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主人公、従者にて 4

~謀反の従者、主人にて~







「申し訳ございません。

 まだ、詳細に関してはお話しすることができないこと、お許しください。

 もちろん図々しいこと重々承知しておりますが、それでも...。」


「わかったわかった。

 とりあえず、助けてほしいって言ってたことについて、教えてくれるかな。」


「はい。

 私の、父に関してなのですが。」



重々しい雰囲気になりそうだったので、軽めのテンションで相槌を入れ言葉を返すルーク。

対する彼女から紡がれた問題とは、やはりデューラとの話の通り父親に関する話題のようだ。



「お父様は、今体調が優れず、ずっと寝たきりになっています。

 本当はもう少しでも安全な場所で看病してあげたいのですが、そういうわけにもいかず。」


「もう少しって、今はどこかの室内で暮らしているのか?」


「...はい。」


「あーなんだ、信頼はしてくれて構わないぞ。

 妖原亜種(リュール)たちとのこと、知ってるのは俺とお前だけだから、それを教えたってことは俺はもうお前を信頼してる。

 それこそ信頼してもらわないと、俺が困るからな。」



室内で暮らしているのかと、そう尋ねたものが身辺調査に思われたのか、一瞬身構えるかのように言葉を詰まらせたリューネ。

そんな彼女に安心してほしいと心底の想いを伝える。

やはりまだ恐怖心が残っているのだろうかとも考えたのだが、今日一日の...いや数時間前からの出来事なのだから当たり前かと自問自答するルーク。

「いえ、そんな」と声を漏らす少女もなんだが満更でもない様子で、信頼していると言われた言葉に過剰な反応を示し、嬉しそうにしてくれた。

とにかく、そんなところは年相応というのか、ルークにも安心できるような反応を示してくれるのだから、力になりたいと思うのは当然のことだ。

その詳細を、彼女がひた隠しにしている部分に触れないように、質問を返すのはルークだ。



「母親は、一緒じゃないのか?」


「お母様は...一緒ではありません。」


「ということは、二人か?」


「はい。」


「住む場所を求めてるってことかな?

 それとも不調の理由か、その対処を?」


「...そ、そうです...えっと。」


「...ッフフ、考えてなかったんだな。」



本人すら不思議そうに、そして恥ずかしそうに答えを渋る様子を見せたリューネ。

その様子に彼女の置かれている状況を可哀想にも思っているのだが、つい笑みが零れてしまう。

そうやって噴出したルークを見て、一人で抱え込むような大勢でまたもや羞恥に顔を赤らめる少女はパタパタと自分の頬を仰いでいる。

そして一通り自身の中での整理がついたのか、少し遅れてそのお願いについて語り進めてくれた。



「ルーク様、改めてお願いいたします。

 お父様の体調を見て頂けないでしょうか。」


「それだけか?」


「えッ...と、それとお父様の原因に...」


「合った薬が欲しんだな。

 それと?」


「...これ以上のことは。」


「リューネ、三度目は言わないよ。

 それと?」


「...お父様と、安全に暮らせる場所が、欲しいです。」


「よし、わかった。」



無理を承知である以上、その言葉を多用していたリューネ自身が一番よくわかっているであろうことであった。

関われば関わるだけ、自分の首を絞めていくルークのことを何より心配しているのだと。

あの国において、すでに手遅れな所まで関わってしまっているルークは、それでも焦りの表情を見せることもなければ、どうやら諦めるつもりもなさそうで、それが逆に嬉しくも不安にもさせてくる。

