デートの誘い1
「リシリア様、今日はありがとうございました」
「こちらこそ楽しかったわ」
「あ、あの。もしよかったら、これ」
アンジュはバッグから小さな白い包みを私に差し出した。
「? くれるの?」
「は、はい。あまり高価なものじゃなくて恐縮なのですが、似合うと思って」
私はアンジュの手から包みを受け取ると、そっと開いた。
「わぁ、きれい。いいの?」
それは揺れる貝殻の耳飾りだった。
「感謝の気持ちです」
アンジュは照れくさそうに言った。
私は金具をそっと耳にあてがうと、パチンと留めた。
「どうかしら?」
「すごくお似合いです」
「ありがとう、嬉しい。大事にするわ」
「はい!」
アンジュは目を細めて笑った。
「では明日の予定を空けておいてね。連絡が行くようにするから」
「ダブルデート、ですね」
「ふふ、そう緊張しなくていいのよ」
むしろ緊張するのは私の方だ。
今から相手を二人確保しなくてはいけないのだから。
「ごきげんよう」
太陽が真上に登る頃、私とアンジュは別れた。
「リシリアです。アルバート、少しいいですか?」
私はアルバートの部屋をノックする。
程なくして老紳士が扉を開けた。
え? 執事でしょうか?
学園内は私設の使用人は禁止では。
「どうぞリシリア様」
「い、いえ。殿方の部屋に入るわけには」
「こちらは前室でございますのでお気になさらず」
なんと。
王子殿下の部屋ともなると、前室に使用人付きなのですか。
VIP待遇にも程がありますよ。
思い返せばアルバートはいつも「王子様」を崩しませんものね。
使用人がついていれば納得です。
「お呼びして参りますのでこちらでお待ちください」
「ありがとうございます」
私は案内されるままソファーに腰掛けた。
程なくしてアルバートは続き扉から現れた。
「どうしたリシリア」
「お願いがあってまいりました」
アルバートが目で合図すると、使用人はさっと姿を消した。
「一夜の恋人では物足りなくなったろう?」
「変な言い方をしないでくださいませ。恋人になどなった覚えはございません」
「昨夜のリシリアは可愛かったのにな」
アルバートは私の隣に座った。
ソファーがアルバートの方に少し沈む。
「近いです」
「あぁ、近いな」
「他にも空いている席などたくさんあるでしょう!」
隣にも!
向かいにも!
「雰囲気を醸せばまた昨夜みたいになるかと、ほんの下心だ」
「!!」
アルバートは私の反応を楽しむかのように顔を覗き込んだ。
「あ、あれは。私もどうかしていたのです」
「あぁ。またどうにかしたいものだな」
全くこの人は。
高鳴る心臓が嫌になる。
「アルバートに改めて紹介したい女性がいるのです」
「ほう?」
「明日、出掛けませんか」
「アンジュか」
「ご存知でしたか」
胸がキュッとなる。
「リシリアが熱心に構うから妬いていたのだ」
「構っただけの成果を見ていただきたいと思いまして」
「ふむ。確かにアンジュ殿は変わられたな。しっかりと前を向くようになった」
「よく見ておいでですね」
「妬けるか?」
「いえ、全く」
私は早く二人をくっつけたいのですから。
「会っても構わぬが、期待はせぬことだな」
「むしろ期待していただきたいくらいです」
「リシリアも一緒だろう? あと一人、誰を誘う」
「それは、まだ」
「ならばカンサム公を誘え」
「ノア、ですか?」
まさかアルバートからノアの名前が出るとは思わなかった。
「正々堂々と勝負しようではないか」
「いえ、アンジュを紹介するのが目的ですから」
「まぁ負ける気はないがな」
「アルバート、聞いてます?」
こうしてアルバートとの約束を取り付け、私は部屋を出た。




