表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後遊撃隊  作者: 夜狐
11/27

温泉街捜索

 部屋に戻った直斗達は、調査場所の割り振りを考えた。HL乱入の件は、女将と従業員が死体の処理や清掃をしてくれるそうだ。直斗達はまだ写真に写った個体、浴場で仕留めたのより大型の個体がいるとして捜査をする方針になった。座布団の上に胡座で座った直斗は、資料の中にあった地図を机の上に広げた。朝日館の周辺は大きく2つのエリアに分かれていた。神社と参道からなる商店エリアと、渓流と吊り橋で渡った先の山エリアと名前が付けてある。どちらも広範囲に印が付けてある。

「中々に広いな……」

「商店はともかく、山の方は1日じゃ無理だぜ?」

この仕事にはジープは持って来ていない。また、この周辺は一般の公道扱いのため、直斗達の持つ前線学校の免許では運転が出来ない。

「じゃあ、山の方は2日かけて探すようにしよう。商店エリアは1日で終わるだろうから、明日は全員で山を捜索する。どうかな?」

「いいと思うわ。ところで直斗って、そうやって指揮するの得意だった?」

先程風呂場で人員の割り振りを決めたこともあり、明里が疑問を口にした。

「警備科にいた時にさ、効率的な火力の配置とか、巡回のルートとかを決めることがあってね。俺もこんな所で役に立つとは思わなかった」

「本当ね。それで、担当の割り振りは?」

「そうだな……山エリアの方が広いから、そっちに和也達に行ってもらおう」

「オッケー。川とか山の方が涼しいだろうしね」

柑奈が快諾し、残る2人も頷いた。

 5人はそれぞれ支度を整えた。和也がガンケースから出したSCARを明里達は物珍しそうに眺める。

「そんなに珍しいか?これ」

「何故か知らないけど、私の隊にそういう銃持ってるのがいないのよね」

明里がM16の弾倉を確認しながら言った。和也の持つSCARは7.62㎜弾を使うモデルで、カラーリングは黒だ。彼はホロサイトを装着し、ハンドガード下部には短めのグリップ、両側面にレーザーサイトとフラッシュライトを取り付けている。特殊科ならではの近代的なカスタムだ。直斗達の銃とは明らかに世代が違う。

「まあいいわ。早く出発しましょ」

準備を終えた明里に急かされ、5人は旅館を後にした。


 旅館を出て10分歩くと、すぐに商店エリアへと到着した。左右に曲がった坂道が続き、その両端に店が並んでいる。ただ、今はその多くにシャッターが下ろされている。店自体は閉めてあっても、それを営む人はいるようで、人の気配は感じられた。日に照らされた坂の先は、陽炎で揺らいでいる。

「かき氷……。閉店中なのが残念ね」

「頼めば特別に作って貰えるかも」

「迷惑になるからやめておくわ」

2人は冗談を交えながらも坂道を登って行く。直斗は少し安堵していた。夏休み前のこともあってか、明里といると気まずく感じる時があったからだ。しかし、今は普通に会話が出来て安心した。

「ねぇ、直斗」

「どうかしたか?」

「この前は、ごめん」

歩きながら彼女は言った。

「この前……ああ、それならもういいよ。俺にも悪いところあったしな」

「ごめんね。あの時は頭に血が上ってて……」

「あんな光景見たんだし、俺にそう言いたくなるのも分かるよ」

蝉の声が響く参道を、2人はゆっくりと進んで行く。

「それと、その後に私が……あんな無茶をしてたこと。その理由について言えてなかったわね……」

明里が言いづらそうにしているのを直斗は感じた。

「言いたくないなら、言わなくても……」

「ダメよ。私にはそれを説明する責任があると思うの」

彼女は強い口調で答えた。

「でも、どこから話せばいいのか分からないわ……全部話すなら、2月の『吹雪作戦』の時ね」

彼女は淡々と話し始めた。

 吹雪作戦とは、2月、直斗達がまだ1年生だったときに行われた大規模な作戦のことだ。民間企業とも協力し、一気に危険区域を制圧し、前線基地を築くのが目的だった。しかし思わぬHLの反撃により、撤退することになった。当時警備科として学校に残った直斗もここまでは知っていた。