自分の願いはただ父親のことを心配してばかりのものだった。

それゆえ何をすればいいのか、何をしてもらうのが正しいのか何一つ考えていなかった。

結局のところ父の容態を見てきちんと看病してもらい、父だけでも安全な場所で暮らせるようにすることが自分の願い。

しかしこんなおこがましい事頼めるはずがないと渋っていたのにも関わらず、ルークは自らその禁忌に踏み込んできてしまったのだ。

そんな彼の思いは、未だに理解できなかった。

でも、父と同じくらい、ルークのことも失いたくないと思ってしまっている自分は、欲深すぎるのだろうか。

優しすぎるルークの視線が、微笑みが、表情が痛い。

それを受け取る度、もうこの人から遠ざかりたいとすら思えてしまっている。

最初から出会わなければ、こんな気持ちになることなんてなかったのに。

この人に迷惑をかけてしまう事が、自分の命を無駄にすることよりもつらいなんて、と。

年甲斐もなくそんな感情に苛まれてしまうリューネは、暗がりの道を歩くこの場で自然と涙が零れてきてしまう。

なんて申し訳ないんだと、本当に恥ずかしそうに声を殺しながら泣く少女の、その涙にルークは気が付いていた。

しかし今は何も言うまいと、口を噤んで歩みを進める。

詳しいことは現場で確認しようと、一応騎士団にてそれなりの治療法などを心得ているルークは、リューネの父親とやらが自分にもわかる症状であること祈りながら、一方通行の扉を開くのだった。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




そして歩みを進めると、すぐに崩れた瓦礫の中で水の音が響く空間へ辿り着く。

もちろん実家の井戸がそのままあの洞窟に繋がっているというわけではなかった。

すでに存在していた洞窟を、方角や地道に歩いた歩数などから計算し掘り進めていった先がこの井戸に届いただけ。

後は井戸側から見てもバレないように、そして怪しまれないように細工を施したのだ

もちろんこの井戸は古くから実家に備わっているもので、もう使われているわけではない。

それゆえ改造もかなり簡単で、一週間ほどかけて円柱の井戸内から、半球でそれなりの生活が行えるような空間へと作り変えたのだった。

ただ、まだ完全であるわけではなく、井戸から這い上がるには無数に伸びるロープを掴んでよじ登るしか方法がない。

過去に階段で上がれるようにしようかな、などと考えていたのだが、それは流石に上から見て怪しまれるかなと、断念。

他にいいアイデアが思い浮かぶこともなく、仕方なしに未だロープを使って登るという原始的な方法で、出入りしている。

だからこそ今もこうやって、リューネを背中におぶって、一生懸命よじ登っているのだった。



「大丈夫ですか、ルーク様。」


「あぁ、大丈夫、だ!

 それより、しっかり掴まっとけよ。

 あと、声も極力控えるよう...にッ!」



無数にロープを垂らしているのは、例えどこかのロープが切れたとしても井戸の中に閉じ込められないようにするためだ。

井戸というだけあってしっかりとした高さは存在している。

過去に色々改造していた時も思ったのだが、一方通行である扉以外に出入り口などは存在しておらず、ロープの一本一本がいうなれば命綱なのだ。

だからこそ早く他の脱出法を考えておきたいものだと、今は邪魔でしかない顔や腕に絡みつく別のロープたちを見つめ、苛立ちに顔を歪ませているルーク。

そんな彼に申し訳なく思っているリューネも、ただ掴まっておくことしかできないため、眼を瞑ってあるはずもない自分の体重を軽くする方法を模索していた。



「もう少し、だッ!」


「本当に、申し訳ありません。」



耳元で囁くように声を出すリューネの想いを背負って、細身のルークはひたすらに歯を食いしばる。

そしてついに上がる頃には、その弱々しい腕を振るわす程度にしか、力を込めることができなくなっていた。



「ほ、本当にごめんなさい。」


「いいっていいって...。

 じゃ、行こっか。」



ほぐすためフルフルと腕を振り、微笑んでリューネに言葉を返すルークは地べたに座った体勢から重い腰を持ち上げる。

フードを深くかぶって、ミーリィに体の隅々まで綺麗にされたことで、絶対に被り物が取れるまで獣交種(ゾオン)とも怪しまれることもなくなったリューネの手を握る。

ちょっとだけビクッと体を震わせたリューネ。

それには気が付いたが、特に彼女に視線を向けることなく、「行こうか」と彼女に手を引っ張られる形で、二人は歩みを進めた。

今だけは、フードを被っていてよかったと俯瞰で自分を見るリューネは大きく息をついた。

そして耳まで赤く燃え上がる、自身の体温を冷ますため、数回息を吐き直してその元凶であるルークの手を強く握り返すのだった。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




