アルバートの交換条件
私たちがボートを降りると本日のデートイベントは終了した。
「そろそろ帰ろうか」
ノアの言葉をきっかけに、お開きの雰囲気が流れる。
「リシリア様、私とっても楽しかったです!」
「そう、よかった」
「はい! また遊びましょうね!」
「ふふっ。そうね」
そんなに良い笑顔で言われると、笑顔で返すしかありません。
なんてったって、今日のアンジュはデート仕様でとびきり可愛いのですから。
「アンジュさん、送るよ」
「ノア君、いいんですか?」
「うん。実は火曜日の学習範囲の予習プリントを作ってきててさ」
「わぁ! ありがとうございます!」
「やり方を説明しながら帰ろうかなって」
「はい! ではアルバート王子殿下、リシリア様、ごきげんよう!」
そうしてアンジュとノアは肩を寄せ合いながら森の小径へと消えた。
「リシリア」
「はい」
よりにもよってアルバートと二人残されるなんて。
「リシリアの頼み通り、アンジュ殿と会ったが」
「ありがとうございます」
「どうみても私に興味がなさそうだったぞ?」
そのようですね。
返事のしようもありません。
「これを最後にいらぬ気を回すのはよせ」
「……」
と言われても。
「これでも少し傷ついている」
私はその言葉にはっと顔を上げた。
「そ、そんなつもりは」
「好きな女に他の女をあてがわれたのだ。それなりにな」
アルバートは少し寂しそうな顔で笑った。
「すみませんでした」
「まぁいい。少し座ろう」
私たちは少し行った木立の間に腰を下ろした。
瑞々しい緑の匂いと、湿った土の匂いがする。
「アルバートとアンジュはお似合いのカップルになると思ったのです。アンジュは勉強も運動も芸術も、たくさん頑張って、今日だってすごく可愛らしくて――」
「確かにアンジュ殿は変わられたな」
「そうでしょ?」
「だがアンジュ殿の目線は私よりも遥か遠くを見ていたぞ」
「遠く?」
どういうことだろう。
「きっとあの娘は誰かの元に納まるなど意に介さないだろう」
「そうでしょうか」
「おそらくな。まぁまだ発展途上で目標もまだ見えていないのだろうが」
ボートの上で聞いたアンジュの言葉を反芻する。
「待ってるだけじゃつまらない」
「自分を変える力がある」
「その方がずっと面白い」
アンジュはどこに向かうつもりなのだろう。
アルバートとの結婚はもうあり得ないのだろうか。
でもまだ1年生の5月。
これからもっとパラメーターが上がっていけば、パラ萌えされる可能性だって捨てきれない。
「それから、ボートの上でカンサム公に謝罪された」
ドクンと心臓が強く打った。
私たちが恋仲を装っていたことを、嘘だと打ち明けたのだ。
「すみません」
「リシリアが謝ることではない。それにわかっていたことだ」
「ノアにあんなことを言わせてしまったのは私です」
「全くリシリアはモテるな」
そう言うとアルバートは私の膝にごろんと寝転んだ。
「アルバート!?」
「嘘だとわかっていても、気が気ではなかったぞ?」
私を見上げたその顔は、どこかいたずらっ子のようだった。
「お、おやめください。人に見られたらどうするのですか」
「構わん」
「私が構います!」
「そんなに私が嫌いか?」
「そ、それは!」
「嫌いと言っても信じぬぞ。こんなに頬を染めておいて」
アルバートは私の頬に手を伸ばした。
「なっ!」
「私を信じろ。ずっとリシリアを愛すると誓う」
信じられるわけない。
だって私は未来を知っているから。
「困ります」
「そうか」
アルバートはすっと手を下ろした。
「素直さを養う授業はないものか」
「あ、ありません!」
「では私が教えよう」
「結構です」
「はは、そう邪険にするな」
木漏れ日の中で良い感じに戯れている場合ではありません。
「そろそろどいていただけますか」
「断る」
「アルバート!」
「嫌ならそのまま立ち上がればよかろう」
「一国の大切な王子殿下の頭をのせているのですよ。出来るわけないでしょう」
「大切と思ってくれているのだな」
「一般論です」
「では交換条件だ」
「何です」
膝枕から下りるのに、交換条件も何もない気もしますが。
「社交のレッスンで私のパートナーになってもらおう」
「なっ」
それはアンジュに任せるつもりだったのに。
アンジュにその気は全くなさそうでしたが。
「どうだ?」
「断ればどうなりますか」
「このまま朝を迎えることになるかもな」
アルバートはわざとらしく目を閉じる。
「わかりました」
私は降参するしかなかった。
「言ったな?」
「公爵家の名に懸けて、二言はございません」
「嬉しいぞ、リシリア」
アルバートは歯を見せて笑った。
あぁこの笑顔。見覚えがある。
アルバートの膝枕スチルだ。
普段かっこいいアルバートが不意に見せた、少年みたいな可愛い笑顔。
これにキュンとしない女がいるだろうか。
私の心臓はずっとドキドキしっぱなしだ。
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更新待ってる間、暇だな~という方いらっしゃいましたら、
前作『婚約者はワケアリ第3王子~寵愛よりもお金で世渡りいたします!』(完結済)
も併せて読んでいただけると光栄です。(Nコード N6990GT)
珍しく後書きでした。




