面談
慌ただしく2学期の期末考査が終わり、短い冬休みを過ごす。
あっという間に年が明けると、進路面談があった。
担任であるフランシス先生との面談。
夜会のことが気になるが、行かないわけにはいかない。
私は少し緊張しながらも応接室のソファーに座っていた。
「これが二学期の成績です。これほどの好成績、女生徒では類を見ませんね」
応接机に置かれた成績通知書に目を落とす。
頑張っただけあって高得点がならんでいた。
「ありがとうございます」
ほっと胸を撫でおろす。
「では二年生の進路選択ですが、具体的に決まっていますか?」
フランシス先生は長い足を組んだ。
「興味のあることでも構いませんよ。この成績ならどんな進路でも選べます。一緒に考えましょう」
フランシス先生は柔和な顔つきで言った。
あの夜の黄色いバラの男とはまるで違う。
面倒見の良い、いつものフランシス先生だ。
「私は王妃教育を受けたいと思っています」
私は毅然とした声で言った。
「はい? すみません、面談続きで疲れているのかな。もう一度聞いても?」
「王妃教育です。将来はアルバート殿下のお傍でお仕えしたいと思っております」
途端に優し気なフランシス先生の目つきが変わる。
冷たい、見下すような目だった。
「向いてませんよ」
ドクン。
心臓が飛び出そうなほど強く打つ。
「ど、どうしてそう思われるのですか」
「成績は申し分ありませんが、王妃となるとそれだけではね」
「至らないところがあるのは承知しております。ですから学びたいのです。将来殿下の隣に立っても恥ずかしくないように」
フランシス先生は溜息をつく。
「学ぶ資格すらないのでは?」
「どういうことですか」
「貴女は素行がいただけません」
「素行、ですか?」
心当たりがない。
公爵令嬢らしく品行方正に生きてきた。
そんなことを言われる筋合いはない。
「学園内で風紀を乱しているでしょう。そんな女性が国母などとは」
蔑むような笑いに鳥肌が立つ。
「風紀を乱した覚えはございません」
「複数の男子生徒と関係があるでしょう」
「ございません!」
思わず声を荒げてしまう。
アルバートに誓って、そんなこと絶対にしていない。
「では夜会でのギュリオ君の件はどう説明します。あの場は私が誤魔化しておきましたが、あんな夜半にあんな格好で。彼は密着するように貴女の隣で眠っていましたね」
「ですからそれはっ」
誤解だ。
あの夜に説明したはずなのに。
「その前にはベランダで背の高い男と二人でいたでしょう」
ランカ先輩のことか。
先生に見られていたとは。
「酔い覚ましに夜風に当たっていただけです」
「理由はどうあれ、夜会から姿をくらませた男女ですよ」
言い訳が出来ない。
それにあの時ランカ先輩から求婚もされた。
後ろめたいことがないとは言えない。
「それにカンサム公爵家から縁談が来ているそうではないですか。ノア君とも仲がよいのでしょう? 王妃になるなど考えず、公爵家同士結婚すればいい」
「な、何のことです」
ノアから縁談?
そんなの何も聞いていない。
ノアからも実家からも、そんなこと一言も。
「あぁ、知らなかったのですか。まぁ貴族同士ですからね。知らぬうちに婚約者がいたなどよくあることです」
「嘘をつかないでください。私は何も聞いておりません」
「嘘ではありませんよ。自分で確かめてみるといい」
頭がくらくらする。
何がどうなっているのだろう。
「まぁとにかく、貴女には王妃教育を受ける資格があるとは思えません。次回の面談は一週間後、賢明な貴女ならもっと良い選択が出来るでしょう」
フランシス先生は立ち上がると応接室の扉の前まで歩いた。
その無言の圧は、早く退室しろと言わんばかりだった。
「し、失礼いたします」
私は覚束ない足取りでフランシス先生の前を通る。
「リシリアさん。もう一度言っておきますね。貴女には王妃教育を受ける資格はない。私はそう思いますよ」
長い指が花瓶から一本花を抜く。
そしてそれを私の胸の前に差し出した。
「どうぞ」
黄色い一輪のバラだった。
「っ! 結構です!」
私は扉を開けると真っ直ぐに私室に帰った。
何も言えなかった悔しさ。
縁談話への困惑。
フランシス先生の底知れぬ恐怖。
色んな感情がごちゃ混ぜになって、私はベッドに突っ伏して泣いた。




