バレてた
私が庶民棟に向かって歩いていると、20人程の集団に出くわした。
後ろの方にギュリオの天然パーマが見えるから、きっと室内音楽専攻の人たちだろう。
私と目が合うと、皆一様に顔を赤くした。
そそくさと壁側に寄って、会釈をして通り過ぎていく。
「?」
何だろう、その反応。
不思議に思っていると、そのうちの一人が私の前に立った。手には紙の束を抱えている。
昨年の学園祭でコーラスを頑張っていたカナですね。
「あの! リシリア様!」
「ごぎげんよう、カナ」
興奮しているのでしょうか。鼻息が荒いです。
「今日は即興で作曲する授業だったのですが」
「お、お疲れ様」
「ほんっとーに、ごちそうさま、じゃなかった。ありがとうございました!」
ん?
「お礼を言われるようなことは何も」
「これ、記念に差し上げます! では!」
楽譜?
記念って何のことだろう。
「あの、リシリアさん」
最後尾を歩いていたギュリオが私の横に止まった。
「ギュリオ。一体何なのでしょう。皆の様子が少し、いつもと違うような」
「あ、ああいうことは。人目につかないところでした方がいいと思う」
「え?」
「じゃ、じゃあ」
ギュリオは下を向いたまま行ってしまった。
私はカナにもらった楽譜に目を落とす。
「!?」
タイトル:接吻
曲の鑑賞:春風に吹かれ舞い降りた美しい桜の精が、美麗な王子とキスをする一瞬のときめきを描いた作品。
待って。
何ですかこれは。
私はギュリオたちが出てきた練習室を覗く。
「なんということでしょう」
花の水路が丸見えではないですか!!
私は校舎を抜け、庶民棟の前まで来た。
ライフはごりごりに削られていますが、とりあえずアンジュに会わないことには帰れません。
「二年生のアンジュの部屋はどちらですか?」
私は管理人に聞いた。
「302号室です。お呼びいたしますか?」
「いえ。用があってきたのは私なので、出向きます」
それにアンジュの相部屋とはどんな感じか見てみたい。
「リシリアと申します。アンジュはいるかしら」
私は302号室の扉を叩く。
扉が開くとナナとラッタが出てきた。
「わぁ、リシリア様! どうぞどうぞ、入ってください!」
ナナが言った。
「アンジュに用があるのだけれど、いないのね」
部屋に入ると右側に三段ベッドがあった。
左側には学習机と簡易の衣装棚が三つ交互にならんでいる。
四人部屋と聞いていたけれど、二年生になって三人になったのかしら。
「リシリア様、聞きましたよ~」
ラッタが私の脇腹をつつきながら言った。
「何を?」
「授業中にも関わらず、殿下とキスされていたそうですね!」
「えぇ!?」
「庶民棟じゃその話で持ち切りですよ!」
何 だ っ て 。
「ち、ち、違うの!」
「違うんですか?」
「違わないけど!」
「キャー! やっぱり本当だったんだぁー!」
「聞きたい聞きたい! リシリア様の恋バナー!」
恥ずかしくて頭から湯気が出そうです。
「ア、アンジュがいないなら失礼しようかしら」
「あの子ならもうすぐ戻りますよ。今お風呂行ってて」
「こんな時間に?」
「はい。剣技の実技のあとは必ず」
「け、剣技!?」
「汗だくですからね」
アンジュの専攻。
そう言えばいつもはぐらかされて聞いたことない。
「あの子、一体何してるの!?」
「ご存知ないんですか? 騎士団の初級クラスですよ」
は!?
何で!?
「それよりも、殿下とのキスどうだったんですか?」
「私なんてファーストキスもまだなのに~。リシリア様ってば大人~」
「いや!! ちょっと、待って!!」
もう何を考えればいいのか!!
思考回路がぷっつりと切れてしまったようです。