「その作戦で……何か、あったのか?」

慎重に、直斗は質問した。

「私は友達を守れなかったのよ……。前に熊と狼が混ざったようなHLと遭遇したの覚えてる?私達が出会って間もない頃に……」

「ああ」

熊に近い巨体に、犬科に近い頭部。そして背中の棘が特徴的なHLを思い出す。今思うと、明里はそのHLに執着しているように感じられた。

「友達はそいつにやられたのよ。私が、そいつを銃剣で殺せなかったから……」

直斗は何も言わなかった。彼女の言葉の先に、最悪の結末を想像してしまった。

「……その友達は五体満足ではあるわ。でも、傷跡は一生残る。それに、彼女は別の科に移ったわ。戦闘の少ない科にね。その責任は、私にある」

自分を戒めるように明里は言った。

「あの子はこれまで通り私と接してくれてる。でも、彼女の顔を見ていると、何度もあの時のことが思い出されて……」

直斗はどう返せばいいのか分からず、2人の間に沈黙が続いた。

「だから私は強くなる必要があるのよ。もう2度と、目の前で誰も傷付けさせない。……でも、現状はあの河原通りだけど……」

「……」

彼女の自嘲する言い方で、沈黙がさらに重苦しくなるのを感じた。

「……明里、その……」

彼の呼びかけに、明里が立ち止まって振り返る。

「過去は変えられないし、強くなろうとするその信念はすごいと思う」

「……」

「ただ、全部1人で背負うことはないとはずだ。俺たちを頼ってもいい」

明里は、ずっと1人で戦っているように感じられた。彼女の発言でそれが確信に変わった。あの河原でのことは、彼女の心情の現れだったのだろう。守り切れなかった悔しさと、弱いままの自分に対しての。

 明里は何も言わずに聞いていた。また失言してしまったのかと、直斗は不安を感じる。

「……明里?」

長い沈黙に耐え切れず、彼女の名前を呼んだ。

「………………そうね。あなたの言う通りだわ」

彼女は深く溜息を吐いて歩き出した。

「ずっと分かってたのよ。自分には限界があって、どうやっても過去は取り消せないって」

彼女は空を見上げた。

「でも、今は素直に受け入れられたわ。今まではただ無茶をしていただけってね。……ありがとう」

青空のような清々しい表情で彼女は歩みを進める。

「それはそれとして、私の信念は曲げないわ」

「ああ。それが良いと思う。俺もそうだ。現実を見るのが遅くなったけど、今は同じ思いだ。一刻も早く、HLの脅威を取り除いてやりたい」

決意を込めて、直斗は強く言い切った。

「そうね。そのためにまず、ここを苦しめてる奴を仕留めてやりましょう」

明里は直斗に、明るい笑顔を見せた。直斗も微笑み、彼女に応える。


 山エリアを担当する和也達は渓流沿いへ続く宅地を歩いていた。アスファルトや壁の照り返しと蝉の声が夏らしさを演出している。

「あつい……」

弾倉を外したPPShを背負った雪が、水で濡れたタオルで汗を拭う。

「プール帰りみたいに水着にタオル巻いた方がよかったかも……」

「涼しそうだけど流石にそれはね?」

「川まで後少しだ。そうすりゃあ……」

和也が言うように、あと少しで川沿いの道に出る。

 T字路を右に曲がると、カーブした道に出る。谷を流れる川の音が、転落防止の柵の先から聞こえる。その場所に出ただけで、一気に清涼な空気になった。

「憩いの地だ……」

ここまではたったの5分程であったが、あの暑さで3人はすでに疲労していた。しかし、川沿いの空気に癒され、調査への意欲が蘇る。

「しばらくは道なりに歩こうぜ」

前方に小さく見えるのが吊り橋だ。3人は川側の道を、渓流を覗きながら進む。すぐ先は崖になり、その下は砂利の河原だ。そしてその先に太い川が流れている。見たところ、流れは急な方だ。

「やっぱり川沿いは涼しいね」

「生き返る……」

「同感だ。そういや、2人は随分古い銃使ってるよな」

和也はふと、柑奈と雪の銃が気になった。

「確かにそうだね。でもこれが使いやすいの。それに、安かったし」

柑奈はUZIを和也に見せた。

「私にとってこの銃は最高の一品」

雪もPPShを手に持って見せた。

「愛着があるようで。でも、近代的なやつの方が実用性はあるぜ?」

「私は一昔前より前の銃しか触れないの。……まあ、例外はあるけど」

「雪は拘り強いからね〜」

 雑談をしながら歩いていると、吊り橋に辿り着いた。吊り橋と言っても、片側1車線で歩道付きの大きな橋だ。川により近付いたこともあり、先程よりも断然涼しい。寧ろ、汗が冷えて少し寒さを感じるくらいだ。橋の中頃まで来ると、柑奈は河原に動くものを見つけた。