場所は移り変わり、二人が出会ったあの屋台街まで歩いて戻ってきた。

今日出会ったばかりだというのに、初めと二回目では全く違う出で立ちの自分に、リューネはちょっと複雑な心境を浮かべる。

しかしこんなところで立ち止まっているわけにも行かず、早速父親が寝ている場所まで案内するため、ルークの手を相変わらず引いて連れていく。

そして屋台街のうち、離れた小道へと足をすすめ、そのまま暗い方へ暗い方へと足を向け突き進んでいった。

後ろのルークは、「こんな場所あったのか」と周囲に目を向けている。

ここは屋台街の二つ三つ後ろの通りなのだが、その屋台街自体も少し面白い特徴をしているのであった。

王城を奥に構え、城壁側から屋台街を見た時、西側は住宅地や他のお店に人通りの多いことから賑わいを見せているのだが、東側は二つ目の通りから先に行くほど暗い雰囲気の場所が続いている。

だから基本的に住民たちは屋台街を抜けると西側へと通路を進み、そのまま西側の住宅地に戻っていくことが多いのだ。

それに比べ東側は、住宅地よりも工場地帯が立ち並んでいるという特徴をしていることも雰囲気が重くなっている原因でもあった。

そこで働く者達も結局西側や、そのまま下に降りていき南側の住宅地の方へ帰っていくもの達が多いため、東側限定として少しだけ雰囲気が重々しい場所となっているのだ。

また物理的にも空気が悪かったり、工場自体が比較的上に長めの建築物であるため通路への日当たりも悪いといった状態で、暗い雰囲気に一役買っている。

そんな東側を少し進んだ所にある、大通りから伸びるゆえに十分な広さのある橋。

その真下、かなり前から浮浪者たちのたまり場となっている場所があった。

雨も防ぐことができて、上の人通りからの視線にさらされることもなければ、地盤がきちんとしているゆえにかなり安心して生活できる。

それゆえ多くの人が集まる場所となっていた。

騎士団としても水による災害があった場合危険だから、離れるようにとの勧告を出しているのだが、そうは言っても全員の面倒も見切れるわけもないため、放ったらかしになっている。

だからこそなのか、やはり見るたび見るたび人が増えていっているような...。

そんな場所の一郭で、ルークはリューネに引かれたまま父親と対面する運びとなった。



「ここです。」


「じゃあ、失礼するよ?」


「どうぞ。」



少し消極的になったように思えるリューネを横目に、入り口の布をかき分けて簡易テントの中へ足を踏み入れた。

まず初めに感じるのは、出会った頃のリューネに比べるとそこまで匂いがひどいとは思えないこと。

それはこういう場所に足を踏み入れる場合、安全面に配慮して付けたマスクのおかげもあるとは思うのだが、それでもいくらかマシな匂いで済んでいた。

だがやはり汚れていることは確か。

それは室内の様子もそうだが、何より匂いとはまた違った空気感によるものだ。

埃っぽくて尚且つあまり綺麗ではない。

当たり前と言っても申し訳ないのだが、その様子に今のリューネにはかなり不釣り合いのようにも見えるほどだった。

先の一件以来、本当にリューネは街中ですれ違ったとしても景色に溶け込めるくらい、いや逆にその容姿からは注目を浴びてしまうのではとも思えるほど、女の子らしくなっている。

