春の日のデート
今日はデートです!
「秋の大人っぽいドレスも素敵でしたが、可愛らしいドレスもお似合いですね」
「変じゃない?」
「とても可愛らしいですよ」
私はシーラにデート用のドレスを着せてもらっていた。
ピンクダイヤモンドの指輪に合うように、薄桃色のドレス。
光沢のあるシルクの上に、シースルーのオーガンジーを合わせた軽いデザイン。
歩くとオーガンジーがふわふわ揺れて、まるで天使のようです。
「髪は編み込みで、ロマンティックな感じにいたしますね」
こう甘々な感じは自分ではしないので少し恥ずかしいです。
こういうのはアンジュが似合いますからね。
「出来ました。殿下がお待ちですよ」
そう言われて扉を出ると、アルバートが廊下に立っていた。
「お待たせしました」
「っ!」
アルバートは顔を赤らめて口を覆った。
「あの、やはり変でしょうか」
「可愛いすぎて直視できん」
そう言われて私まで赤くなってしまう。
「行こうか」
「は、はい」
私たちは花の水路に来た。
桜が散って、水面をピンクに染めている。
「王妃教育の一環としてデートが出来るなんて、役得だな」
そう。アルバートとの親交を深めるのも王妃教育の一環。
今日は平日にも関わらず、優雅にデートをしているのです。
他の生徒は講義中なので、ここには私たち二人きり。
「何だか申し訳ないですね」
「構わん。久々のリシリアだ」
アルバートはふわりと私を持ち上げてくるりと回った。
「ひゃっ」
「楽しいな。まるで花が待っているようだ」
楽しいですが、返答に困ります。
「アルバートはモモタナ様ともデートをなさるのですよね」
私は抱き上げられたまま、アルバートを見下ろして言った。
授業の一環ということはそういうこと。
ザラ様は「公平にせよ」という指示を出しているらしい。
当然モモタナ様とのデートの場も用意されるのだろう。
「妬くか?」
「少し……いえ、正直に申し上げると気が気ではありません」
外国から来たお人形のような王女様。
モモタナ様がアルバートと並んで歩くなんて、想像もしたくない。
「情熱的だな」
「自分にこんなに醜い感情があったのだと知って、それなりにショックです」
「安心しろ、モモタナ殿とのデートは先方に断られた」
「えっ、そうなのですか?」
「学園生活に慣れたいからと、しばらくは勉学に励むそうだ」
胸を撫でおろす自分にまた嫌気がさす。
「私も勉強しようかな」
「許可しない」
「ですが――」
アルバートはキスで私の口を塞いだ。
「私を置いて勉強するなど、王妃教育として本末転倒だとは思わんか?」
確かに。
「でもモモタナ様が勉強してると聞いたらやはり気持ちが焦ります」
「そういうところがリシリアだな」
「なんですかそれ」
「生真面目で素直じゃない」
「素直じゃないは余計です」
「なら素直になってみろ」
アルバートは私をすとんと下ろした。
「素直になるとは」
「互いに勉強漬けで顔も見られなかったからな」
そうなのだ。
誕生日に指輪をもらってから2週間。
部屋は目と鼻の先にあるというのに、アルバートとは一度も会えなかった。
去年ならほぼ毎日顔を合わせられたのに。
私はじっとアルバートの顔を見る。
青い目が呼び起こすように、蓋をしていた気持ちが溢れてくる。
「会いたかったです」
胸が詰まったように苦しい。
「あぁ、私もだ」
「触れたい、です」
私はアルバートに手を伸ばす。
その手をアルバートが優しく取った。
「今日はこのまま歩こうか」
手を繋いだままアルバートは歩き出す。
「はい」
花の水路にはたっぷりの水が音を立てて流れていた。
手を繋ぎながら歩いていると、日々のストレスから解放されていくような気がする。
「私、王妃教育を受けられることはこれ以上ない栄誉だと思っています」
ぽろぽろと言葉がこぼれる。
「今学んでいることがアルバートのためになるなら、二人の将来のためならと思うと、勉強にも身に入りますし、やり甲斐も感じています」
「うん。だがそれだけではないだろ?」
やっぱりアルバートは私のことをよくわかっている。
私たちは自然と足を止めた。
「大変なものは大変だし、辛いときは辛いと思う自分がいます。自分で決めた道に後悔なんてないのに」
涙が溢れてくる。
毎日のプレッシャーに押し潰されそうで、潰されないようにと気を張ってさらに自分を追い込んで。
「そう気を張るな、と言っても無理なのだろうな。リシリアは」
「はい」
「ならば私といる時は休め。辛いときは辛いと言っていい」
「弱い私に幻滅しませんか?」
「リシリアだけに背負わせることはしない。これは二人の未来のための、二人の道だろう?」
嗚咽が漏れそうになり、唇を噛む。
せっかくシーラがお化粧してくれたのに、きっと涙でぐちゃぐちゃだ。
「リシリア。私のために苦労をかけるな」
「いいえ。私が一緒にいたいのです」
アルバートは包み込むように私を抱いた。
私はアルバートの胸の中で深く息をする。
心がどんどん緩んでいく。
「アルバート、もう一度」
「ん?」
「キスをしませんか」
私は顔を上げた。
「素直だな」
「素直とはおぞましいですね」
「いや、素直とは可愛いんだ」
アルバートは柔らかな顔で笑うと唇を重ねた。




