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放課後遊撃隊  作者: 夜狐
10/27

旅館にて

 8月の始まり。本格的な夏の日差しが照らす中、2台のバスが田舎道を走る。冷房の効いた車内で、直斗達宮堀の生徒が揺られていた。あくまで学校単位での行動になるため全員、夏の制服であるポロシャツを着ていた。彼らは温泉街へと向かい、そこで目撃されたHLの調査と掃討を行う予定だ。この仕事には結構な人数が集まり、バス2台で向かうことになった。ライフルをはじめとする銃火器はトランクに仕舞ってある。

 直斗の隣で、明里は窓の外を眺めていた。彼女の視線の先では、自衛隊のトラックが数台通り過ぎた。

「この辺り、すぐ先はもう危険区域なんだってな」

「だから自衛隊の車両が多いのね。というか、なんで知ってるの?」

「行く前に軽く調べたら偶然」

「なるほどね。今回は私の方が不充分だったみたいね」

 あの日以来直斗は自分の、HLと前線で戦うという立場を意識するようになっていた。そのため、今回は最低限行き先とその近辺についてを調べておいた。現地での行動の方針も立てやすくなるとも考えてだ。向かう先の温泉街では、数ヶ月前からHLが目撃されている。今のところ数は少なく、人的被害はゼロ。歴史的な建物が多く、避難先も未定のため、旅館や商店経営者の多くは猟友会の警備の元、その場所で生活しているそうだ。

 直斗は視線を明里から通路挟んで反対側に移した。そこには柑奈と雪が座っている。柑奈は目を閉じて眠り、雪はイヤホンで音楽を聴いていた。

「なぁ、何聴いてるんだ?」

邪魔するのは悪いと少し思ったが、好奇心に負けて質問した。彼女はイヤホンを外すと、繋いでいた先、スマホの画面を見せる。

「ああ、その曲か」

画面には楽曲のイメージ画像として、M4カービンを持った女子高生のイラストが映る。曲のタイトルは「武器を取れ少女らよ」。半年程前の曲で、前線学校に通う少女達を鼓舞する内容だ。少々過激な歌詞も多く、賛否両論ある。

「これ、私は好きなの」

「ま、当事者からしたら嬉しい歌詞だよな」

自分達を称え応援する歌詞なので、前線学校の生徒には人気の曲であった。

「邪魔して悪かった。戻っていいよ」

「うん」

それだけ言うと、外したイヤホンを戻した。彼女の指が、音量ボタンを操作するのが見えた。直斗もイヤホンを装着し、音楽を聴くことにした。少し前に流行った邦楽だった。


 バスに揺られること合計約2時間。一行は目的となる温泉街へと到着した。山が近い田舎ではあるが、広域に旅館や商店が分布している。1番初めに、朝日館という旅館に到着した。直斗達が割り振られた場所だ。周囲は青々とした木々に囲まれており、川も近いため時折吹く風が心地よい。

