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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
1年生
84/160

決着

「カンサム公のところへ行く」

「私も行きます」

「リシリアが悪者になることはないだろう」

「ノアの想いを終わらせるのは、私でなくては卑怯でしょう」

「強いな」


 私とアルバートはノアの部屋へ向かった。





「殿下、こちらにいらっしゃるとは。それにリシリアも」


 ノアは扉を開けると何かを悟ったように言った。


「カンサム公、話がある」

「僕にですか? 勿論お伺いしますよ。それで、リシリアは何?」

「私もノアに話があるの」


 ノアは扉を大きく開けた。


「中へどうぞ。立ち話するような内容でもないんでしょう?」




 私たちは応接セットに掛けた。


「そういえば殿下。近々ご婚約されるそうですね。おめでとうございます」


 ノアが先制とばかりに言った。


「あれは私の意思で止めている。正式に決まったわけではない」

「そうなのですか? ではまた決まった時にお祝いを申し上げます。それはそうと――」


 ノアは優しく微笑んだ。


「僕、リシリアに求婚したのです。祝福してくださいますか?」

「それは出来ん相談だ」

「なぜです」

「相手がリシリアだからだ」


 アルバートに言わせては駄目だ。

 私が言わないと。


「ノア、私『王妃教育』を受けること、正式に決まった。私はノアとは結婚しない」


 ひとつひとつ、確実に言葉にする。

 もう期待させたり、少しだって望みを持たせることがあってはいけない。


「ノックス殿が言ってただろ? そんなのリシリアが不幸になるだけだ」

「カンサム公、私はリシリアを不幸になどしない」

「殿下、貴方は生まれながら王子で何でも手に入る。なぜリシリアにこだわるのです」

「なぜリシリアが良いか? それは貴殿もよくわかっているだろう」


 ノアの表情がわずかに崩れる。


「私はアルバートを愛しているの。縁談を撤回してください」

「僕だってリシリアを愛してる。子どもの頃から、ずっと」

「ノアにはこれまで何度も助けられた。感謝もしてる。でもノアのもとには行けない」

「割り切って、愛のない婚姻を結んでいる人なんてたくさんいるよ」

「でも私は好きな人と結ばれたいと思う」


 もうこの気持ちをなかったことになんて出来ない。

 

 窓から差し込む強烈な西日はいつの間にか落ちていた。

 窓の向こうの闇が日没を知らせた。


「殿下は、僕の大切なものを奪うのですね」

「私にとっても大切なものだ」

「ですが殿下は他にも持っているではありませんか! 地位も、栄誉も、この国全てを!」

「羨ましいのならくれてやる」

「何を言って――」

「将来は執政補佐官になるのだったな」

「は、はい」

「貴殿になら簡単なことだろう。色恋に耄碌もうろくして、満足に執務もこなせぬ不出来な王。そう一計を案じれば良い。実権を握るなどたやすいぞ」

「なっ! 何を言ってるんだ!」

「私は本気だ。欲しければくれてやる。だがリシリアは渡さない」


 ノアは力が抜けたようにソファーにもたれた。


「殿下の想いはそれほどですか」

「あぁ」

「絶対に泣かせないと誓いますか」

「誓う」

「もし泣かせるようなことがあったなら僕が攫います」

「胸に止めておこう」


 ノアは私を見た。


「縁談は取り下げる」

「ノア!」

「諦めることには慣れてるんだ」


 優しい顔で笑うノアを見て、不意に涙がこみあげる。

 視界が滲む。


「リシリア、幸せになって」

「うん」

「幸せになれなかったら、その時は僕が行くから」


「貴殿もしつこいな」

「何年思い続けていたと思うんですか。それをぱっと出てきた殿下に取られたんじゃ、夜も眠れませんよ」

「そんな私に忠誠を誓えるか? 私の下で働けるか?」

「そんなもの、生まれる前から誓っています。カンサム公爵家の名に恥じるようなことはいたしません」

「結構」


 男の人ってわからない。

 アルバートとノアは笑顔で握手をしていた。


 私は涙が流れ落ちないよう、必死で耐えているって言うのに。


「カンサム公、今夜は飲むか」

「は?」

「夜も眠れないのだろう」

「そうですね」

「リシリアの子どもの頃の話でも聞かせてもらおう」

「お断りします。僕だけの思い出だ」

「言ってくれる」

「まぁ、これくらいは」


 意味がわかりません。

 何が楽しくて二人とも笑っているのでしょうか。


 怪訝な私の目に気付いたのか、ノアが私を見て言った。


「殿下、リシリアを部屋へ。今回のことで随分困らせましたから休ませてください」

「そうだな」

「お酒の準備をしてお待ちしていますよ」

「あぁ、すぐに戻ろう」






「アルバート、何を考えているのですか」


 目と鼻の先だが、私は部屋に送ってもらった。


「臣下との親睦を深めてくる」

「さっきあんなことがあったのにですか?」

「それはそれだ。割り切るのも仕事のうちだろう。本当にあれは頭が良い」

「意味がわかりません」

「ならば考えずに休め」

「……」

「愛している」


 アルバートは私の額に優しくキスをした。


ノア、ついに退場です。お疲れ様でした。(切ない)

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