「好き」の解釈
「好きだ」
「ア、アルバート」
「という台詞があってだな」
せ、台詞。
台詞ね。台詞ですか。台詞なんだな?!
「ありますね! 悲恋ですがラブストーリーですからね!」
「どうした、呼吸が荒いぞ」
「い、いいえ。何も」
いや、その顔で好きとか言うの反則ですから。
「この後想い人は親の言いつけで遠く離れた地へ行く。それをわかっていながら思いを告げる心境とはどういうものかと思ってな」
「叶わないとわかっていて告げる気持ちですか」
「もしくは叶っても、その先に必ず別れが待っている」
「それは……どんな気持ちでしょうね」
心臓が鷲掴みされたみたいに詰まった。
泳ぐ目を誤魔化したくて顔を背ける。
「リシリアは監督だったな」
「自称した覚えはありませんが、そう呼ばれているようですね」
「私はどう演じればいい」
胸が潰れそうだ。
駄目だ。黙るな。
平静を装え。
笑って、返事をするんだ。
「殿下、私はその答えを持ち合わせておりません」
「どういうことだ」
「想像がつかないのです。私なら、絶対に想いを告げませんから」
震えそうになる唇を、出来るだけ笑顔に見えるよう口角を上げて話した。
「こういう話をすると――」
アルバートは私の髪に触れる。
私は石のように固まってしまう。
「そうやって悲しそうに笑うな」
その愛おしむようなアルバートの目に、言いようもない程の激情が沸き上がる。
私は何かを堪えるように、ぎゅっと唇を噛んだ。
アルバートはそれを見て、優しい声で続けた。
「そんな顔をさせているのは私か?」
違う。そうじゃない。
悪いのは私だ。
アルバートの気持ちに応えるのが怖いのだ。
本当は好きなのに、想いが通じ合うことに怯えている。
私の弱さのせいだ。
私は黙って首を左右に振った。
するとアルバートはふわりと私を抱きしめた。
「すまない。そんな顔をさせるつもりはなかった」
「アルバートのせいではありません」
「いや、私のせいだ。そのくらい自惚れさせてくれ」
「……」
何と答えればいいかわからなかった。
「リシリア、今度の休みにデートをしようか」
「しません。唐突ですね」
「二人でゆっくり出掛けたことがないと思ってな」
「この前は寝てしまってすみませんでした」
「そうだな、今度は朝から出掛けよう」
「勝手に話を進めないでください」
「腕の中に大人しく収まっておいて拒否する気か?」
「っ!!」
アルバートは回した腕にぎゅっと力を込めた。
ずるい。
これでは振りほどけない。
「そう嫌うな」
「嫌いだとは言っておりません」
「そうか。ならば今はそれで良しとしよう」
アルバートは微笑むと、私の額にキスをした。
「こ、こういうことを。気軽になさるのはどうかと思います」
「気軽にしたことなど一度もない」
「ですが」
「愛情を込めてしているつもりだが、伝わらないか?」
理性を保たなければとろとろに溶けてしまいそう。
優しいキスも、甘い顔も、穏やかな声も。
アルバートの全てが私の頑なな心の鍵をこじ開けようとする。
アルバートは甘い毒だ。
「知りません」
「ならば伝わるまで何度でもしよう」
「おやめください。私がお嫁に行けなくなります」
というか、この前唇にキスされたのでほぼアウトですけど。
「私がもらうと言っている」
「しつこいですね」
「強情なのはそっちだろう」
「デートはしませんからね」
「次の休み、部屋まで迎えに行く」
「わかりました」
「そうか」
「早朝に逃げ出すか、籠城かを選べということですね」
「ははっ、そう来るか」
「笑い事ではありません」
身体が熱い。
アルバートの想いが大きな熱量になって私の身体を燃やす。
私の想いはぐつぐつ煮えて、そのうち溢れてしまいそうだ。
でも。
これ以上の想いを、アルバートはきっとアンジュに向けるようになるんだろう。
私の恋なんて、この世界では茶番なのだ。