「ようやく着いたな。2時間も座りっぱなしで身体が固まっちまったよ」

真っ先に降りた和也が大きく伸びをした。

「荷物出すのを手伝ってくれ。弾薬箱入ってるから重いんだ」

直斗はバスの運転手と共にトランクから荷物を下ろしていた。皆が宿泊用品と銃のケースを持ち、更に共用の弾薬箱などの入ったバックもあるので、中々の重労働だった。

「初めまして。あなたが和也ね」

明里が和也に声をかける。そういえば、2人はこの時が初対面だった。

「ああ、よろしくな」

「私もよろしくね」

続いて柑奈が言う。

「こちらこそだ。笹原さん、でいいか?」

「柑奈でいいよ!」

初対面の彼らが簡単に顔合わせを済ますと、5人荷物を持って宿の方を見た。

「これが今回泊まる旅館。風情があっていいわね」

その旅館は和風3階建てで、渓谷沿いに位置している。

「早速入ろうよ!温泉にも浸かりたいし!」

柑奈に急かされ、5人は宿の中へと入って行った。


 「この度は誠にありがとうございます。皆様が少しでも活動しやすいよう、誠心誠意、真心を込めたおもてなしをさせて頂きます」

3階の部屋に案内されると、旅館の女将が頭を下げた。

「こちらこそ。こんないい旅館に泊まれるなんて……」

自然と直斗も礼をした。一通り挨拶や設備の紹介が終わると、女将は数枚の資料を渡した。それは周辺の地図と、何かの写真だった。

「こちらHLが目撃された場所の地図と、見づらいですが、その写真になります」

地図には赤い印が付けられている。そして写真には、這っているような4本足の生物が写っていた。黒い体表で頭に短い2本の角が生え、手脚が異様に長い。紛れもないHLだ。

「これは私共が『這うもの』と呼んでおります。皆様も何卒、お気をつけて……」

直斗はその不気味なHLの写真を見ていた。身体は細く、距離によっては弾を当てるのが難しそうだ。やがて女将は一礼して部屋の前から去って行った。

「どうする?早速こいつを探しに行く?」

「まずはお風呂入ろうよ!」

「私はどっちでも」

明里はHLの捜索、柑奈はまず温泉に入ろうと意見はやや対立。雪は中立の立場だ。

「男子2人はどう?」

「俺は……とりあえず落ち着いてからがいいかな。作戦会議する時間も欲しいし」

明里に言われ、そうに答えた。

「俺も直斗と同意見だ」

「多数決なら決定ね。どうしてもすぐ行きたいってわけじゃなかったし」

明里があっさりと折れ、とりあえずは温泉を堪能することになった。温泉は水着着用での混浴になる。本来なら男湯と女湯があるのだが、今は男湯だけの使用だ。そのため、それぞれ部屋で水着に着替えてから浴場へと向かった。

 

 浴場は外湯と中湯があり、旅館というだけあって広々としていた。5人だけだと少し寂しくも感じる。直斗達は掛け湯やシャワーで汗を流し、外湯へと向かった。外湯は岩や竹など古き良き風情のある造りをしている。温泉特有の良い香りも辺りを漂っている。

「ここを貸し切りだなんて、最高だよ。来てよかった」

先に湯船に浸かった直斗と和也は、露天風呂を堪能していた。適温の風呂と、外の涼しさが調和している。

「全くだ。目の保養にもなるしな」

「和也がそんな風流な趣味してるとは思わなかった」

「そっちじゃねぇよ」

そう言うと和也は露天の入り口の方へと顎をしゃくった。ちょうど、その時ドアを開けて明里達がやって来る。

「目の保養って風呂の造りとかの話じゃなかったのか?というか、バレたら怒られるぞ」

「大丈夫だ。細心の注意を払うから」

そう小声で言うと、和也はなるべく自然に彼女達の方に目を向けた。明里はシンプルな白色の水着で、その後ろを歩く柑奈は装飾の付いた黄色のビキニを着ている。

「中湯も少し浸かったけど、こっちの方が開放的でいいわね」

「でも、やっぱり水着でお風呂に浸かるのってなんか変な感じ……」

2人はそれぞれ湯船に入り、直斗達と対角になるように座った。

「そうか?温水プールみたいなもんだろ」

そう答えた直斗は、雪が来ていないことに気が付いた。

「あれ、そういえば雪は?」

「忘れものあるとか言って部屋まで戻ったよ」

柑奈が浴場の入り口の方を指差した。丁度その時、ドアが開いた。

「噂をすれば、ってやつだな」

雪が着ていたのは、いわゆるスクール水着。宮堀に水泳の授業はないので、恐らく中学の時の物だろう。

「やっぱり新しいの買った方がいいって。せっかくの機会なんだからさ」

「普通に着れたか平気。それに、水着代が浮いた分は弾買いたいから」

柑奈とやりとりしながら、彼女もお湯に浸かった。彼女はここに来た時から持っていた小さな防水バックを岩で出来た浴槽の縁に置いた。

「そのバックの中身は?」

「シャンプーとか」

直斗に対して、彼女は簡潔に答えた。

「さ、全員揃ったことだし、今後の活動方針を決めるわよ」

直斗が雪と話していると、明里が手を叩いた。

「おいおい、風呂でゆっくりするんじゃなかったのか?」

和也が不満気に言った。

「とりあえずよ。まずはお風呂から出たらを決めましょう」

「フルーツ牛乳!これ一択だろ」

「マッサージチェアも!」

「……仕事のことでお願い」

意気揚々と提案した和也と柑奈を、明里はあしらった。

「その2つは出てすぐやるとして……まずは辺りを探索するのはどうだ?HLが目撃された場所を中心に」

直斗は2人に配慮しつつ発言した。

「それが妥当ね。振り分けはどうする?2手に分かれないと日が暮れちゃうわ」

先ほど見た地図上では、HLの目撃地点はこの旅館を挟んで広域に分散していた。3人と2人になるが、分散した方が効率はいい。

「そうだな……和也、持って来てる銃はいつもと同じか?」

「ああ。SCAR-Hだ」

少し考えて、直斗は編成を言った。

「それなら柑奈、雪、和也をAチーム。俺と明里をBチームにしようと思う」

「何か理由は?」

「雪と柑奈の銃は遠距離だったり硬い相手には不向きだ。そこを和也のSCARで補ってもらう。俺と明里の方も口径の違うアサルトライフル2丁だから、汎用性は確保出来ると思う」

