デートの誘い2
一度部屋で気持ちを落ち着かせてからノアの部屋に行こう。
そう思ったけれど、その必要はなくなった。
ノアが私の部屋の扉の前に立っていたのだ。
右手を胸元で握り、ノックをしたそうな、躊躇っていそうな様子だった。
「ノア」
「リ、リシリア! あの、今朝は――」
「ここじゃあ何だし、少し出ましょうか」
私が笑いかけると、ノアは少しほっとしたような顔をした。
「屋上に出られるんだね」
「暑いから見事に人がいませんね」
屋根なし、日陰なし、挙句太陽の照り返し。
まぁ人がいない方がいいからちょうどいいけど。
「リシリア、今朝はごめん。余裕がなかった」
「ノアが謝ることないわ」
「僕には嫉妬する資格も権利もないのにね」
うーん、返事に困る。
否定しない。
けれど同意すればノアは傷つく。
「卒業までとっておくつもりだったけどさ」
「?」
「僕はリシリアが好きだよ」
「ノア……」
「はは、何か殿下の二番煎じみたいで格好悪いね」
ノアは茶色い髪をくしゃっと触った。
「そんなことないわ」
「リシリア?」
「私はノアの気持ちに応えられないけど、でも」
「うん」
「好きな人に好きって伝えることが、格好悪いだなんて思わない」
「どうして泣いてるの?」
ノアが指先を差し出す。
ぬぐってもぬぐいきれない程の涙が次々と溢れてくる。
「何で泣いてるんだろ。わからない」
「リシリアには気持ちを伝えられない、大切な人がいるんだね」
そう言われて涙の理由が形になる。
私はアルバートが好きで、でもそれを伝えられないことが辛いんだ。
私がその場に座り込むと、ノアは何も言わず隣に座った。
小さい頃にしてくれたみたいに、何度も頭を撫でてくれた。
「ごめんなさい。私ばっかり」
落ち着いてようやく言葉を発すると、ノアはいつもの優しい顔で笑った。
「失恋の痛みよりも、リシリアが泣いている方が辛いや」
「ご、ごめ――」
「もう謝るのはナシだよ」
「でも」
もっと早くに断っておけばよかった。
宙ぶらりんで気を持たせて、デートまでした。
そんな状態で放っておいたのは私だ。
「僕を惨めにしないでくれると嬉しいな」
「うん」
「じゃあこれからは本当の友達だ。よろしく」
「友達でいてくれるの?」
「当たり前でしょ? 僕がリシリアを大切に思ってることには変わりないんだから」
やっぱりノアは優しい。
真綿にくるむように私を扱ってくれる。
「あぁ、アルバート殿下にも嘘を謝罪にいかなきゃな」
「あの、それなんだけど……」
私はダブルデートの件を話した。
「というわけで、アンジュとアルバートを引き合わせたくて」
「僕がご指名されたと」
「う、うん」
「いいよ、行こう。でも殿下に転がされてるみたいで少し癪だな。嘘のネタ晴らしはデートが終わってからにしようかな」
ノアは楽し気に言った。
「無理してない?」
「純粋にリシリアといられるのは嬉しいよ。じゃあ明日はリシリアと恋人の振りしてデートでも楽しもうか」
ノアはどんな気持ちでこんなこと言ってるんだろう。
本当に頭が下がる。
「ありがとう」
「明日はリシリアをいっぱい楽しませて、うんと笑顔にするよ」
「もう、ノアは甘いなぁ」
「甘えてよ」
「甘えません」
「リシリアらしいや。そういうところが放っておけないんだけどね」
そう言うとノアは私の手の甲にキスをした。
「っ!」
「友達のキス」
そんなの知りませんよ!




