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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
1年生
71/160

夜会(揺れる心)

 熱気に包まれたダンスホールとは対照的に、冷えていく私の身体。


 何を嫉妬しているんだろう。

 4月、私はアンジュをアルバートと踊れるくらいにすると誓った。


 そして今、アンジュはダンスホールの真ん中で、堂々とアルバートと踊っている。


 小さな足で踏むステップ、ぴんと伸びた背筋、あどけなさの残る口元の微笑。

 アンジュは髪を揺らし、身体を預けて優雅に舞う。

 それはどこから見ても可憐な令嬢だった。


 私が気後れするほどに。


 トン。

 私の右肩が何かにぶつかる


「し、失礼いたしました」

「らしくないわね、リシリア」

「えっ」

「私よ」


 声の主はちらっと仮面を上げて素顔を見せた。

 思わず後ずさってぶつかったのは、斜め後ろにいたセレナだった。


「あの子、上手くなったじゃない」

「えぇ、本当に」

「可愛いわね」

「……そうでしょう」


 アンジュを褒められたというのに、手放しで喜べない自分がいる。


「でも殿下にはリシリアの方が似合うわ」

「さぁ、どうかしら」


 アンジュとアルバートはまるで初々しいカップルのよう。

 見ているだけで胸がこそばゆくて、顔がほころんでしまう。

 そんな感じ。


「殿下とリシリアが並んだ時の、絵面の破壊力ったらなくってよ」

「ぷっ。何、破壊力って」


 私は思わず噴き出す。


「技術は練習でどうとでもなっても、その気品とオーラは貴女だけのものじゃなくて?」

「今夜はどうしたの? そんなに褒めるなんて」

「明日には全て忘れるんだから、今日くらい褒めておこうと思って」


 セレナはそう言いながらも高慢そうな態度は崩さなかった。

 でもそれはとても彼女らしくて、その気安さがむしろ心地よかった。


「ありがとう。でも忘れられないかも」

「だいたいダンスくらいで落ち込みすぎなのよ。卒業したら、死ぬほど夜会に出なくちゃいけないのよ。貴女そのたびにめそめそするわけ?」

「めそめそなんてしてません」

「いいえ、してたわ」

「してない」

「してた」


 私たちは同時に噴き出した。

 セレナがいて助かった。鬱屈した気持ちが少し晴れる。






「ほら、ダンスが終わるわよ」


 セレナが顎を上げて言った。


 アンジュとアルバートは互いに見つめ合ったあと、同時にお辞儀した。

 まるでおとぎ話に出てくる王子様とお姫様だ。


「あ、あの! 一言よろしいでしょうか!」


 拍手の前に、アンジュは大きな声を出した。

 会場はしんと静まり返る。


「私、踊りました! 踊り切りました! 見てくださいましたか!?」


 観衆はそれを聞いてぽかんとしていた。

 ちゃんと見ていたじゃないか、と言わんばかりに。


「リシリアに言ってるんじゃない?」


 セレナが耳打ちする。


 おかしいな。

 さっきまでの嫉妬はすっかり息を潜め、胸の中は温かいもので満たされている。


 パチパチパチ。

 私は小さく拍手を送る。


 それに呼応するように、一斉に拍手が巻き起こった。


「ありがとうございました!」


 アンジュはぺこっと頭を下げると、恥ずかしそうに暗幕と暗幕の間に姿を消してしまった。

 一人残されたアルバートは苦笑していた。


 これだからアンジュは憎めないのだ。

 可愛くて、素直で、ヒロインの名に相応しい女の子。


「リシリア、行きなさいよ。あれじゃあ殿下が不憫だわ」


 セレナが私の背中をポンと押す。


 私が足を踏み出すと、観衆の輪はきれいに割れてアルバートまでの花道を作った。

 胸を張って背筋を伸ばす。指先の一本まで隙のないように。


「もう一曲、いかがですか」


 私はアルバートに微笑みかけた。


「光栄だ。是非お相手願おう」


 アルバートは私の手を取る。


 指揮者が我に返ったように指揮棒を振ると、音楽が流れ始めた。

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