それは一切の悪い意味を含まない、心底の意見として。

それゆえ、この場に足を運んだ時から気が付いていた、周りから向けられる視線が今までのモノとは違っているという事に。

大切にボロボロになるまで頭巾をかぶっていたということは、隣人たちにも獣交種(ゾオン)であることはバラしてなかったのだろう。

だからこそ、今向けられている視線の正体とは確実な嫉妬と欲情。

先程から消極的になっていた彼女の理由がよくわかる。

ただ、この場において 彼女をずっと居させておくわけにもいかないだろうとも考えていた。

そんな思考を頭の中で巡らせるルークをよそに、リューネの帰宅に気が付いたのか、目の前で寝ていた老人がそっと目を開いた。

その様子に、一番最初に気が付いたのはリューネ。

そしてそのまま声をかける。



「お父様、お目覚めになりましたか。」


「おぉ、リューネ。

 戻ったか、どこまで行っておったのじゃ、心配したぞ。」



話を聞いている限りでは、確かに娘想いの良い父親であるらしい。

見た目の印象としては若い娘がいる父親とは思えず、どちらかと言えば孫を預かっている祖父のような印象の方が強かった。

痩せこけた頬に伸び切った白髪と白髭、しかしげっそりとした雰囲気というものは感じられず、どちらかというとしっかりとした印象の方が強いことも見て取れる。

まるで過去は戦士でもしていたのかと思えるような様子が、病気で弱っているらしい現状でもしっかりと感じることができるのだ。

ただ、そんな彼の向ける愛情やリューネから向けられる愛情は、相変わらず父親のそれで間違いないことは容易に把握することができる。

だからこそ、彼女の気持ちや言動が嘘でないことも早々に察しがついた。

そしてすぐに二人の様子を見つめていたルークの存在に気が付いたようで、今度はリューネ越しにルークへと声をかけてきた。



「そちら様は、どなたかのう。」


「初めまして、ルーク・アプリュピトと申します。

 この王国で騎士団をしております。」


「そッ...ゴホッゴホッ―――――」


「お父様ッ!?」



自己紹介と共に王国騎士団所属だと伝えた瞬間、かなり苦しそうにせき込み始めた父親。

その様子からは明らかな焦りの表情が見て取れる。

そんな彼のそばにすぐ駆け寄ったリューネが背中を撫でてやっていた。

落ち着きを取り戻すまでの時間と、痰を絡ませた咳き込み方を考えれば、確かに病人だということは何となく理解できた。

それは言い換えればこの状況、一般家庭よりも汚染された場所で暮らしているからという理由で病気になってる訳ではないということを察することができる。

恐らくリューネが心配していた病気は、栄養失調などの症状からのものだろう。

まだ詳しいことはわからないが、とりあえずこの状況を打破するため、あえて自分から相手の陣地に足を踏み入れるよう、ルークは父親の元に近づく。

この状況とは何より警戒心を発している親父さんの現状で、その誤解を解くことが足を踏み入れる事に繋がる。

そのためこの居心地の悪さを感じるであろう現状を一発で切り抜けることができる一言を、周囲の住人に聞かれないよう、彼の耳元で声を放った。



「お嬢さんが獣交種(ゾオン)猫舞種(キャーミット)であることはもうすでに知っています。

 私は、あなたの様子を伺いに来たまで。

 全く持って捕縛などの意志はありませんので、ご安心を。」



それを聞いたそば、彼の顔を覗き込むような形でリューネが父親の視界に映りこみ、しっかりとした意思を孕ませた頷きを見せる。

その意図を正しく汲んだ様子の父親は、安堵したように呼吸を取り戻し、続いてすぐに咳き込む様子もなくなった。

そして改めてルークの目を見据える。



「私はサルファスと申す。

 ルーク殿、どのような意図をもって、この子を?」


「順を追って説明いたします。」



敵意がない事、それだけわかってもらえればルークにとっては大満足な現状となる。

その意味をしっかり理解してくれたサルファスという名前らしい親父さんは、背中を支えてもらっているリューネに「もういいよ」と一声かけ、起き上がった体勢のまま話を続けた。

