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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
95/160

女騎士

「ただいま~」

「アン! 帰ってきた!」


 アンジュは濡れ髪にタオルを押し当てながら部屋へ入ってきた。


「えぇっと、リシリア様の幻が見えるのですが」

「本物よ。今から例の噂について聞くとこ!」


 いやいや、話しませんよ!?


「アンジュ、今日はお願いがあって来たのだけど、何だかそれどころじゃないっていうか」


 キスを見られていた件とか、貴女が騎士団に入ってる件とか。

 ちょっと情報量過多なんですが。


「やっぱりキスの噂は本当だったんですって!」


 ナナが興奮気味に言うと、アンジュは冷めた顔で言った。


「知ってますよ。私見ましたもん」


 見たの!?


「アン、さっきそんなこと言ってなかったじゃない」

「本人がいなところでコソコソ言うのはどうかと思って」


 アンジュ。良い子に育ちましたね。

 涙が出そうですよ。


「どこで見たの!?」


 ラッタが食い気味に聞く。


「訓練場の見張り台から。そりゃもうばっちりと」


 そんなところからも見えるのですか!?

 視力良いですね!?


「リシリア様」


 恥ずかしさのあまり座り込む私に、アンジュはしゃがんで視線を合わせた。

 石鹸の香りがふわりと香る。


「は、はい」

「時と場所はわきまえられた方がいいですよ」

「ごめんなさい」


 アンジュに怒られた。辛い。


「あ、あなたこそ! 騎士団って何!?」

「聞いちゃいました?」

「どういうことなの」

「えーと。あ! 馬です」


 なにその今思いついたような顔。


「夏期講習で乗馬をやったじゃないですか。それで馬にハマってしまって。馬に乗れる科目が騎士団だけだったんです」

「で、でも、危険じゃない。剣技なんて」

「リシリア様は私を淑女にしたがってたからなかなか言えなくて。ごめんなさい」

「いえ、謝ることではないのだけれど」


 ノースリーブから覗く二の腕が、なんだかたくましい様な。


「じゃあ行きましょっか!」

「え?」

「用事があるんですよね。ここじゃあラッタとナナがうるさいし」


「えぇ~アンだけずるくない?」

「私たちも聞きたいっ」


「リシリア様は殿下とのプライベートを話すような口の軽い女性じゃありません〜」


 あぁ、何て頼もしいのでしょう。

 かすかに女騎士の片鱗が見えますよ。


「立てます?」

「え、えぇ」







 私はアンジュに連れられて外へ出た。

 庶民棟の裏手は小高い丘になっている。


「リシリア様、登りましょうか」

「えぇっ」

「馬出しますから待っててください」

「私、乗れないわよ」

「あはは! 私が乗せますよ。今からなら夕日に間に合います」


 お、男前!!





 私はアンジュに馬に乗せてもらう。

 視線がぐっと上がると景色が違って見える。

 風が吹くと、小高い丘の短い草が波のように揺れた。


「さ、着きました。このあたりで」


 アンジュは私を下ろすと地面にハンカチを敷いてくれた。


「ありがとう。アンジュったらすごいわね。いつの間にか教えることもなくなって、それどころか私の知らないところでどんどん進んでいく」


 嬉しいような、少し寂しいような。


「えぇ? そんなのお互い様じゃないですか。リシリア様、ちょっと会わなかっただけなのにすごくキレイになりました」

「侍女がついたのよ。シーラっていうのだけれど。彼女のおかげだわ」

「またまた。私はリシリア様が努力家だってことよく知ってます」

「ふふ、アンジュこそ」


 夕日が地平線に近づく。

 オレンジ色の大きなそれは、じわじわと光を放っていた。


「リシリア様、私さっき嘘をつきました」

「嘘?」

「騎士団を専攻したの、馬が理由じゃないです」

「そう」


 アンジュは遠い目をしていた。


「ここを卒業したら、リシリア様は王宮に、私は実家に帰るでしょう? そうしたら2度と会えないじゃないですか」

「それは……」


 寂しすぎて認めたくはないけれど、きっとそうだろう。


「でもひとつだけ、見つけたんです。騎士団は平民の募集もある。そこで結果を残せば、いつかリシリア様のもとにいけるかもって」

「私のために!?」

「それに、もしリシリア様のおそばに行けなくても、リシリア様が王妃をしているこの国の、どこかを守ってるって思ったら、それはとても意味のあることかなって」


 アンジュは私の手の届かないところで未来を決めたのだ。

 それについて私が何かを言う資格はない。


「あと、夜会でのことも大きいです」


 アンジュは顔を曇らせた。


「あの時はたまたま助けられましたけど、もしあの男が剣を持っていたら……。あとからそう考えると怖くなりました」


 マメだらけの小さな手をアンジュはじっと見つめた。

 私は思わずアンジュを抱きしめる。


「ごめんなさい。怖い思いをさせました」

「いえ、リシリア様を失うかと思って怖かったのです」

「大丈夫よ」

「そう言えますか? 王妃というお立場は、それほどまでに重いでしょう?」


 アンジュの真摯な声が私の胸に染みる。


「貴女の言うとおりだわ」


 今は学園という安全な場所にいるけれど、ここを出たらそうはいかない。

 いつも侍女がそばにいて、外へ行こうものなら常に護衛がついて回る。


 本当に王妃になりたいのなら、私はその自覚を持たなくてはいけない。


 私はすっとアンジュから身体を離す。

 アンジュは進む道を決めたのだ。

 私もしっかりしないといけない。


「心配をかけますね」


 私はただ微笑んだ。

 するとアンジュはいつものように、にこっと笑った。


「案外楽しいです。馬に乗るのも、剣を振るのも!」

「頼りにしています」

「はい!」


 私たちは沈む夕日を見ながら笑った。



「あ、そう言えば、リシリア様の御用って何ですか?」


 あぁ、忘れていました。


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