私室にて
「先にお着替えと、あぁ、湯あみをされますか?」
私は小さく頷くと着替えを取りにクローゼットへ向かう。
だけど膝に力が入らなくて、数歩歩いてその場で崩れてしまった。
「リシリア様、お手伝いしますよ」
「ごめんなさい」
「いいえ、私が止めていればよかった。私、出口でリシリア様のこと待ってたんです。そしたらリシリア様、誰かに連れられて行ってしまって。後を追ったのですが、部屋に入る前に声を掛ければよかった」
アンジュは声を震わせて言った。
「大丈夫よ。アンジュが責任を感じることはないわ」
「リシリア様、こんな時まで強がらないでください」
アンジュの丸い瞳からぽたぽた涙がこぼれた。
「アンジュのおかげで何もなかったの。来てくれてありがとう」
「そうやって、大人ぶらなくていいんです」
「泣かないで」
「自分が情けなくって。く、くやしいっ」
アンジュはぎゅっと下唇を噛んだ。
「ほら、血が出てしまうわ」
「心配されるのはリシリア様の方でしょう! 私だってもっと頼られたい。面倒を見てもらうだけはもう嫌なんです!」
「アンジュ……」
アンジュはごしごしと涙を腕で拭った。
「私、今日殿下と踊りました」
「見ていたわ」
「初めてのダンスレッスンの日、リシリア様は私に、殿下と踊れるほどの技術はないと仰いました」
よく覚えている。
この半年あまり、アンジュはよく頑張った。
「殿下とちゃんと踊れるようになったら、リシリア様に言おうと思っていたことがあります」
「何?」
アンジュは赤くなった目で私を見た。
「私と、友達になってください。教えてもらうだけじゃなくて、もっと対等に、リシリア様のそばにいたいんです」
「友達に?」
「はい。私はまだ未熟です。リシリア様には遠く及びません。でも自分で出来ることも増えたし、出来るようになるために何をすればいいかも学びました。もうリシリア様の手を借りなくてもいい。そう証明出来たら、友達になってほしいと言うつもりだったのです」
それがアルバートとのダンスだったのか。
「アルバートが、アンジュには思うところがあるのだと言っていました」
「バラさないでって言ったんですが」
「ゆっくり聞いてやれと言われただけです」
「こんな勢いで言ってしまって。あぁ、また情けなくなりました!」
アンジュは泣いているのか怒っているのかよくわからない顔をしていた。
でもその気持ちだけは痛い程に伝わった。
「友人になら、とっくになっているでしょう」
「え?」
「そうね、こういうのはどうかしら。親友になる、とか」
「リシリア様、自分で言って照れないでください」
うっ。
だって。
「でもそんなリシリア様が大好きです」
アンジュはぎゅっと私に抱き着いた。
「私もアンジュが大好きよ」
私はアンジュの背中にそっと手を置いた。
「頼ってください。私がいますから」
「うん」
身体の筋肉が緩んでいく。
指先に温かい血が通う。
「怖かったですね」
「うん。でももう大丈夫。今度は本当」
私は心の底からそう言えた。




