ランカ先輩
アルバート王子の新入生代表挨拶は、それはそれは威厳があって格好良かった。
重厚な演台や脇に飾られた身長以上もある華やかな生花に劣ること無く、さながら国王陛下のスピーチのようだった。
まぁ将来は本物の国王陛下になる人ですが。
式典が終わり、私は人の波に乗って大ホールを出る。
腹筋に力を入れ、お尻をキュッとすぼめつつ、こっそりインナーマッスルを鍛えながら歩く。
こうした見えない努力がいつか実を結ぶ、はず。
インナーマッスルを鍛えると、女性的でしなやかな身体が手に入る。みたいなことを前世で聞いたことがあるし。
追放後はモデルとまではいかなくても、貴族相手にインストラクターくらいしてもいいかもしれませんね。
「おい、お前」
私は不意に呼び止められた。
「私でしょうか」
「あぁ、お前だ。よい姿勢をしているな」
「あ、ありがとうございます」
「踵の高い靴を履いて、その姿勢を維持しつつ歩けるというのは……それなりにトレーニングを積んでいるな?」
え? 何この人。
こんな脳筋いたっけ。
「何のことでしょうか。遅れてしまいますので失礼いたしますわ」
私は人の波に戻ろうとする。
「これを持って行け」
私が手に握らされたのは陸上部のビラだった。
あぁ、いましたね。
背が高すぎて顔をよく見られませんでしたが、陸上部のゴリゴリ体育会系脳筋。
名前は確かーー
「ランカだ。いつでも訪ねてこい」
ひとつ年上のランカ先輩。
確か一年の夏までに体力パラを上げておかないと、登場すらしないキャラだったはず。
なのになぜ入学初日に来た?!
しかもなぜ私にピンポイントに声を掛けた?!
後ろをこっそり振り返ると、ひときわ背の高い先輩が腕組みをしながら新入生の列に目を光らせていた。
真っ黒な髪は短く切りそろえられていて、硬派そのものって感じがする。
うーん、これってもしかして、パラ萌えされているのでしょうか。
デートで好感度を上げなくても、パラメーターが上がると勝手に好意を寄せられるやつ。
いや、まさかね。
私は悪役令嬢。ヒロインは別にいる。
いる、よね?
そういえばヒロインとまだ会っていません!
「リシリア、手の中のものは何だ」
「で、殿下!」
低い声が身体に響いてびくっとなる。
アルバート王子、背後から急に現れないでください。
「陸上部のビラか。入るのか?」
「先程渡されただけですわ」
「そうか」
あ、そうだ。アルバート王子に確認すればいいんだ。
「殿下、誰か女性とお知り合いになりましたか? 例えば、平民出身の女性とか」
ヒロインは平民出身だけど、愛の力の前には身分なんて関係ないよね★
みたいなのがこのゲームのシナリオだ。
「さぁな。たくさん声は掛けられたが、それが誰かまでは」
「さようでございますか」
残念。これは早急に探さねばなりません。
そしてとっととアルバート王子とくっついてもらいましょう。
あれ、でもこの世界のヒロインの名前って何?
名前もわからないのに探すとか無理ゲーだわ。