「ねぇ、あれ!」

指差す先には、浴場に乱入したのと同じ、腹這いで歩くHLがいた。河原の砂利道を山の方へと向かっている。

「写真のやつ?」

「ここからじゃあ大きさがよく分からねぇ。でも、とりあえず仕留めるか」

和也はSCARのホロサイトの電源を入れ、安全装置を外してHLを狙う。

「じゃあお願い」

「私と雪のは届かないからね〜」

雪と柑奈は周囲を警戒しつつ、和也の射撃を見ていた。サブマシンガンは距離が離れると精度も威力も落ちてしまう。

「2人は先に橋渡って、河原に向かってくれ。もし取り逃がしたらトドメは頼むぜ」

「オッケー。行くよ雪」

そう言うと、和也はHLに向き直った。狙いやすい胴体に向かって単発で撃ち込む。彼はそのまま10発程射撃した。辺りに乾いた銃声が響く。

「少しはタフみたいだな」

だが、そのHLは動きに衰えを見せず、素早く川の方へと向かった。そして、身体を縮めると驚異的な跳躍をし、石を伝って対岸へと逃げた。

「そっち行ったぞ!俺が足止めをする!」

柑奈と雪は橋を渡り切り、河原へと続く階段を降りている。和也はHLの走る先を狙って射撃し、なるべく2人の方へと誘導する。しばらくすると、彼女らが階段から発砲した。発火炎が見えた後に、2つの銃声が聞こえる。猛烈なサブマシンガンの掃射を受け、HLは沈黙した。

「死んだみたいだな」

念のため弾倉に残った3発を撃ち、和也は2人の方へと向かった。

 階段を伝って河原に降りると、HLが横たわっていた。辺りの石が黒い体液に染まっている。

「こいつも、さっきのと同じか」

和也がその体を蹴る。反応はなく、既に息絶えたことが分かった。

「じゃあまだ他にいるってことか〜」

「暑いしもう帰る?」

「流石に早すぎるぜ?とりあえずは、この川沿いを探そう。何か痕跡があるかも知れねぇ」

和也は空になった弾倉を交換すると、下流の方へと歩みを進めた。


 直斗と明里は参道を抜け、神社へと辿り着いた。その神社の敷地は鳥居より前に、今は開けられているが木製の門扉があった。境内は本殿や鳥居、社務所などのある一般的な造りだ。明里は境内の傍らにある看板のような物を見ていた。

「何かあったか?」

「この神社の由来とか逸話についてよ」

直斗もその看板を見上げる。彼女の言った通り、神社の歴史についてが解説されていた。その中に、戦国時代の逸話として賊を撃退した話があった。

「村人を境内に避難させて、あの門で待ち伏せをしたのか……」

直斗は先程通った門の方を振り返った。

「さ、調査を再開するわよ」

明里に急かされ、直斗はその看板を後にした。

 護符の販売などを行なっているだろう社務所を覗くと、中に1人の青年が座っていた。

「君達が前線学校の生徒さんかな?」

彼はそう言うと立ち上がり、裏の扉から外に出て来た。日焼けした肌の好青年といった印象だ。彼はベレッタ製の自動散弾銃を肩に掛けていた。直斗が彼に答える。

「そうです。あなたは?」

「僕は村山って言うんだ。この辺で猟師をしている。と言っても成り立てだけどね」

「なるほど。だからショットガンを」

「そうだね。ただ、君達が羨ましいよ。前線学校か民間軍事会社にいないと持てる銃が制限されるからね……」

彼は苦笑していた。HLが現れるようになってからも、猟銃の規制は変わらなかった。装弾数や形状が限定され、フルオート機能を持つ銃も持てない。

「そのことは置いておいて……君達は今この辺を調べてるのかな?」

「そんな感じです」

直斗はHLの目撃地が記された地図を見せる。

「確かにこの辺りでもHLは目撃されている。ただ、頻度は高くないんだ。記録上の件数は多いけど、それは長期間の中での話だ」

彼は続ける。

「僕の見立てだと、やつの拠点はあの山の方だ。神社付近の森も調べたけど、それらしい痕跡はない。師匠の猟師も言ってたよ」

「そうね。HLと言っても生物。その辺は私達より彼らの方が詳しわね。貴重な情報ありがとうございます」

「役に立てたならよかったよ。それと、件のHLは大きさが違うのが複数体いるみたいだから気を付けてくれよ」

「やっぱり……。実は、さっき1体倒してて……」

直斗は旅館での出来事を話した。

「なるほどね……。奴らが親子か群れかは知らないけど、数を減らせたなら何よりだ。さっきも言ったけど、親玉はあの山に潜伏してると思う。僕でよかったら同行してもいいかな?多少の土地勘はあるからね」

「ええ。是非お願いします」

直斗と明里は彼を承諾した。山狩りに地元の猟師が同行するのは心強かった。

一部民間企業や前線学校の生徒は軍用火器の許可が認められている。しかし、HL掃討を目的としない猟師への銃規制はHL出現前のままである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