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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
1年生
38/160

森の泉の秘密のスチル

「アンジュ、ごめんなさい」

「リシリア様!」


 アンジュの顔がぱっと明るくなる。


「髪、上手に出来ましたね。可愛いわ」

「がんばりました!」


 うーん、健気!

 デートのためにオシャレしようとするなんて、恋する乙女の鑑ですよ。


 アルバートをちらりと見ると、無言のノアと笑顔で交戦していた。


「アルバートとは話せた?」


 私はこそっと耳元で聞いた。


「え? えーっと、まぁ、当たり障りのない会話を」

「どんな?」

「涼しくて気持がいいなと仰られましたので」

「うんうん」


 おぉ、これはデートで発生する会話ですね。

 返事の選択肢によって好感度が変化するやつ!


「泳ぎたいですね、と」


 あー!

 それアルバートが嫌いな選択肢!

 好感度下がるやつ!


「水がとても澄んでいますね」→好感度up

「木陰に座りませんか?」→変化なし

「泳ぎたいですね」→好感度down


 やってしまいましたね、アンジュ。

 いえ、アンジュには罪はないのですが。


「令嬢はあまり泳がないかと」

「海辺で育ったので、水を見ると泳ぎたくなるんですよ~」


 アンジュの子どもっぽい笑顔がとても眩しくて、それ以上何も言えなかった。


「リシリア、アンジュ殿。男だけであまり放っておくな」


 アルバートがこちらにやってくる。


「すみません。せっかくですし散策でもしましょうか」

「いや、あっちにボードがある。乗るか?」


 アルバート!!

 ナイスボート!!


 これはスチルフラグではありませんか。

 初夏に「森の泉」でデートすると手に入れられるやつ。


「乗りましょう! ね、アンジュ!」

「は、はい」


 そして手漕ぎボートは二人乗り。

 必然的にカップル成立です。





 私たちは船着き場にやってきた。

 管理者だろう老紳士がにこりと笑う。


「誰と乗りますか?」


 おぉ、きたきた。

 乙女ゲーっぽくてテンション上がりますよ!


 私がアンジュを見ると、何やら恥ずかしそうな顔をしていた。

 ゲームの効力が働いているのか、アルバートもノアも何も言わない。


「あ、あの、私っ」


 さぁアンジュ。アルバートの名前を言うのです。

 選択肢の決定権は、ヒロインである貴女にありますよ!


「えっと、一緒に乗りたいのは――」


 ああっ、ドキドキする!

 ヒロインに選ばれる攻略キャラってこんな気持ちなんですね!


「リシリア様です!」

「え?」


 え?


「私、リシリア様と乗りたいですっ」


 なぜそうなる。

 










「私海育ちなので漕げるんですよ~」


 ボートは水面を割って進む。

 とても快適ですが、どうしてこうなった。


「ノア君漕げなかったみたいですし、アルバート王子殿下と乗れてよかったですよね!」


 アルバートが漕ぐボートに背を丸めて乗るノア。

 いたたまれません。


「よかった、のかしら」


 ノアにボートスチルが存在しないことを失念していました。

 まさか漕げなかったとは。

 学力にパラ全振りしてる場合ではありませんよ。


「楽しいですね、リシリア様!」

「アンジュはアルバートと乗らなくて良かったの?」

「王子殿下と? 私、全然知らないですし」

「でも王子様との恋に憧れてるでしょう?」

「あはは! 少し前はそうでしたけど」

「今は違うの?」


 アンジュはくすぐったそうな顔で話し始めた。


「この学園に入るまでは憧れていましたよ。いつか素敵な王子様が迎えに来てくれたらなって」


 ですよね!?

 アンジュはそういうヒロインど真ん中の女の子ですよね!?


「でもリシリア様と出会って、色んな世界を知って、待ってるだけじゃつまらいなって。自分で自分を変える力があるって気付いたし、その方がずっと面白いなって」


 !?

 私のせい!?


「私の理想の人は、王子様じゃなくリシリア様です」

「で、でも、好きな人がいるって言ってたわよね? 好きな人とは絶対にパートナーになれないって。あれはアルバートのことじゃ――」


 アンジュは苦笑いをして首を振った。

 そして真っすぐな目で私を見た。


「私は同性だから、リシリア様のパートナーになれないのが惜しいです」


 その瞬間のアンジュはそのままスチルになりそうな程美しかった。

 水面の輝き、アンジュの凛とした表情、誠実な眼差し。


 きっとこの顔を、私は一生忘れない。




「耳飾り、つけて来てくださったんですね。嬉しい」


 そう言うと、アンジュはにこりと笑った。

 さっきまでのアンジュに戻ったみたい。


「あ、うん。とても気に入ってるわ」


 贈られたプレゼントを身に着けてデートに行くと、専用会話が発生するのは知ってる。

 けどこれは一体。


 頭の中がぐるぐるする。


「あ、王子殿下とノア君、もう陸に上がってますよ。私たちも戻りましょうか」

「え、えぇ」

「ふふ、よっぽど話が合わなかったのでしょうか」


 ちょっと今、人の会話にまで考えが及びません。


「リシリア様。私、リシリア様のこと大好きです。尊敬しています。これからもよろしくお願いします」


 その「大好き」は友達としてで良いのでしょうか。


 陸に近付くと、微妙な顔のアルバートとノアがぎこちなく手を振った。



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