した瞬間に致死レベルのダメージを与えないとか……」
直斗は近くを歩き回り、考えをまとめた。昨晩と先程の戦闘から、あのHLの体力は多いものだと推察した。そして、攻撃を受けるとすぐに逃げ出す。そうなると、逃げる間もなく即死させる火力が必要だ。そして、そのためには待ち伏せが有効だ。では、神出鬼没なHLをどこで待ち伏せる?彼はしばらく思考を巡らせた。
「そろそろ戻るってよ」
柑奈が彼の肩を叩いた。
「待ってくれ。あと少しで思い付きそうなんだ……」
「村山さんがなるべく早く戻りたいって。神社周辺の警備があるって言ってた」
そのとき、電撃が走ったように直斗は思い付いた。
「分かった。すぐに戻ろう」
およそ2時間後、直斗は村山と再び山の中にいた。彼の軽トラの助手席でFALを抱えている。軽トラのギアはニュートラルに入れてあった。
「じゃあ、お願いします」
「ああ」
そう言うと村山はクラクションを3回鳴らした。直斗は窓からブローニングハイパワーを突き出し、数発地面に向けて撃った。
「これで奴が来るといいけど……」
彼は窓を大きく開け、身を乗り出して周囲を見渡した。村山も辺りを警戒しながら時折クラクションを鳴らす。まずは作戦の第一段階、HLを呼び寄せる。直斗は周囲を肉眼やサイド、ルームミラーを使って見渡す。HLがこの場に来なければ全てが始まらない。本来なら遭遇したくない存在の襲来を待ち侘びるのは、不思議な心境だった。
「村山さん!来ました!」
数分すると、バックミラーに姿が写った。4つ足で真っ直ぐ背後から突っ込んで来る。
「掴まってろよ!」
村山はギアをローに叩き込み、クラッチを繋いで発進させた。
HLとのチェイスが始まった。村山の軽トラは山道を町の方へと走り抜ける。時折ミラーでHLを確認する。村山は速度を調整し、HLとの距離を開けすぎないようにしていた。蛇行運転やハザードランプの点滅もさせ、挑発する。
「奴は付いて来てるよね!?」
「はい!真後ろです!」
やがて橋を渡り、旅館周辺の町へと進入した。そのまま走行を続け、2人が目指したのは昨日直斗と明里が訪れた神社だった。神社の門へ続く道を一気に加速して走り抜け、境内に堂々と駐車した。2人は急いで車外に飛び出し、それぞれの銃を門の方へ向けた。
やがて門を潜り、HLが境内へと突入した。
「撃ち方初め!!」
直斗が叫ぶと、一斉射撃がHLを襲った。彼のFALと村山の散弾銃だけでない。事前に待機していた明里、柑奈、雪、和也、そして田辺と彼の仲間の猟師5人が一斉にそれぞれの銃器を発砲した。見事に不意を突いた待ち伏せ、掃射を受けHLは踵を返して逃亡を試みた。だが猛烈に撃ち込まれる弾丸の雨に、それは脚を持たれさせ、体勢を崩し地面に倒れた。
「トドメを刺させてくれ」
皆が射撃を止めると、田辺がゆっくりと前に歩き出した。彼はブローニング自動ライフルに弾を装填し、門の方へ頭を向けて伏せているHLに近付く。彼はHLが微かに上げた頭に銃口を向け、引き金を絞った。3発弾を撃ち込むとHLは沈黙した。
「死んだよ」
田辺はHLの身体を蹴る。だが、既に息絶えており反応がなかった。
数時間前、一旦山から引いたときに直斗が提案したのは待ち伏せ作戦だった。目標のHLは攻撃を受けるとすぐに逃亡してしまう。つまり、逃げられる前にトドメを刺す必要がある。それには待ち伏せが有効だ。
「なるほどね。それで、どこにするの?」
直斗が待ち伏せ作戦を提案すると明里が質問した。
「山の中じゃあ向こうが有利よ」
「ああ。だから町まで誘導しようと思う。出来ればこの神社まで」
彼がその神社を選んだ理由は、昨日訪れたときに見た、賊を待ち伏せした撃退した逸話を思い出してだ。
「ただ、火力不足は少し心配だな……」
「それなら俺に任せてくれ。猟師仲間が何人か来れるはずだ」
直斗が憂慮した火力の不足は、田辺の猟師仲間が補ってくれた。狩猟用の散弾かライフルに限られるが、それでも威力は充分なはずだ。
そして、見事に待ち伏せ作戦は成功した。神社の境内をHLの黒い体液が汚していた。HLの死亡を田辺が確認する。
「上手くいってよかった」
直斗はFALからマガジンを抜いた。スライドを引き、チャンバーの弾も抜く。ここまで完璧に作戦が進むかは正直半信半疑だった。安堵からか、一気に疲れを感じた。
「いい作戦だったわね」
「お前、指揮官に向いてんじゃねぇか?」
明里と和也がそれぞれに言った。
「2人ともありがとう。俺もここまで上手くいくとは思ってなかった」
2人だけでなく、地元の猟師達からも称賛の声が上がった。悩みの種であるHLの撃破だけでなく、自分達もそれに参加出来たのだから彼らにとっても最高の結果だろう。
「この辺りにいるのはコイツで最後だ。俺たち猟師の武器じゃあコイツはやれなかった。学生さん達、感謝するぜ」
田辺は直斗達に礼を言った。
「いえいえ。田辺さん達の協力あってこそです」
直斗は照れ臭くなりながらも返した。
「それと村山さんもありがとうございます。運転のお陰で、この場所まで連れて来れました」
「これくらい当然だよ。地元のためだからね」
境内に横たわるHLの死体を見て、村山は満足そうに言った。