ショコラ
「モモタナ様、なかなか大変な課題でしたね」
私はどっと疲れた頭でモモタナに話し掛けた。
この疲労感を共有できるのは彼女以外いません。
「……」
あぁ、また無言です。
私嫌われているのでしょうか。
いや、冷静に考えてそうですよね。
ライバルですから。
「ではまた明日。ごきげんよう」
「ま、待ちなさい」
「は、はい」
「王妃の座はひとつしかないのよ? おわかり?」
グレーの目が私を見つめる。
これは私に退けと言っているのだろうか。
「存じております。ですが私はアルバートを愛しておりますので」
「愛?」
「はい」
私には王女のような身分はないけれど、これだけは自信を持って言える。
「アルバートのために、今はただ王妃教育を頑張るだけです」
「っ!」
そしてモモタナはまただんまりを決め込む。
そろそろ失礼していいでしょうか。
私は頭を下げてから退室した。
声を掛けてこないということはこれでいいんでしょう。
はぁ、疲れました。
早くお茶とお菓子にありつきたいです。
「シーラ、ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ、リシリア様」
パタンと扉が閉まるやいなや、私は前室のソファーに倒れ込んだ。
三人掛けの長椅子ですから、もはやベッドのようなものです。
「あらあら、お疲れでございますね」
「見逃して……」
お行儀が悪いのは百も承知です。
「お茶をご用意いたしますね。それからお菓子も」
「と、糖分……。脳に糖分をください……」
「承知いたしました」
しばらくするとふわりと湯気の香りがした。
突っ伏していたソファーから顔を上げる。
テーブルにはミルクティーとお菓子が用意されていた。
「本日はショコラをご用意いたしました」
「ショ、ショコラ!」
涙が出るほど嬉しいです。
一粒口に入れるとトロリと甘いショコラが溶けました。
天にも昇る思いです。
「涙ぐむほどお好きですか?」
「いや、むしろシーラが好き。しゅき」
なんて気の利く侍女なのでしょう。
私は口いっぱいにショコラを溶かしたあとお茶を飲む。
「あああああああ」
「いかがなさいましたか?」
「お砂糖たっぷりでおいしい……甘くてミルキーで、控えめに言って最高です」
「くすくす。糖分をと仰いましたので」
緊張していた脳と身体がほぐれていくのを感じます。
私は並んだショコラを完食し、お茶も二杯おかわりした。
「シーラがいなければ私死んでしまうかもしれません」
「大袈裟ですわ」
割とガチなのですが。
シーラは銀のお皿とティーカップを片付ける。
私もいつまでも休憩してる場合ではありませんね。
「部屋で本を読んでいます。何かあれば呼んでください」
「かしこまりました。では先にお召し替えを」
そうでした。
制服のままソファーに身を投げたのでした。
「時にリシリア様」
「はい?」
「海と山、どちらがお好きですか?」
シーラは私をラフなワンピースに着替えさせながら聞いた。
「うーん、どちらも好きですが。今は広い海でも見たい気分ですね」
自分の抱えているものなどちっぽけだと思わせてくれそうです。
「さようですか」
シーラはにっこり微笑んだ。
一体何なのだろう。
「出来ましたわ」
「ありがとう。ではしばらく隣にいます」
「はい。居室のベランダのドアを開けているのですが、お閉めいたしますか?」
「開けたままでいいわ。春風が気持ちいいですからね」
何ならベランダのチェアで読みましょうか。
春の穏やかな日差しの中で読めば、少しは気分転換にもなるでしょう。
「ご夕食のときにお声がけいたしますね」
「えぇ」
私は居室に入り、読みかけの本を本棚から取り出す。
春風でレースのカーテンがふわりと舞った。
窓の外には桜が満開だ。
私はベランダに出て丸太をくり抜いた椅子に座った。
「悪役令嬢はパラ萌えされる」、先日初感想をいただきました!
ありがとうございます!めちゃくちゃ嬉しいです!
嬉しさのあまり、本日勝手に「頑張れ!連投フェア!」開催中です。
今日はもう一本書くぞー!待ってろー!
いえ、お身体を優先し、どうぞ眠ってください。




