夜会(アルバート)
アルバートの流れるような優美な動きに身を預ける。
とても心地良い。
夜会が始まってからずっと居心地が悪かった。
どこにも居場所がないような、手持ち無沙汰な感じ。
幼馴染みのノアの隣にいた時も、ランカ先輩と踊った時も、どこよりも静かだったギュリオのいたソファーも、安心感とは程遠かった。
でもアルバートの腕は、温かなお湯の中にいるみたいに心地良くて、ほっとする。
「見ろ。これがお前の評価だ」
アルバートは私たちを取り囲む群衆を見て言った。
アンジュの時のような歓声も指笛もないが、その代わり皆息を呑み、尊いものを見つめるような目をじっとこちらに向けていた。
「アンジュはマスコットのように皆の心を掴む節があるが、お前はまた違うな」
「敬遠されているような」
「高嶺の花というやつだろう。それもとびきりの」
アルバートはどこか誇らしげだった。
私たちはダンスを終えると奥のウィンドウベンチにやってきた。
壁の一部が奥行きのある出窓になっていて、座れるようになっている。
座面は固めの群青色。
雲の形のふわふわとしたクッションが飾ってあって、空みたいで可愛い。
アルバートは私をウィンドウベンチの端に押しやると、分厚いカーテンを引いた。
「こう人が多いと二人になるのも苦労する」
アルバートはどすっと私の隣に座った。
軽く立ち話くらい出来たらいいなと思っていたけれど、こんなことになるなんて。
死角が多くて薄暗いとは言え、カーテンの向こうは夜会の会場。
なのにアルバートはぴったり肩をくっつけて、このままだと心臓のドキドキが伝わりそう。
「あ、あの。アンジュとのダンス、素敵でした」
「あぁ。偶然会ってな」
偶然。
いいなぁ。
私は迫られるやら見咎められるやら内心修羅場だったのに、アンジュはこんなに着飾ったアルバートに偶然会えてしまうんですね。
こうヒロイン補正を見せつけられると、我が身が恨めしいです。
「すぐにアンジュだと気がつきましたか?」
「あれは黙っていればどこぞの令嬢だが、喋ればアンジュだからな」
「何だかわかります」
私はアンジュの顔を思い浮かべる。
溌溂としていて、可愛くて、さっぱりしていて、素直で一生懸命。
あぁ、非の打ち所がありません。
「昼の礼を言ったら、礼はいいから一曲付き合えと言われた」
「そうなのですか」
アンジュ、なかなか大物ですね。
「あれもどこか思うところがあるようだ。今度ゆっくり聞いてやるといい」
「私のことを何か言っていましたか?」
「本人の口から聞くのがいいだろう」
「そうですね、そうします」
「それはそうと、麗しいご令嬢」
アルバートはにやりと笑った。
「ご、ご令嬢?」
「今宵は仮面舞踏会。私は貴女の素性をまるで知らないのだが」
「何の戯れですか」
「いつまでアンジュの話をしているつもりだ。二人きりになれたというのに」
「そう言われましても」
「名も知らぬご令嬢」
「まだ続けるのですか」
「日頃は話せない恋の悩みを聞いてはくれぬか?」
えぇ。
何か面倒くさいですよ、アルバート。
「聞くだけなら」
「私の想い人は少々恥ずかしがり屋でな」
「女性ならそんなものでは」
「いじらしい姿が可愛いくて、もっと心を乱してやりたいと思ってしまう」
聞くんじゃなかった。
耳が熱い。
「その女性の心臓が潰れたらどうするおつもりです」
「それは困るな」
そう言うとアルバートは私のうなじに軽くキスをした。
「んっ」
「心が乱れたか?」
乱れるどころじゃない。
バクバクと鳴る心臓。息をするのさえ辛い。
「こんなところでっ、人に見られたら、どうするおつもりですか」
「これ以上お前を見られるのは困るな」
アルバートは私の背中に腕を回してぎゅっと抱きしめた。
「あっ、あのっ」
「こんなに肌を出して、男は私みたいに紳士ばかりではないぞ」
「どこが、紳士ですか!」
「これでも辛抱している」
むすっとした声でアルバートは言った。
「着たくて着たんじゃない」
「わかっている。だが妬くぞ。こんな姿を私以外の男に見せるなんて」
「……」
「既に誰かに言い寄られたか?」
!!
「そ、それは」
「ふぅん? お仕置きが必要だな」
アルバートは長い指で仮面を外した。
月明かりに照らされたアルバートは誰よりも美しかった。
キラキラと光る前髪がふっと近付く。
唇が重なる。
カーテン一枚隔てたところでこんなことをするなんて。
この背徳感は、私の中に言いようもない程の興奮を呼び起こした。
私はもっとアルバートに触れたくて、その頬に手を伸ばす。
しかしアルバートは私の手をぱっと握ると唇を離した。
「あぁ失礼。ご令嬢にこんなことをしてはいけませんね」
アルバートは不敵な笑みを浮かべて仮面を付け直す。
「な、何でっ」
「お預けだ」
「なっ」
「もっとしたかったか?」
「ち、ちが」
「違わない。だがお仕置きだ」
私は恥ずかしさのあまり俯いた。
自分の浅ましさが恐ろしい。
そんな私をアルバートはまた強く抱く。
「リシリアは可愛いな」
「な、名前っ」
「仮面舞踏会も悪くない」
こんな夜会、もう二度と出たくありません。
読者様大感謝企画、特にご要望なく終了しました。
が、大丈夫です!
凹んでなどおりません。
昨日今日と突然増えた評価ポイント。
わかっていますよ、そこのあなた!!
「リクエストはしないけど、応援しているよ」という意思表示ですね?
ありがとうございます。そのお気持ち受け取っております。
はたまた「早く続き読みたすぎるから、リクエストしたい衝動を抑えてあえての無言」でしょうか。
わかります。伝わっていますよ!
という妄想をしながらポジティブに執筆しております。
大感謝企画で恩返し出来ませんでしたが、読者の皆様に感謝していることだけ伝われ!
いつもありがとうございます!




