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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
91/160

side モモタナ

「行きたくない」

「大丈夫だよ、姉様」

「トマには私の気持ちなんてわからないわ」

「姉様のことは俺が守るよ」


 私は隣国に嫁ぐために馬車に揺られていた。

 正確には「王妃教育を受けるため」だが。


 エーコットはお世辞にも大きな国とは言えない。

 内陸の小さな国で、資源も乏しい。


 そこでお父様とお兄様が目を付けたのが、隣国との縁談だ。


「会ったこともない王子と結婚なんて」

「それだけどさ、どうやらもう一人王妃候補がいるらしいんだ」

「そうなの?」


 ならば王妃の座はあげる。

 私はエーコットに帰るわ。


「俺考えたんだけどさ、王妃教育で失態晒せばいいんじゃない?」

「なんで?」

「姉様は王妃に相応しくないって思わせれば帰れるじゃん」

「それもそうね」

「名付けて失態大作戦だ」

「何か私の名が落ちるような気もするけど」

「王妃になるよりマシだろ」

「それもそうね」


 私は弟のトマとにんまり笑った。






 私の他に王妃教育を受けるってどんな人だろう。

 さっさとその人が王妃に決まればいいわ。


 そう思いながら私は「特別講義室A」にいた。


 ガチャリと扉が開く。


 その神々しさに目が奪われる。


 栗色の髪は絹糸で出来ているのかと見紛う程に一本一本がつやつやと輝いている。

 白い肌は陶器のようで、圧倒的な透明感があった。

 それに控えめなお化粧と桜色の唇。

 私と違って背が高くて手足も長い。

 ウエストはきゅっとくびれて女性らしいスタイルをしている。


「し、失礼いたします」


 女神が声を発した。

 その透き通る声をもっと聞きたい。私に向けてほしい。


「あら。この国の人間は目上の者に対して挨拶も出来ないのかしら」


 心臓がバクバクする。


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。ノックス公爵家、リシリアと申します」


 リシリア様!

 お名前まで何て可憐なの。

 小さな鈴が鳴るような、あぁ、耳が幸せ。


「リシリア様、こちらは隣国エーコットの第一王女、モモタナ様でございます」


 あぁ、あまりにうっとりしていて名乗るのを忘れていたわ。

 まぁそこの男が紹介してくれたからいいとしましょう。






 講義が始まると私は混乱した。

 次から次へと出てくる名前。

 来歴? 家族構成? 職業? そんなの覚えられない。


 この国の言葉は小さい頃から叩き込まれてきたから大丈夫だけど、そういう問題じゃない。


 2時間、私は笑顔を固まらせたまま座っていた。

 いや、こんなの出来るはずない。

 無理無理無理。


 失態大作戦とか言ってたけど、普通に出来ない。


「設問一」


 先生が問題を読み上げる。

 暗記問題かと思っていたが、そんなに簡単なものではなかった。


 暗記した上で、どう問題解決に導くのか。

 あまりにも高度な要求に血の気が引く。


 



 カリカリカリ。

 その音に我に返る。 


 リシリア様は一心不乱にガラスペンを走らせていた。

 その美しさったらない。


 紙に目を落とした端正な横顔、火が灯ったような真剣な眼差し、細い指の中で輝くガラスペン。

 この人こそ王妃になるべき人だ。





「モモタナ様、なかなか大変な課題でしたね」


 は、話しかけられた!

 女神に! いえ、リシリア様に、話しかけられた!


 少し疲労の滲むお顔も色っぽくて、何もお返事が出来ない。


「……」


「ではまた明日。ごきげんよう」


 あぁ、リシリア様が行ってしまう!

 せっかく話しかけてくださったのに!


「ま、待ちなさい」


 あぁ。どうしてこう高圧的な物言いしか出来ないのだろう。

 男兄弟の間で育ったせいだわ。


「は、はい」


 リシリア様が返事をしてくださった!

 どうしよう。やばい、心臓破裂しそう。


「王妃の座はひとつしかないのよ? おわかり?」


 リシリア様こそが相応しい。わかっていらっしゃるとは思うけれど。


「存じております。ですが私はアルバートを愛しておりますので」

「愛?」


 あ、愛!?

 え!? 何!?


「はい。アルバートのために、今はただ王妃教育を頑張るだけです」

「っ!」


 尊い。

 尊すぎる。


 この難解な授業を、ただ愛のために頑張るなんて尊すぎる。

 何て立派な方なのでしょう。


 圧倒されて何も言葉が出ない。

 このオーラは絶対的な想いの強さからくるものなのか。


 私がまた黙っていると、リシリア様は礼をして行ってしまった。


 これほどの授業のあとなのに、その動きは優美で余裕があって、気品に満ち溢れていた。






「姉様、どうだった?」


 部屋に帰ると前室にトマがいた。

 トマは1年生としてこの学園に入学している。


「全然出来なかった」

「お、失態大作戦成功?」


 嫌だ。

 もうリシリア様の前で失態なんてしたくない。

 リシリア様に「出来ない子」だなんて思われたくない。


「私、頑張る」

「は? 姉様何言っての?」

「見つけた。私の目標」

「エーコットに帰ることだろ?」

「私、リシリア様みたいになりたい」


 誰をも魅了する女性。

 私だって一国の王女だ。


 リシリア様が王妃になるのなら、私だって王女として気高い女性でありたい。

 そしていつか、隣国の王族同士として仲良くなれたら……。


「ね、姉様! 鼻血!」

「リシリア様……」

「誰だよそれ。ほら、早く拭いて!」


 一目惚れってこんな感じなんだろうか。

 リシリア様に見合う女になりたい。


 少なくとも「ライバル」と認めてもらえるくらいの。


 王子にも王妃の座にも全く興味はないけれど、ただリシリア様に認められたい。


「ちょっと姉様! 聞いてる!?」



今日はここまでです。

更新を待って起きてくださっていた方、ありがとうございました!

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