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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
1年生
7/160

ヒロイン アンジュ

「アンジュ様。私、ノックス公爵家のリシリアと申します。こちらはアルバート殿下で、さっき、たまたま、お会いしたんですの」


 たまたま、を強調しておきました。


「あ、あの。私、誰にも言いませんから」

「いえ、そうではなくてね?」


 しかしよく見るとやぼったい。


 長い黒髪、と言えば聞こえは良いが、つまるところ伸びっぱなしで手入れがされていないのだ。

 制服は微妙にオーバーサイズで誰かのお下がりでももらったのかもしれない。我が校の制服はオーダーメイドで各人に合わせて採寸し、ぴったりのものを作ってくれるというのに。

 そして瓶底眼鏡に極度の猫背。


 うーん、初期パラが低いのはわかりますが、これほどとは。

 これでは「王子と恋に落ちるのは彼女です!」と胸を張って言えません。

 抜本的改革が必要ですね。


「アンジュ様、ここで会ったのも何かの縁ですわ。同級生ですし、仲良くしてくださいね」

「そ、そんな。公爵家のお嬢様と私では世界が違いすぎます」


 何を言ってるのですか。

 あなたは公爵令嬢を追放し、王太子妃になるのですよ!


「そんなことないわ。ほら、顔を上げて背筋を伸ばして?」


 私はアンジュの背に手を伸ばす。


「も、申し訳ございません!」


 アンジュはギュッと身を縮めると、そのまま走り去った。


「あ! 待って!」


 アルバート王子に部屋まで送ってもらわないと!


「リシリア、あまり庶民をからかうな」

「えぇ?!」


 もしかして、悪役令嬢補正ですか?

 私、アンジュ様にいじわるしたことになってますか?


「風が出てきたな。雲行きも怪しい。そろそろ戻ろう」

「そうですわね」


 ヒロインが逃げてしまっては、ここに留まる理由はない。


「部屋まで送ろう」

「?! だめです!」


 私とイベント起こしてどうするのですか。


「なぜだ」

「一人で帰れますので」

「一人にしてまた他の男に声を掛けられてはたまらないからな」

「何のことです」

「さっきビラをもらっていただろう」

「ランカ先輩のことですか?」


 アルバート王子は黙って椅子から立ち上がった。


「私が先に見つけたのだ。横取りされてはかなわない」

「そのように言っていただくほどの価値は私にはございません」

「それはこれから私が決める。それまでは他の男に触れさせぬ」

「私は誰のものでもありません」

「さっさと婚約しておけばよかった」

「謹んでお断りいたしますわ」


 それこそ追放エンドまっしぐらではありませんか。


 アルバート王子は可笑しそうに笑った。


「やはりリシリアは面白いな」

「それは褒めていらっしゃるのですか? けなしていらっしゃるのですか?」

「褒め言葉だ」


 もう、調子が狂う。

 こんなふうに軽口を言い合っていたら、本当に気心の知れた相手のような気がしてくる。


 でもこの男に恋をしてはいけない。


「では殿下の興を削げるよう、善処いたしますね」

「ほぅ。皆気に入られようと必死なのにな」

「誰もがそうだと思い上がるのはおやめになった方がよろしいかと」

「そうだな、心得よう」


 アルバート王子はすっと腕を出した。


「何ですこれは」

「戻るぞと言ったろ」

「不要です。一人で帰れると申しましたでしょう」


 黒い雲が空をすっぽり覆ったかと思うと、ポツポツ雨が降り出した。


 アルバート王子はマントを外す。


 バサッ。


 私は頭からマントを被せられた。アルバート王子の温もりが私を覆う。


「ならばこれを被って帰れ。雨よけにも、虫よけにもなろう」


 虫よけって……。

 私に寄ってくる男性は虫ですか?


「このような高価なものお借りするわけにはーー」

「あとで返しに来い」


 そう言うとアルバート王子は植栽の向こうへ消えてしまった。







「リシリア様! そ、それ!」


 貴族棟のエントランスでは案の定だった。

 アルバート王子が新入生挨拶で身につけていた、王家の紋章入りのマント。

 そんなものを被って帰ってくれば、注目されないはずがない。


「婚約者候補とは聞いておりましたが、既に深い仲でいらっしゃるのですね」

「いえ、これは」


 あぁ、やってしまいました。

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