夜会(ダンスフロアの二人)
ギュリオ、こんなところで寝ないでください。
というか私はどうすればいいのでしょう。
倒れた時の衝撃で、ギュリオの仮面は外れていた。
難しそうな顔をして眠るギュリオを見て、私は思わず深く息を吐く。
疲れてたんだな。私もそうだけど。
ギュリオは今日の本番まで、実行委員としても「大先生」としても奔走していた。
そして本番、ほぼ全曲の演奏をやってのけた。
その魂を削るようなヴァイオリンの音色は観る人の心を震わせたが、本人の疲労度は計り知れない。
そこへお酒とくれば、寝てしまうのも仕方ないような気がします。
ギュリオの寝顔を眺めていると、突然人影が現れた。
「これはどういうことですか?」
「フ、フランシス先生」
マルモ先輩のお兄様で、寮長兼1年生の担任。
夜会に参加すると聞いていたが、いつもの服装のまま、黄色のバラも仮面もつけていない。
「巡回の時間なので来てみれば……これはうちの生徒ですね」
フランシス先生は鋭い目でギュリオを見た。
「あ、あの。お酒を飲みすぎたようで、突然寝てしまって」
「失礼、貴女は?」
「リシリアです」
私は恐る恐る仮面を外した。
気まずい。
悪いことなんてしてないけれど、後ろめたさでいっぱいです。
「君たちはそういう関係ですか? 密着して眠るような」
「いいえ! 違います!」
「ではなぜこんなことに?」
「ギュリオが突然立ち上がって、そのままソファーに倒れるようにして眠ってしまって」
「こんなになるまでお酒を飲ませたのは?」
「私が来た頃には既に酔っていたようで、私が来てからはグラスに3杯ほど飲んでいました」
「ふぅん」
フランシス先生は険しい顔で眼鏡を押さえた。
「す、すみません」
「全く、困りますね」
私が悪いのでしょうか!
私だって医療班を呼びに行こうとしたのです。
でもギュリオに引き止められて、こんなことに。
まぁ、振り切ってでも医療班を呼びに行かなかった落ち度があると言われればそこまでですが。
「担架を運ばせます。貴女は会場に戻って」
「でも、ギュリオを置いては」
「恋仲でないのなら、ここにいない方が貴女のためかと」
仰る通りです。
若い男女が仮面舞踏会に乗じて酒をあおり、男は泥酔。
挙句、眠り込んだ男に寄り添う露出度MAXの女。
なお、二人は恋仲ですらない、ただのクラスメイト。
恐ろしい醜聞です。
私の酔いも一気に醒めました。
「あまり羽目を外さないように」
「申し訳ございません。失礼いたします」
私は頭を下げた後、仮面を付け直して会場へと戻った。
もう残りの時間は大人しくしていよう。
黒いドレスだし、出来るだけ壁に寄って静かにしてれば気配も消せるでしょう。
あぁ、でもノアと会ったのはそうしている時でした。
一体どうすれば……。
そんなことを考えていると、ダンススペースから華やかな声が上がった。
「わぁ!」
「素敵ね」
「とてもお上手だわ」
感嘆の声に称賛の言葉。
ピィィィィ。と囃し立てるような下品な指笛の音。
それもこの雰囲気に合ってしまうのだから、やはり仮面舞踏会は怖いところです。
人だかりは円を描くように出来ており、その中心で一組の男女が踊っていた。
二人は会場の視線を一手に集めている。
一目見てすぐにわかった。
アルバートとアンジュだ。
アルバートの踊り方はよく知っているし、アンジュの舞踏の癖だって誰よりも知っている。
二人は黄色いライトの中で優雅にくるくると回る。
アンジュは真っ赤なドレスを翻し、妖しい蝶のようだった。
アルバートは白い燕尾を着て、アンジュの腰を支えている。
紳士然とした、しなやかな動きのアルバート。
それを翻弄するかのような愛らしいアンジュ。
私は唾を飲み下し、思わず後ずさりした。




