三角関係?
「今日は楽しかったです」
「あぁ、私もだ」
終礼の鐘が響き渡り、デートはおしまいになる。
一応授業の一貫ということになっていますからね、名残惜しいですが今日はここまでです。
「すごくリフレッシュ出来ました。何ででしょう、馬車で眠ってしまった時のデートを思い出しました」
「ははっ、そんなこともあったな」
アルバートの隣にいるとドキドキもするけれど、心からリラックス出来る自分もいる。
それだけ心を許せているんだなと思う。
「部屋まで送ろう」
「ありがとうございます」
貴族棟の最上階、階段に一番近い部屋が私の部屋だ。
「じゃあまた」
「えぇ」
「またすぐに会おう」
「はい」
「無理はするなよ?」
「ふふ、平気です」
お互いに離れがたくて、部屋の前で意味のないやり取りを繰り返していた時。
隣の部屋の扉がガチャリと開いた。
「モ、モモタナ様!」
銀色の髪を揺らしてモモタナが現れた。
そうか。
この階の部屋割りは、奥から順にアルバート、モモタナ様、私になっていたのか。
気付かなかったとはいえ、迂闊でした。
モモタナは顔をヒクつかせて棒立ちになっていた。
「ご、ごきげんよう」
私はアルバートを押しやると、モモタナ様に向き直る。
出来るだけ落ち着いた風を装って言う。
「授業ではなかったのですね」
「今日は部屋で課題をやるように言われていたのですわ」
「そうだったのですか」
「そ、そちらは随分と楽しそうですこと!」
あぁ、嫌味を言われてしまいました。
こんなところでいちゃついていれば当然ですよね。
王妃候補のモモタナ様にしてみれば、顔に泥を塗られたも同然です。
「わきまえます。申し訳ございません」
やってしまいました。
久々のアルバートとのデートで舞い上がっていた自覚はあります。
「モモタナ殿」
アルバートが口を開く。
「何ですの?」
「お見苦しいところをお見せしたが、私とリシリアは愛し合っている」
「なっ」
「隣国から来ていただき申し訳ないが、王妃として娶りたいと思うのはリシリアただ一人だ」
「!!」
モモタナはふらふらと後ずさり、扉に身体を預ける。
「わ、わたくし、王妃教育は続けますわ!」
「しかし――」
「絶対に辞めません!」
モモタナ様は鋭い目で私を見た。
それほどまでにアルバートのことを……。
モモタナはまじまじと私を見た。
そんなに睨みつけるほど私のことがお嫌いなのでしょう。
「その指輪は?」
モモタナ様は私の手についているピンクダイヤモンドの指輪を指さした。
「これは私がリシリアに送ったものだ」
「わたくしもほしい!」
子どもがおもちゃを欲しがるようにモモタナは叫んだ。
「すまないがそれは無理だ」
「同じものを私にも贈りなさい!」
「これはリシリアのためだけに作らせたものだ」
「嫌です。私だって王妃候補ですわ。お揃い……じゃなかった。同じものを贈ってくださってもいいでしょう!」
アルバートは険しい顔をモモタナ様に向ける。
「欲しいものがあれば部屋付きの侍女に言え。失礼する」
あぁ、険悪なムードに。
アルバートはモモタナを一切見ずにその前を通り過ぎた。
そして一番奥の私室に入ると、大きな音を立ててドアを閉めた。
「あの、モモタナ様」
「同じものが欲しいだけなのに!」
「これはアルバートの想いなのです。モモタナ様にはあげられませんわ」
「ならば他のものでもいいわ。リシリア、貴女が何か用意なさい」
「私が、ですか?」
なぜ?
アルバートからの贈り物という点に意義があるのでは。
「そうよ。私に恥をかかせたのだから、貴女が用意なさい」
「えぇっと。アクセサリーでよろしいですか。心当たりがあります」
アンジュの実家はアクセサリーショップだ。
何か見繕ってもらおうかしら。
「結構よ。同じものを二点、用意しなさい」
「はい」
モモタナは怒りのせいか、顔を真っ赤にしていた。
ぷるぷる震える手でドアノブを掴むと勢いよく閉めた。
将来王妃になるのなら、隣国の王女様とは親しくしたいと思っていたのですが。
モモタナ様にその気は全くなさそうで少しへこみます。
〇●〇
一方モモタナの私室。
「と、尊すぎるっ!!」
話し声がすると思ってドアを開けてみたら、まさかの見つめ合う二人。
とても楽し気で、嬉しそうで、あぁ!! 眼福!!
さらに殿下もリシリア様を愛しているだなんて仰って。
昇天してしまいそうで足の力も抜けてしまったわ。
あのお二人をこの距離で見られるだなんて、ますます王妃教育を辞めるわけにはいかない。
完璧で高貴なリシリア様が、あんな風に柔らかく頬を染めて笑ってらっしゃるなんて。
「あああぁぁぁあぁ!!」
思い出しただけでも可愛すぎて悶絶してしまうわ。
そ、それに。
私はごくりと唾を飲みこむ。
リシリア様と同じアクセサリーを身に着けられるなんて!
無理も言ってみるものだわ。
指輪にも殿下のお気持ちにも興味なんてないけれど、リシリア様とお揃い。
最高。
少しでもリシリア様に近づけた感じがするじゃない。
「モモタナ様、いかがいたしましたか?」
部屋付きの侍女が言った。
「話し掛けないで!!」
今私の脳内はリシリア様でいっぱい。
あぁ、今日のドレスはいつもと雰囲気が違って可憐で素敵だった。
というか隣の部屋だったなんて。
ドキドキして夜も眠れないかもしれない。




