心合わせて
「皆さん、今日は演出方針が決まったのでお伝えします」
ミュージカルにすると決めてから3日。
私は皆を劇場に集め、静かに言った。
劇場特有のしんとした重厚感のある雰囲気に、クラスメイトはじっと耳を傾ける。
「私たちの劇は、芝居の中に歌や踊りを織り交ぜた、ミュージカルにします」
「ミュージカル?」
「何でしょう。ご存知?」
聞き慣れない単語に不安げな顔を浮かべる生徒たち。
「ギュリオ、アンジュ、こちらへ」
二人を舞台に呼ぶ。
「リシリアさん、どうぞ」
ギュリオは2つ持っていたヴァイオリンの1つを私に手渡す。
私とギュリオはヴァイオリンを構えると、目で合図しスッと息を吸う。
そして弓を思い切り引いた。
「おぉ!」
「リシリア様とギュリオ様の二重奏だ」
私が低音を鳴らせばギュリオは巧みに高音を操る。
二人の息がぴったり合う。
あと2小節、さぁ、アンジュの出番です!
「想い染めし我が愛の~身を焼く焔舞いにけり~」
ギュリオが作曲した歌を、アンジュは高らかに歌い上げる。
3日間全ての予定をキャンセルして歌の練習に当てただけのことはありました。
あの飛んでしまった五行分の台詞をいともたやすく歌うアンジュ。
その姿は朗々としていて、観客の目と耳を奪うのに申し分なかった。
音楽がやむと、一瞬の静けさのあとものすごい拍手が起こった。
「このように劇を歌で表現します。舞踏なども入れて、私たちオリジナルの劇にしたいの」
「曲は俺が書きます。皆、協力してくれると嬉しい」
ギュリオが顔を上げて喋っている。
芸術へのこだわりは誰よりも強い。
「でも、俺たちに出来るだろうか」
「あんなに大きな声、出したことありませんわ」
貴族を中心に不安げな声が上がる。
まぁ彼らにとって、劇は「観るもの」ですからね。
「わぁ、やってみたいです。何か面白そう!」
「私衣装班だけど、ダンスなら出たいかも……」
庶民たちはお祭り気分が楽しいのか、意外と乗り気だ。
「裏方の皆にも是非出てもらいたいの。アンサンブルと言って大勢で歌を歌ったり、主役の後ろで踊ったり。皆で舞台を作り上げたいと思っています」
「素敵ですわね」
「一人で歌うのは無理だけど、皆で歌うならやってみようかな」
貴族たちの間にも好意的な意見が挙がる。
「リシリア様にプロデュースしてもらえるチャンスじゃない?」
「た、確かに!」
庶民棟の女子たちはますます色めき立っている。
「ねぇ、貴女。どういうこと? 説明なさいな」
「ご存知ありませんか? アンジュがあれだけ素敵なレディーになったのは、リシリア様のプロデュースのおかげなのですよ」
「そ、そうなの!?」
「リシリア様! 私、舞台に上がりたいです!」
「私も!」
「僕も!」
涙が出そうです。
クラスメイトがこんなに団結してこちらを向いているなんて。
ギュリオは感極まって深く礼をしていた。
私もそれに倣い頭を下げる。
「ありがとう」
再び拍手が巻き起こる。
私はすっと顔を上げた。
「忙しくなりますわよ! 自分の仕事の他に、ぐっとやることが増えますからね。進行表は大幅に前倒し、かつ歌とダンスの練習も並行して行います」
「ふふ、リシリア様のスパルタは有名ですからね」
アンジュは楽しそうに笑った。
「では私も皆に恥じぬよう稽古を積もう」
アルバートが客席から立ち上がった。
「わぁ! 殿下!」
「殿下! 頑張りましょう!」
楽しい。
すごく楽しい。
「皆の心が一つになりましたね」
「フランシス先生」
絶妙なタイミングで現れますね、この人。
「楽しみにしていますよ」
「はい!!」
私たちは声をそろえて力いっぱい返事をした。




