夜会(ギュリオ)
「ん? 面白いことをやっているな」
会場に戻ると、左奥のテーブルで腕相撲大会が始まっていた。
「行くか」
「いえ、私はここで」
私はぺこっと頭を下げた。
「そうか。あぁ、言い忘れていたが」
「?」
「俺はちゃんとお前に惚れているぞ」
「っ!」
「思い付きだけで求婚したわけではない。好きだ」
「ひ、人に聞かれますよ」
「女にはこういう言葉をきちんと伝えろと誰かが言っていたからな。ではまた」
ランカ先輩の大きな背中は腕相撲大会のテーブルに消えた。
周りを見渡すと、さっきより人が増えたようだ。
トランプをしたり、ただ語らったり、ダンスをしたり、皆それなりに居場所を見つけて楽しんでいる。
私はゆっくりと会場を歩く。
どこか落ち着けるところはないだろうか。
ノアのことも、ランカ先輩のことも、正直頭がいっぱいいっぱいだ。
誰かと何かをするよりも、静かに座っていたい。
特に照明が落とされた空間まで歩く。
この辺は他より幾分静かだった。
背の高い半円形のソファーの裏側を覗くと、隅の方に男性が1人、静かに座っていた。
ストライプのジャケットと、揃いのかぼちゃパンツが妙に似合う人だった。
「お隣、よろしいですか?」
私は声を掛けた。
男はぴくりと肩を動かすと、静かに首を縦に振った。
そしてテーブルからグラスを取ると黄金色の液体を一口飲んだ。
私がソファーに座ると、シスターのような衣装を着た女性がすっと飲み物を置いていく。
これもお酒だろうか。
聞く間もなく女性は背もたれの陰に消えた。
「ここは静かですね。向こうは少し賑やかで、落ち着かなくて」
私から声を掛けて座った手前、少し話を振ってみた。
「俺は、ちょっと飲みすぎて、うるさいところ頭痛くて」
カボチャパンツの男は頭を抱えた。
天然パーマの髪が指の間でくしゃっとなる。
「飲みすぎですか?」
「室内音楽専攻の先輩に挨拶に行って、そこで飲まされて」
天然パーマ、室内音楽専攻。
嫌な予感が頭をよぎる。
「今日失恋して、ただでさえ落ち込んでるのに、最悪」
酒焼けして少し声が違うので誰だかわかりませんでしたが、貴方ギュリオですね。
「あの、誰か人を呼びますね」
医療班でも呼んでお任せしましょう。
「いや、ここにいて」
「でも、身体が辛いでしょう?」
「むしろ心の方かな。話、聞いてくれない?」
気まずい。超気まずい。
ですがここで席をたつことは出来ません。
幸い私だと気づいていないようですし。
「わ、私でよければ」
「うん……」
ギュリオは俯いたまま寂し気に笑った。
「好きだったんだ。好きだったんだよ~」
ギュリオはそれから3杯おかわりして、同じことしか言わなくなった。
「きっともっと素敵な人が現れますよ」
そもそも私の何がそんなにいいのやら。
「いや、もう現れない。彼女は僕の価値観も、人生も変えたんだよ。そんな女性他にいないよ」
大袈裟な。
ギュリオに言わせると、私がいたおかげで自分の音楽を皆に認められた。
そして自分で自分がしてきた「音楽」に、初めて誇りを持つことが出来た。
みたいなことらしい。
何回も同じことを言うので少々辟易しています。
「たまたまタイミングが重なっただけで、遅かれ早かれ貴方の実力は認められたかと」
「そうかもしれないよ、でも結局このタイミングだった。それってもう運命だろ」
「言いたいことはわからなくもないですが」
芸術家だからだろうか。
そういう直感とかを大事にするのかもしれない。
「彼女は身分も高いし、何ならもっと高い、手の届かないところに行くから、絶対に叶わないってわかってたけどさ」
「……」
「だからって、あんなにカッコつけて別れることなかった」
ギュリオ、そんなことを思っていたのですか。
とても爽やかできれいに終わったと思っていたのですが。
「殿下の前で、キスのひとつやふたつでもしとくんだった」
「!? そ、それはどうかと」
「別にいいだろ、それくらい」
「だ、駄目でしょう」
ギュリオはふらつく足で立ち上がると据わった目で私を見下ろす。
「だめ?」
「えぇっ!?」
「ねぇ。音楽家の俺が。好きな女の声を聴き分けられないとでも思ってた?」
「なっ」
気付いてた!?
「好き、だったんだよ」
ぼすっ。
ギュリオは私の隣に倒れ込むと、そのままスース―と寝息を立ててしまった。
いつもお読みいただきありがとうございます★
たくさんのブクマ、嬉しいです!
夜会編続いております。
需要があるかわからないのですが、ここで「読者様大感謝企画」開催します!
→終了しました!(5/12)
また次回開催の際はよろしくお願いいたします★




