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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
1年生
56/160

アンジュとの女子トーク

「完璧ですアンジュ、よく覚えましたね」

「うあぁぁぁ! やりましたぁ!!」


 土曜の午後。

 本来はオフだが、アンジュの台詞の暗記テストに付き合っていた。


 アンジュは天を仰いで感無量といった表情をしていた。

 しかも何だかぷるぷる震えている。


「ふふ、お茶にしましょうか。座っていて」

「リシリア様にお茶を入れてもらうなんて」

「頑張ったご褒美です」

「あぁぁぁ~頑張ってよかったぁ~!」


 アンジュは遠慮なくソファーに倒れ込んだ。

 スカートの裾が乱れていますが私の部屋ですし今日は大目に見ましょう。


 私はミルクを沸かして茶葉を入れる。


「わっ、いい香り」

「ロイヤルミルクティーよ」


 ミルクの中で茶葉が踊る。

 ほんのりと甘い乳の香りが漂う。


「さぁどうぞ」

「いただきます」


 アンジュは姿勢を正すときれいな所作でカップに口をつけた。

 さっきまでとは別人みたいで思わず笑ってしまう。


「う~ん! 沁みます!」

「クスクス、それはよかった」


「それにしても、リシリア様は私より先に全部台詞覚えちゃったんですね。テストも台本を見ないでやってたし」

「暗記が得意なだけよ」


 夏期講習の内容に比べれば、公演時間1時間分の台詞を覚えるくらい造作もない。


「本当はリシリア様がやりたかったんじゃないですか?」

「何を?」

「シシィ役。というか、アルバート王子殿下の相手役です」


 それはそうだが今更言っても仕方ない。

 アルバートへの想いも、役への未練も、そっと胸にしまっておけばいい。


「そんなことないわ」

「嘘でしょ」


 ドキリとする。

 アンジュの素直さは、こちらの隠した気持ちさえ引きずり出しかねない。


「ど、どうしてそう思うの?」


 私は動揺を隠そうと紅茶を口に含む。


「だってリシリア様、アルバート王子殿下のこと、好きで――」

「ゲホゲホっ! ちょ、ちょっと待って!」

「?」

「い、言わないで……」

「お顔、真っ赤ですよ」


 私はカップを置くと手で顔を覆った。

 本当だ、すごく熱い。


「私、そう見える? アルバートのことが好きなように見える?」

「はい。というか、皆そう思ってますけど」

「皆……」

「っていうか、両想いですよね?」


 アンジュ。

 思ったことを何でも口にすれば良いというものではないのですよ。


「でも私はアルバートに相応しくないから」

「リシリア様が相応しくなかったら、殿下は誰とも結婚出来ませんよ」

「アンジュ、今日は何だか強気ね」

「テストに合格したので今なら何でも出来そうな気分なんです」


 アンジュはガッツポーズした。

 万能感って厄介ですね。


「私、貴族のことはよく知りませんけど。公爵令嬢が王子様に釣り合うってことくらいわかりますよ」

「身分の問題じゃないの。気持ちの問題っていうか」

「え、両想いですよね?」


 二回目のボディーブロー。

 なかなか効きますよ。


「アルバートを慕う女性ならたくさんいるわ。アンジュはアルバートをどう思う?」

「最初は物語の中から出てきた王子様! って感じでしたけど」


 うんうん。

 アルバートはかっこいいですもんね。


 花を持たせても、馬に乗せても、何ならマントを翻して歩いてるだけでも絵になりますものね。 


「今はどんな印象が?」

「最近はちょっと違いますね。思ったより話しやすいっていうか、偉ぶらないっていうか。そういえばこの前も、私はいなかったんですけど」

「?」

「クラスの皆の前で、この劇を成功させたいって。頭を下げたそうですよ」

「アルバートが!?」

「はい。リシリア様を支えてほしいと」

「私!?」

「聞いた話なので細かくは知りませんが、とにかくリシリア様への愛がすごかったそうです」


 絶句。

 とはまさにこのこと。


 何私のいないところで公開告白みたいなことをしているのですか。


 せっかく婚約を回避出来たのに、公のカップルみたいに見られては意味がないではありませんか。


「あぁ……」

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないかも」


 思わず頭を抱える。


「嫌なんですか?」

「気持ちの行き場がなくて困惑しているだけ」

「リシリア様でも困惑するんですね」

「私を何だと思ってるの」

「そうですね。リシリア様だって普通の女の子ですもんね」


 普通の女の子。

 なのでしょうか?


「リシリア様はもっと自分のお気持ちを大切にしていいと思いますよ」

「知ったような口を利くわね」

「私とリシリア様の仲ではありませんか。知らないと言ったらそれこそ説得力に欠けますよ」

「まぁ、そっか」


 私は背もたれに身を預け、ぐっと伸びをした。


「リシリア様ってお部屋ではそんな感じなんですね」

「部屋では背もたれに背中くらいつけるわよ」

「ふふ、そんな姿見せてもらえて嬉しいです」


「アンジュは……その、アルバートのこと、好きとかそういう感情は? 相手役だし、そういう気持ちが芽生えても……」

「いいえ、ちっとも。あ、ていうかそれなんですけど」


 アンジュは私をじとっとした目で見た。


「な、なに?」

「前から思ってましたけど、リシリア様って私と殿下をくっつけようとしてません?」

「!」

「ですよね? なーんかおかしいなって。そういうのいりませんから」

「でもアンジュは可愛いし、お似合いだなって」

「だとしてもです。万が一、まぁないですけど。好きになったら私は自分で頑張ります。リシリア様の助けは借りません」

「そ、そう」

「だから余計なことは考えずに、リシリア様はリシリア様の恋を成就してください」


 余計なことと言われてしまいました。

 私の半年余りの努力は何だったのでしょう。


「考えておきます」

「またそう言う。素直じゃないですね」


 素直じゃない、か。


「アルバートにも言われたわ」

「そうやって! 殿下の話をする時は穏やかな顔で笑うじゃないですか! それが素直というものですよ!」

「アンジュ、何か怒ってない?」


 若干口調が喧嘩腰なのですが。


「怒ってますよ。私が原因でお二人が上手くいってないなら、憤りしかありません!」


 アンジュはプリプリと言った。


「ごめんごめん。アンジュのせいじゃないから」

「うーん」


 疑いの目はやめましょうね。


「ほら、日も短くなってきたし。そろそろ戻ったら?」

「あ、はい。遅くまですみません。ごちそうさまでした」

「明日はしっかり休むのよ」

「もう、私のことはいいんですってば。自分のことをもっと考えてください」

「……」


 アンジュに諫められる日がくるとは思ってもみませんでした。





 ガチャ。

 アンジュを見送ろうと扉を開けると予想もしない顔があった。


「ア、アルバート?」

「あ、殿下ごきげんよう。リシリア様、ありがとうございました!」


 アンジュはウインクを一つ投げるとさっさと行ってしまった。


「えっと、何か御用でしたか?」

「気にするな」


 ですが私の私室の扉の正面で、腕組みをして立っているではないですか。

 気にしないわけにはいかないでしょう。


「? どちらかに行かれるのですか?」

「いや、ここにいる」

「何のために?」

「さぁな」

「いつまで?」

「明日の朝まで」


 は?

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