修羅場
「ああぁぁぁぁぁぁ!!」
何ということをしてしまったのでしょう。
私は部屋に戻るなりベッドにダイブした。
「いやだめでしょ。猛省ものよ。何が『今夜だけ』よ」
思い出すだけで顔から火が出そうになる。
私はバタバタと身悶えした。
腕に、頬に、髪に、アルバートの感触が残っている。
息苦しい程のドキドキも、ちっとも収まりそうにない。
「アルバートにはアンジュがいるのにな」
枕に顔を埋めて呟いた。
目を閉じるとアルバートの顔が鮮明に思い出される。
星あかりに照らされた金色の髪、私を見つめる澄んだブルーの瞳、愛を誓った唇。
「あぁっ! もう!」
あんなに素敵な王子様に愛を囁かれて好きになるなという方が無理だ。
でも私はアンジュの恋を成就させなくてはいけない。
私はベッドから下りて洗面台へ向かう。
鏡にうつった顔はひどくのぼせて見えた。
「リシリアおはよう」
「ノア、おはよう」
「何かあった? 何だかすごく……」
ノアが顔を赤らめて言葉を切る。
「?」
「リシリア様! おはようございます!」
「おはようアンジュ」
「あれ、リシリア様。今日はすごく色っぽいですね。昨日あれから何かありました?」
「え? 私そんな顔してる?」
「はい、とても」
ノアの態度を見ても、どうやらそうらしい。
「皆早いな」
ドクンと心臓が脈打つ。
アルバートの声だ。
「殿下、おはようございます。殿下こそ今日はお早いのですね」
ノアは一礼して言った。
「あぁ、昨夜はあまりよく眠れなくてな」
「アルバート王子殿下、昨日はありがとうございました」
「アンジュ殿はあれから変わりないか?」
「はい、大丈夫です」
あぁ、私だけ挨拶に出遅れてしまいました。
というか、顔が上げられません。
「リシリア」
アルバートの声が私の名前を呼ぶ。
心臓がトクトクと震える。
「お、おはようございます」
「ゆうべは楽しかった」
「っ!!」
ノアとアンジュの前なのに。
二人とも驚いた顔をしている。
「またともに過ごそう」
「……」
どうしてそういうことを二人の前で言うのだろう。
「失礼ですが殿下。リシリアと何か?」
ノアが強張った口調で言った。
「カンサム公には伝えておかねばフェアではないな」
「何をです」
「私は昨夜、リシリアに愛を誓ったぞ」
「なっ!」
「良い返事はもらえなかったがな」
「リシリア、本当なの?」
あぁ、穴があったら入りたい。
「ではまた、先に行く」
アルバートは爆弾を投げるだけ投げて、さっさと行ってしまった。
「リシリア様、あのあと殿下と二人で過ごされたのですか?」
「ア、アンジュ。違うの。ただ食事に行っただけで」
「でも愛を誓ったと言ってた」
「ノア、それは殿下が一方的に」
「でもそう言われる状況に二人でいたってことだよね」
「それは……その。き、きちんと説明するわ」
「ごめん、冷静に話せそうにない」
ノアは苦虫を噛み潰したような顔をして講義室へと歩を向けた。
ノア!
そう呼び止めようとして我に返る。
呼び止めてどうするつもり?
ノアの気持ちを知っていながら宙ぶらりんで放置して、そして傷つけた。
「リシリア様、呼び止めなくて良いのですか?」
アンジュだって、少し落ち込んだ顔をしている。
「アンジュ、ごめんなさい。軽率だった」
「私に謝ることなど何もありませんよ?」
アンジュは下手な作り笑いでそう言った。
とんでもないことをしてしまった。
そう思った時にはもう遅かった。




