士気
「あの、リシリア様。少しよろしいでしょうか」
「ええっと。ラッタさんとナナさんでしたね。どうされました?」
「お、覚えてくださってたのですか!? 光栄です」
役割分担が決まった日に全員の顔と名前を必死で覚えましたよ。
普段交流のない庶民の子息、令嬢を覚えるのには苦労しましたが。
「あの、実は私とナナは、小さい頃から同じピアノの先生に師事していて」
「まぁ、ピアノを?」
「はい。リシリア様やギュリオ様には遠く及びませんが、演奏でお役に立てればと」
ラッタとナナは消え入りそうな声で言った。
「嬉しいわ! ラッタは衣装班で、ナナはメイク担当でしたよね」
「は、はい! 係まで覚えてくださってたなんて。本当に殿下の言う通りの方なのですね」
ん? 殿下?
「当日は着付けやメイク直しもありますね。それに支障が出ない形で導線を組みましょう。ギュリオ、どうですか?」
「ちょうどピアノの譜面、書いてた。これどう? 弾ける?」
ギュリオは書いたばかりの譜面をラッタとナナに見せる。
ラッタとナナは、目を楽譜に走らせ、指をとんとんと動かした。
「はい、1週間もあれば必ず仕上げます」
「二人は連弾とかは?」
「やったことあります」
「わかった。じゃあここに音を足す。明日完成したものを渡すから、練習は明日から」
「はい」
ギュリオはそう言うと、羽ペンを手に音符を書き足して行く。
二人は手を合わせてきゃあきゃあ喜んだ。
「3日で仕上げられますか? 歌の練習にもついて欲しいのですが」
「は、はい! リシリア様のために頑張ります!」
「セレナ様、この小道具なのですが、監督にチェックをお願いした方がいいでしょうか」
「そうね。衣装との兼ね合いもあるし。あ、来たわよ」
私が小道具班を覗きに行くと、その視線が一気に集まった。
「ごきげんよう。進捗はいかがですか」
「リシリア様、小道具の花束なのですが、色味はどうしましょう」
花屋の娘のフローラが図案を持って駆け寄ってくる。
「ええっと、これは夕日のシーンで使うものですよね」
「あ! そうです! 私ったら、説明もなくすみません」
「いいえ、大丈夫よ。夕日のシーンだから、赤やオレンジは避けた方がいいわね。ここの衣装は白だからそれも避けて」
「リシリア様、全てのシーンの照明や衣装を把握してらっしゃるのですか?」
「? そうですけど」
「す、すごい……。殿下の仰っていたのはこういう……」
んん?
さっきから「殿下」というワードが登場しますが何なのでしょうね。
「紫なんかどうかしら。場面的に重い雰囲気だし、合うのでは」
「紫ですね、それをメインにアレンジメントの試作品を作ってみます! 完成したら見ていただけますか?」
「えぇ、もちろん。楽しみにしています」
「はいっ! リシリア様にご満足いただけるものを作りますね!」
「あ、ありがとう」
どの班に行っても熱量がすごい。
みんなそんなに学園祭を楽しみにしていたんだなぁ。
「リシリア、お疲れさま」
「セレナ、順調そうね」
「それはもう。貴女、殿下にお礼をした方がよくってよ?」
「アルバートに? どうして?」
「それは自分で聞くことね、監督?」
監督?
「そう言えばフローラがそんなことを言ってたわね。監督って誰なの?」
「あら、自覚がないの。貴女みんなに監督って呼ばれてるわよ」
!?
「どういうこと!?」
「ちなみにギュリオは曲を書くから『大先生』らしいわよ」
ちょっと!
影で変な呼び名つけないでくださいよ!
「訂正、出来ない?」
恐る恐る聞いてみる。
「もう遅いわよ。それで士気も高まってるんだし」
「そう……」
ですよね。
何かどっと疲れた気が。
「あと10分もないけど今日はもう終わり? 部屋にお茶でも用意させるわよ」
「いえ、役者班を見に行くわ。アンジュから聞いたんだけど、毎日居残り練習してるみたいで」
「そう。あまり無理しないでね」
「驚いた。セレナから労いの言葉をもらうなんて」
「ふふ、私も感化されたかしら」
「誰に?」
「面白いから内緒よ」
セレナはふわふわの髪を揺らすとフローラの元に戻った。




