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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
1年生
57/160

王子と魔法

「アルバート、私に御用ではないのですね?」

「あぁ。少なくとも今日はな」


 今日は……?


「嫌な予感がするのですが、申し上げてもよろしいですか?」

「うん?」


 明日は日曜日。

 すなわち休みだ。


「明日、私とデートしようとお考えでは?」

「嫌な予感とは心外だな。しかし勘は良い」


 アルバートはにやりと笑った。


「アルバート!」


 私は思わず大きな声を出してしまう。

 はっとして息を飲むと、廊下の向こうから声が聞こえた。


「今殿下の名前を呼ぶ声がしませんでした?」

「まさか。殿下の部屋はもう一つ上でしょう。ここに何の御用が?」

「この角の先って、確か公爵家の方々の……」

「え、まさかリシリア様のところへお忍びに?」


 足音がその角の近くまで来ている。

 私は咄嗟にアルバートの腕を掴むと、部屋に引き入れ扉を閉めた。


「大胆だな」


 しまった。

 動転していたとは言え、アルバートを自室に入れてしまった。


「ご、誤解されたらどうするおつもりです」

「一向に構わんがな」


 全く何なんでしょう、この人は。


「貴方はそれでも一国の王子ですか。もっとご自覚を――」

「その王子に求婚されている自覚はおありか? 公爵令嬢のリシリア殿?」


 アルバートは私の腕を掴むとくるりと身体を翻した。

 私の背中は扉に押し付けられ、いわゆる壁ドン状態にされる。


「あれ? いないじゃない」

「やっぱり気のせいよ」


 扉の向こうから声が聞こえてくる。

 私の心拍数は一気に跳ね上がる。


「じゃあノックしてみたら?」

「えぇ!? そんなこと」

「ほら、アンサンブルのことで聞きたいことがあるって言ってたじゃない」


 まずい。

 いま来られたら言い逃れ出来ない。


「困ったな? リシリア」


 アルバートは可笑しそうに耳元で言った。

 息がかかったところが熱を帯びてゆく。


 コンコンコン。

 無情にもノックの音が響く。


「あの、リシリア様。お時間よろしいですか? アンサンブルの件なのですが」


 背中の向こうで声がする。

 扉一枚隔てたところに人がいる。


「リシリア様? いらっしゃいますか?」


「身を守る術を教えてやろう。私に無理矢理押し入られたと言えばいい」


 アルバートの囁く声がじんじんと響く。

 小さく動く唇が私の耳たぶにかすかに触れる。


 だめだ。頭がぼぅっとして理性が切れそうになる。


「ご、ごめんなさい。少し、熱っぽくて」


 私は絞り出すように言った。


「だ、大丈夫ですか? 校医をお呼びしますか?」

「いえ、ゆっくり休めば大丈夫よ。また週明けでもいいかしら」

「も、もちろんです。お疲れのところすみませんでした」

「いいえ。こちらこそ扉越しでごめんなさい」


 足音が扉から離れる。


「ほらぁ、殿下なんていなかったじゃない」

「ほんと。お声も熱っぽくてお苦しそうでしたわ」

「申し訳ないことをしましたね」


 声が遠ざかり、聞こえなくなった。


「少し熱っぽい? 少しどころではないようだが?」


 アルバートは額をくっつけた。

 柔らかな鼻が触れる。


「は、離れてください」

「離れがたい。それに嘘までついて、私がいることを許したのはリシリアだろう?」

「アルバートを部屋に入れたのは私です。殿下に不名誉を押し付けるわけには参りません」


 というか、男女が二人きりで同じ部屋にいることが大問題。

 さらに日暮れ時ともなれば、何を言われるかわかったものではない。


「リシリアは良い香りがするな」

「変なことを言わないでください」

「事実だろう。それに瞳も美しい。永遠に私だけを映してもらいたいのだが」


 この甘々なペースに巻き込まれてはいけない。

 前回はそれでキスまでしてしまったのだから。


「明朝まで待つおつもりだったのですか?」


 話の主導権をこちらに戻さなくては。


「早朝に逃げると言ったのはリシリアだろう」

「言いましたが、だからって部屋の前で一晩待つなど正気ですか」

「正気ではないかもしれんな。私も少々熱っぽい」


 アルバートは射貫くような目で私を見た。


「リシリアのせいだぞ」


 甘くとろけるような声に胸がキュンと痛む。


「正気に戻ってください」

「こんなに可愛いリシリアを前に正気に戻れと?」

「お願いします」


 心臓が持ちそうにありません。


「そうだな、魔法にかかった王子を元に戻す方法には心当たりがある」

「アルバート、何を――」

「姫からの口付けだ」


 アルバートはくいっと私の顎を持ち上げた。

 否応にも目が合う。


「急に何を言い出すのですか」

「どうする? キス一つで追い返せるぞ?」

「そんなこと出来るわけ」

「この前は黙って受け入れていたではないか」

「っ!」


 目線が絡み合う。

 吐息がかかる。

 唇までほんの数センチだ。




 でもこの人の「お姫様」はヒロインのアンジュのはず。




「両想いですよね?」

「もっと自分のお気持ちを大切にしていいと思いますよ」

「リシリア様はリシリア様の恋を成就してください」

「素直じゃないですね」


 さっきアンジュに言われた言葉が走馬灯のように浮かび上がる。





「本当、でしょうね」

「何?」

「魔法、解けるんでしょうね?」


 私はアルバートの首に腕を回した。

 そして少し踵をあげて、その唇にそっとキスをした。



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