「……悪くない編成ね。それで行きましょう」

少し考えてから、明里が頷いた。

「了解だ。よろしくなお2人さん」

作戦会議が終わり、直斗は少し肩の荷が降りた気がした。

「さて、少し涼んだら私は内湯に戻るわ」

明里はそう言って立ち上がると、浴槽から出て大きく伸びをした。風情溢れる外湯の情景を眺めながら歩いていた時、彼女は悲鳴を上げて危うく転びそうになった。

「どうした!?」

「い、今あそこに何かいたのよ!」

彼女は大変驚いた様子で敷地外とを隔てる壁の方を指差した。

「覗きか?それとも……」

 怪訝な顔をしながら直斗はその方へと向かった。日本家屋を意識したであろう壁。その頂点部に外から何かが現れた。それは、人の手のように見えた。黒いその手はもう片方もかけられ、壁から軋む音が聞こえたと思うと、1つの影が飛び出した。着地したそれは、女将から渡された写真で見たHLだった。

「HLだ!」

直斗は思わず後ろに飛び退いた。大きさは人間とあまり変わらないが、鋭い爪や牙は充分脅威になる。

「俺に任せろ!」

和也はそう言うと、飛び付く寸前のHLに組み付いた。腹這いのHLを引き摺り、湯の中に投げ込む。そして馬乗りになって顔を水中に沈める。

「コイツ力が強ぇ!何か武器になる物は!?」

HLは必死に抵抗し、大柄な和也でも押さえ付けるのが精一杯だ。時折顔に拳を叩き込むが、有効打にはなり得なかった。

「待ってて、部屋から銃持って来るわ!」

「この桶で殴るのは?」

明里は浴室の出口へ向かい、柑奈は風呂桶を湯の中へと投げた。直斗は和也に加勢し、気色の悪い感触に耐えながら、HLの硬い首を両手で締め付ける。その時、後ろから雪の声が聞こえた。

「離れて」

見れば、彼女は自動式の拳銃を握っていた。また、水着の肩紐の部分には、鞘入りのナイフを挟んでいる。

「ナイスだ雪!」

2人は素早くHLから離れる。それが体勢を立て直した直後、雪は片膝を付いた姿勢で発砲した。乾いた銃声が響き、HLの黒い胴体に穴が開く。彼女は慎重に狙いを定め、間隔を開けながら撃ち続ける。撃たれる度、HLは不気味な悲鳴を上げ、怯んでいるのが分かる。雪が8発撃ち切ると、スライドが後退した位置で止まる。彼女は足元に置いてあった弾倉を素早く交換し、また8発撃ち込む。

「弾切れ。トドメはお願い」

そう言うと彼女は肩紐の部分に挟んでいたナイフを鞘ごと直斗に渡した。片刃の一般的なコンバットナイフだ。

直斗はそれを受け取ると、16発の銃弾で傷を負ったHLの背中に飛びかかった。逆手に持ったナイフを落下の勢いで突き刺す。HLは耳障りな悲鳴を上げたが強引にナイフを抜くと、頭を押さえて首筋を乱暴に斬りつける。握った手に生暖かい体液を浴びながら、ノコギリのようにナイフ激しく前後させる。やがて刃は硬い骨で止められた。だがその頃になると、HLは虫の息だった。手足を折って崩れ落ちる。


「……ごめん。結構汚れた」

「大丈夫」

直斗はナイフに付着した体液をHLの死体で拭うと、鞘に入れて雪に返した。

「……まさか風呂場に入って来るとはな」

「でも探す手間が省けたぜ」

「多分、写真のは別個体だと思う。コイツは小さ過ぎる……」

浴槽の中で骸となったHL。直斗と和也はそれを外に引き摺り出した。

「じゃあ、まだ他にいるってことか……」

和也は少し落胆した様子だった。

 このまま湯に浸かるわけには行かず、入浴を切り上げて旅館側に報告することにした。直接交戦した直斗と和也は、念入りにシャワーを浴びていた。


 5人は湯から上がると、部屋に戻るに当たってタオルで身体を拭いた。湯冷めしないよう、その上に浴衣を羽織る。

「ねぇ、もしかして最初からナイフと拳銃持ち込んでたの?」

「うん。このバックに入れてた。ちなみにこれは54式。トカレフのコピーで安全装置あるやつ」

雪は明里に防水バックと拳銃を見せた。浴場まで武器を持って来たことには驚かされたが、それに助けられたのも事実だ。

「あなたらしいわね、ホント」

明里は少し呆れたように言った。

「でも、私達ももっと警戒すべきだったわ」

そう言われて、直斗達はそれぞれ頷いた。水気を取り終えると、着替えるため足早に部屋へと戻った。

安全装置のないトカレフTT-33は所持を禁止する前線学校も多い。どうしても使用したい生徒は、安全装置の付いたコピー品を購入している。

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