終演
あっという間に学園祭当日はやってきた。
学園祭は三部構成になっている。
午前の部は1年生による劇。
昼の部は2年生による飲食店。
夜の部は3年生主催の仮面舞踏会だ。
学園内にはあちこちに劇のポスターが貼られていた。
アンジュ曰く「私とリシリア様が背中合わせになっているポスターがお気に入りです」だそうだ。
私たちは衣装に身を包み、楽屋に集まっていた。
「リシリア、何か一言」
アルバートの声が皆の士気を奮い立たせる。
「私たちは今日まで本当に頑張りました。舞台に出る人だけじゃなく、裏方だって大道具や衣装、小道具という形でみんな舞台に乗っています。みんなの魂で作り上げた舞台、今日はやり切りましょう!」
「オォー!!!!」
小さな楽屋に地響きのような皆の声が響き渡る。
私は背筋を伸ばすと真っ先に楽屋の出口に向かった。
出てくるクラスメイトひとりひとりとハイタッチをする。
手の平から伝わる熱気で成功を確信する。
「いよいよだな」
アルバートはそう言って楽屋を出た。
「震えが止まりません! 楽しすぎて!」
アンジュは笑顔でそう言った。
「リシリアさん、最高の舞台にしよう」
「もちろんです、ギュリオ」
私は舞台袖に上がると本番特有の空気を吸い込んだ。
幕の向こうは満席。
数えきれない数の瞳が舞台を見つめている。
私は手で合図をした。
開演のブザーが響く。
♢♦♢
「あっという間でしたね」
「舞台って、そういうもの」
1時間の壮大なミュージカルは大喝采とともに幕を下ろした。
「疲れました」
「あぁ、ほんとに」
私とギュリオは誰もいなくなった劇場にいた。
興奮冷めやらぬクラスメイトの間をこっそり抜けてきたのだ。
「ギュリオと実行委員に選ばれた時、こんなことになるとは思ってもみなかった」
「それは俺も」
「でもやりましたね」
「うん」
「お疲れ様でした、大先生」
「お疲れ様、監督」
「ふふっ」
「あはっ」
私たちは肩を震わせて笑った。
「明日から稽古がなくなるって、信じられないです」
「そうだね。もうリシリアさんと話すこともないかも」
「寂しいことを言いますね」
「でも事実だ」
確かにギュリオの言う通りだろう。
今日までのように、気安く話すことは出来ない。
私たちは貴族で、男女だ。
「ギュリオ。私、貴方にきちんと返事をしていませんでした」
「返事?」
私はギュリオの正面に立ち頭を下げた。
「想いを、音楽を、ありがとうございました」
「それは僕の台詞。人を愛する気持ちも、叶えられない辛さも、たくさん教えてもらった。あんなに心が動いたこと、ない」
「私はこの学園祭を、一生忘れません。そこにギュリオがいたことも、決して忘れない」
「俺も。今日まで好きでいさせてくれて、ありがとう」
涙ぐむ私とは対照的に、ギュリオは笑顔だった。
「リシリアさんは恋を叶えてね」
「はい」
「俺が宮廷音楽家になったら、また会える?」
「が、頑張ります」
それはアルバートの妻になって、お妃様になるということ。
なれると、いいな。
「頑張ってよ。俺も頑張るから」
「そうですね。その時はたくさん昔話をしましょう。今日の曲を一緒に弾きましょう」
「楽しみだ」
「ここにいたか。主役はどこだと皆が探しているぞ」
王子様が舞台袖から現れた。
「アルバート。主役は貴方でしょう」
「何を言う。お前たちがいないと収拾がつかん」
アルバートは肩をすくめた。
「今行きます」
私がそう言うと、ギュリオが立ち会がってふわっと私を抱きしめた。
「最後だから」
「ギュリオ!?」
はっとして私はアルバートを見た。
アルバートは一瞬顔をしかめて舞台袖に引っ込んだ。
「ははっ、やっぱり殿下は余裕だね」
そう言ってギュリオは私を離した。
「あ、あの」
「ありがとう、リシリアさん」
「もうお礼は聞きましたよ」
「まだまだいっぱい言われるよ。行こう」
私たちは皆の待つ楽屋へと向かった。