大丈夫かと心配したのはどうやら杞憂らしく、それでいて彼の出で立ちというのは、もはや病人とも思えないような雰囲気をしている。

その様子にリューネの言葉遣いが組み合わさり、かなり厳格ながら優しい父親だったのだろうなとの思いを馳せた。

そして彼が望む通りの話を「少し長く、ややこしい話になるんですが。」と前置きをおいたのち、一つも包み隠すことなく、事情説明という名の犯罪共有を行っていくのだった。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「そんなことが...。

 大変お世話になりました。

 それと、本当に申し訳ない。」


「いえいえ、先に手を差し伸べさせてもらったのはこっちなんで。



話しが終わったころには、リューネはちょっと退屈そうに二人のことを見つめていた。

そんな彼女を放り出し、事の顛末を全て語ったルークの言葉に、やはり父親である彼は驚きを隠せない様子を見せる。

そして流石彼女の父親というべきか、心底申し訳なさそうな表情を浮かべてはしっかりと頭を下げ、その様子が彼女と被りルークは少しだけ微笑ましく思ってしまう。

しかし申し訳ないと思われる筋合いなど一つもない自分にとっては、言い訳をするところで留めておいて、早速本題へ移るよう話を変えた。



「それより、体調の方を聞かせてもらってよろしいでしょうか?」


「あぁ...その―――――」



とそこでまたもや親父さんがばつが悪そうな顔をしてリューネの方をチラッと目にした。

その視線を辿ったルークもリューネの方を向き、彼女と目が合うとパチクリと不思議そうに眼を丸める少女と目が合う。

今度はルークが悟る番、その意思をうまく汲み取り「少し外で待ってて。」とリューネに声をかけると、彼女の背を押し無理矢理テントの外へ出ていくように促した。

もちろん「危険な雰囲気を感じ取ったらすぐ大声を出すように」、と一声かけることを忘れずに。

親父さんの診察をするからとの意味合いで、少し戸惑いを見せたが次第に意味を理解してくれて、邪魔にならないよう自分の足で外へ出る少女。

そして幕が閉まる際に「お願いします。」と頭を下げる彼女の姿を最後に、テント内は静寂に包まれた。



「しっかりできた娘さんですね。」


「ありがとうございます。

 人一倍厳しく育ててきましたから、とてもいい子ですよ」


「えぇ、すぐに分かりましたよ。」


「それで、ルーク殿。

 お話なのですが。」


「はい、あなたの病状について、何か心当たりがありますか?」



先程からの会話で、少しずつ雰囲気が重々しくなっていくのは何となく感じ取っていたルーク。

その理由はわかっていないのだが、これから話される内容に何かただならぬ気配を感じてしまう。

何となく、彼の緊張がルークにも届く。

その緊張を振り払うようにか咳払いをするサルファスさんは、続いて止まらずに咳きこんでしまい、今度はこの場にいない娘のため、近づいていたルークが背中をさすってやった。

そして落ち着きを取り戻すかどうかの瞬間に、ルークにしか聞こえないよう小さな声で、その理由を話してくれた。



「私は、もう長くない。

 理由は言えないが、もう決まっていたことなんじゃ。」



目を見開くルーク。

そのまま彼の顔を覗き込んでも、嘘などついているわけがあるはずもない真剣な目つきをしていた。

そしてその視線から伝わってくるのは当然察することのできる思い。

流石にリューネを外に出すよう意思疎通を図った理由が理解できた。

未だ目を見て死を悟る、そんな彼の口からこぼれたのは、先ほど察することのできた内容そのものだった。



「リューネを、任せられるかのう?」



そう言葉を放った父親は、真剣な安堵を浮かべ、ルークのことを見つめたままでいる。

すでに答えを聞かずともルークなら引き受けてくれるであろうことを察しているかのような、そんな雰囲気が伝わってきた。

それはまるで今日にでも死んでしまいそうなほどか細い目つきだった。

そして今日にでも死んでしまいそうなことを悟った、最後の願いを(エト)に祈っているかのような雰囲気でもあった。

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