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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
99/160

仲裁

「リシリアです。殿下はどちらに? 先触れを出したはずですが」


 私はアルバートの前室に入ると執事に聞いた。


「申し訳ございません、まだお伝え出来ていないのです」

「そうですが。で、どちらに?」


 執事は居室へ続く扉を見た。


「昨日までの課題が終わらず、休日返上で今そちらにこもっておいでです」

「わかりました」

「カンサム様もご一緒に」


 ノアもですか。

 補佐官なのだから当然と言えば当然な気もしますが。


「アルバート、入ります」


 私は扉を開けた。






「やぁ、リシリア!」


 ノアが爽やかに笑った。


「貴殿はリシリアの前なら愛想がいいのだな」


 突っかかるようなアルバートの声。


「殿下には優しくする価値を見出せませんからね」

「おいリシリア、こいつはとんでもない腹黒だぞ。お前がいる時といない時ではまるで態度が違う」

「リシリア、聞かなくていいよ。どうしたの?」


 うわぁ。

 何だか既に険悪なムードです。


「アルバート。授業に手がつかず、先生がお困りだとか」

「全く、僕までとばっちりだよ」

「はっ! 嫉妬にまみれて足を引っ張っているのはそなただろう」

「さぁ、何のことやら」

「いらぬことをべらべらと喋って、挑発したのは誰だ」

「リシリアとの海の思い出のことですか? 挑発と受け取られるだなんて心外ですね」


「ちょっと、二人とも!」


「白い砂浜に立つリシリアはとても美しかったなぁ。輝く波を見て、それ以上に目をキラキラさせてさ」

「いつの話をしているのですか」


 物心ついてすぐ?

 あれは確か4歳とかそれくらいですよ。


「カンサム家とノックス家で休暇が重なってさ。あぁ、でもまずいな。リシリアの海への初旅行は僕がもらってしまった」

「それがいらぬことだと言うのだ」


 いい年した男が何を言ってるのでしょう。

 この私でもイライラしてきましたよ。


「もう! いい加減にしなさい!!」


 思ったより大きな声が出た。

 アルバートとノアは驚いた顔でこちらを見た。





「こっちは毎日必死に課題に取り組んでいるのです。なのに何ですか! 国で最も重要な責務を担うあなたたちが、こんなつまらないことで授業に支障をきたしているのですか!?」


「す、すまん。リシリア」


 アルバートが椅子から立ち上がる。


「だいたいっ! 旅行が楽しみで身が入らぬのなら、私は行くのを辞退します!」

「そ、それは嫌だ」

「ならばきちんとけじめをつけてくださいませ!」

「わ、わかった」


「それからノア!」

「は、はい」

「補佐官のあなたが主君の心を乱すような真似をするとは何事ですか!」

「ご、ごめん」

「幼い頃の話と言えど、私のプライベートを吹聴するような人間、王宮に置くにふさわしいとは思えませんよ!?」

「もうしません」


 一気にまくし立てたので呼吸が上がる。

 私は肩で息をしながら二人を交互に見た。


 反省しているのか、怯えているのか。

 アルバートもノアも、すがりつくような目をしていた。


「わかればよいのです」


 私はふぅっと大きく息を吐いた。


「リシリア、すまなかった」

「僕もごめん」


 はい?


「謝る相手が違うでしょう!!」

「「!?」」

「ご迷惑をお掛けした先生とご学友に謝ってきなさい!」


 何だか私、お母さんみたいですね。

 眉間に皺がいってはシーラにたしなめられそうです。

 怒るのはこれくらいにしておきましょう。


「で、滞りなく課題は出来そうですか?」

「あ、あぁ。やる」

「うん、やるよ」


 一件落着でしょうか。


「あまり周囲に心配を掛けないでくださいませね? では失礼いたします」

「リシリア、待て。せっかく来たのだ、茶でも――」

「けじめ!」

「ぐっ」


「ほら殿下、さっさと終わらせましょう」

「そうだな」


 二人は執務机の資料に目を落とした。

 やれやれです。





「シーラ、戻りました」

「お帰りなさいませ」

「何か甘いものはあるかしら」

「ご用意出来ております」


 シーラはナッツのキャラメリゼをテーブルに置いた。

 一粒口に入れてカリっと噛む。

 ほろ苦さと甘さが絶妙で美味しい。


「解決したのですか?」

「えぇ、おそらく」

「それはようございました」

「疲れた」

「国で一番と二番の秀才を手懐けるとは、リシリア様はすごいですわね」


 なんでその頭をもっと正しく使わないのでしょうか。

 つまらないことに労力をかけることのむなしさったらありません。


「旅行はいつからですか?」

「2週間後、ちょうど長雨が明けた頃でございます」


 夏の海か。

 楽しみだな。


「さぞきれいなのでしょうね」

「それはもちろん。星も素晴らしいですよ」


 私は運ばれてきた濃いアッサムティーを飲んで目を閉じた。

 波音が聞こえてきそうだ。



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