初雪
学園祭が終わると一気に期末テストモードになった。
2学期は範囲が広く、履修内容の難度も上がる。
皆これまでのお祭りモードからすっかり切り替え、個々の勉学に励んでいた。
夜会のことなど皆なかったみたいに振る舞っていたのは私にとって少し安心でもあった。
ノアはこれまで通り普通に接してくれた。
ランカ先輩とは会う機会がほとんどないけれど、実家から何も連絡が来ていないということは正式な縁談にはなっていないのだろう。
ギュリオは泥酔していたから覚えているのかすら怪しい。
アンジュは夜会の黄色のバラの男のことを私に問いただすことはしなかったし、誰かに報告することもなかった。
それは私のお願いでもあったのだけれど。
そういうわけで、冬の到来を感じながら勉学に励む日々を過ごしていた。
「あ、雪」
図書館を出ると、初雪がちらついていた。
人の気配を感じながら勉強をすると捗ることがわかって、最近は図書館で勉強することが多い。
私はバンドで止めた教科書を胸に抱えて空を見上げた。
鉛色の空から降るそれは、真っ白でふわふわしていて、とても儚げだった。
しばらく空を見ていると、視界の端に揺れるものが見えた。
二階の渡り廊下からアルバートがひらひらと手を振っている。
「リシリア、少しそこで待て」
私は頷く。
アルバートと二人で過ごすのも久しぶりだ。
2学期の期末考査は冬休み明けにある「専門分野選択」の基準となる。
次期国王であるアルバートは学年で一番良い成績を修めなければならない。
それが「執政」を選択するための不文律である。
そりゃまぁ「執政」を選ぶ人間が、「執政補佐官」よりも劣っていては格好がつきませんからね。
つまりアルバートはあの秀才ノアよりも、全科目で良い成績を取らなくてはいけないのです。
「元気か」
アルバートは私の前に立つとぎこちなく言った。
「毎日教室で顔を合わせているではありませんか」
「ろくに顔を見る暇がない」
「お忙しいですものね。アルバートこそお元気ですか?」
「あぁ」
「それは何よりです」
「いや、違うな。少し弱っている」
「どこかお身体が?」
「このあたりが、空いている」
アルバートは人差し指で胸のあたりをさした。
えぇっと、これはどうしろと。
「少しリシリアが足りないようだ」
「私も、アルバートに話したいことがあります」
「そうか。だがこのあとも予定があってな。明日はどうだ、ちょうど休みだろう」
「大丈夫です」
「では昼前に迎えに行く」
「はい」
そう言った息が白くなった。
雪はあたりを冷気で包みこみ、ぐっと気温を下げたような気がした。
「風邪をひくなよ?」
「そちらも寝坊などされませんよう」
「ならば一緒に寝るか。それなら寝坊しないだろう」
「冗談にしてはつまらないですね」
「そう軽蔑した顔をするな」
「殿下。そろそろお戻りくださいますよう」
渡り廊下から声が降った。
いつかアルバートの部屋の前室でみた執事だ。
「いってらっしゃいませ」
「あぁ。このあとみっちり三時間、水運の勉強だ」
アルバートはうんざりした声で言った。
「ふふ。では私もそうしましょう」
もう夕方ですから続きは部屋で。
水運は歴史的背景や地理的要素、気候条件などが絡んでややこしい分野です。
「ではまた明日」
「えぇ。ごきげんよう」
私はアルバートの足音が聞こえなくなるまで頭を下げた。
ようやく1年生の冬にたどり着きました。
次回、アルバートとリシリアのデートです。




