真っ赤だな
「仰りたいことはわかるのです」
「ほぅ?」
「ですが、あの。婚約は――」
「まぁいい、互いに世間体もあるしな。リシリアは婚約を断って間もないし、私も学園に色恋をしに来たのかと言われかねん」
アルバートは立ち上がると私の隣に腰を下ろした。
「ご配慮いただき感謝します」
「構わん。今更肩書きにこだわることもない」
「そうですか」
「時にリシリア」
「はい」
「私のことが好きか?」
ドクン。
心臓が震える。
「意地悪な質問をしますね。わかっているくせに」
「リシリアの口から聞きたい」
アルバートはさらりと私の髪に触れた。
「お慕いしております」
「好きだと言え」
あぁ、なんでこんな困らせることを言うのでしょう。
そういう愛の言葉は、たった数文字でも重みが違うのですよ。
発するのにどれだけ勇気がいるか。
「言わねばなりませんか?」
「あぁ、聞きたいな」
意地悪な笑顔。
私の鼓動はますます速くなる。
「ア、アルバート」
「あぁ」
「好き」
私は消え入りそうな声で言った。
恥ずかしさのあまり慌てて両手で顔を覆った。
「リシリア、顔を見せろ」
「む、無理です」
「見たい」
アルバートは私の手首をつかむ。
「い、いやっ」
「その可愛い顔も私のものだ」
アルバートは強引に私の顔を暴くと優しい目をして笑った。
その目に射抜かれて、火照った頭はもっとくらくらした。
「そんなに瞳を潤ませて、誘ってるのか?」
「ち、違っ」
「いいや、違わない」
アルバートはふっと笑うとその唇を私の口に押し付けた。
「!」
「柔らかいな」
「そ、そのような感想は結構ですっ」
「耳まで真っ赤だな」
「聞こえませんっ」
穴があったら入りたい。
一冬くらい冬眠して心を落ち着けたい気分です。
「昨日はリシリアからしてきたのに、今日は随分素っ気ないのだな」
「は、恥ずかしいのです」
昨日までは想いが通じ合うなんて思ってもみなかった。
アルバートとこんなことになるとは想像さえしていなかった。
それが今現実となって、どうすればいいのかわからないのだ。
「さぁ、次はリシリアの番だ」
「えぇっ!?」
「こういうのは慣れだろう」
「アルバートは慣れてらっしゃるのですか?」
「いいや、そうだな、私も慣れていない」
「……」
そうは思えませんが。
「慣れるまで2人で特訓だな?」
「慣れる前に心臓が止まりそうです」
「それは困るな」
ぽすっ。
アルバートは私の胸に耳をつけた。
「アルバート!?」
「本当だ、速い」
「ちょっと! 何を!」
「あぁ、また速くなったぞ」
「からかうのもいい加減に――」
「からかっているのではない。全部知りたいのだ。私といる時のリシリアの胸が、どれほど速く打つのか」
身体がガチガチで身動き一つ取れません。
しばらくしてアルバートは納得したのか、私から離れた。
「デートって、もっと違うのを想像していました」
一応抗議の声をにじませておく。
「例えば?」
「景色の良いところを歩いたり、楽しいことを語り合ったり」
もっと健全なやつですよ。
少なくとも密室で密着するのはレベルが高すぎます。
「では次はそうしよう」
「次……」
次を想像すると精神的に疲弊してしまいそうなのでやめましょう。
コンコンコン。
会話が途切れたタイミングでノックの音がする。
「シーラでございます。ご昼食をお持ちいたしました」
「あぁ、入れ」
シーラは大きなバスケットを持っていた。
「殿下、外でピクニックはいかがですか? 紅葉が見事ですよ」
あぁ! ピクニック! いいですね。
秋晴れの中でお弁当を広げるなんて、とても健全です!
「アルバート、そうしましょう!」
もう礼拝堂で二人っきりは耐えられません。
「リシリアがそう言うなら」
「ご用意いたします。その間、このあたりでしばらく散策などされては」
「是非! アルバート、紅葉狩りです!」
シーラ、ナイスアシストです。
将来王宮に嫁ぐことがあったなら、是非専属侍女になっていただきだいくらいです。
礼拝堂の扉をくぐる時、シーラはにっこりと私に笑いかけた。
あぁ、出来る侍女ですね。
きっと扉の外で私たちの会話を聞いていたのでしょう。
それでこの機転とは全く恐れ入ります。
外へ出ると、秋の高い空に真っ赤な紅葉が舞っていた。
「確かに見事だ。真っ赤だな」
「綺麗です」
私たちはサクサクと落ち葉を踏みながら、赤い世界を眺めた。
10万字突破!
いつも読んでくださっている皆さま、感謝です!
記念すべき10万字の回、タイトルが雑ですみません。
もっとこう、オシャレなの思いつきたかった。




