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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
1年生
32/160

初デート(アルバート王子)

 大変なことが起きました。


 深く考えずに食事をOKしてしまった30分前の自分に説教をしたい気分です。


 いえ、でもまさか。

 だれが想像出来たでしょうか。

 当日急に誘われて、スイート個室と最高級フルコースが用意されるなんて思いませんよ。


「す、素敵なお部屋ですね」


 私は貴族棟の別棟にある「星空ダイニング」の個室にいた。


「あぁ、星がきれいだ」


 そう、ここは紛れもなくゲームで訪れたことのある「デートスポット」。


 照明を落とした室内には、柔らかな燭台の光がゆらゆら揺れている。

 寮の裏手にある泉に面した大きなガラス窓は、そのまま曲線を描き屋根まで繋がっている。

 正面と頭上には無数の星が降り注ぐように見え、泉の水面には月が静かに映っていた。


 料理が出ると、アルバートは給仕にそっと耳打ちする。

 給仕は礼をすると、扉から出て行ってしまった。


「席を外せと言っておいた」

「なぜです」

「せっかくのデートだ。二人で楽しみたい」


 あぁ、ほら。

 デート認定されてますよこれ。


 雰囲気にのまれないようにしなくては。


「デートだなんて。そんなこと、いつも女性に仰っておいでですか?」


 私はあえて素っ気なく言う。


「女性と二人きりで食事をするのはリシリアが初めてだが?」


 アルバートは薄明りの中にやりと笑った。

 全く楽しそうですね。


「そうですか」

「お前は愛想良くしないのだな」

「王子殿下の前だけですよ。普段はそれなりに」

「普通王子の前でこそ愛想よく振る舞うものだがな」

「でしょうね」


 私は聞き流している風を装いながらフォアグラにナイフを入れる。


「まぁリシリアは素直じゃないからな? 今の態度も本心ではないのだろう?」


 カチャン。

 思わずナイフを落としてしまう。


「し、失礼しました」

「リシリアが動揺するなど珍しい」


 アルバートの顔を見ると、余裕の笑みを浮かべていた。


「ど、動揺など。しておりません」

「そうか?」

「何がそんなに嬉しいのです」


 その綺麗な顔でじっと見つめないでください。


「あぁ嬉しいな。やっと二人になれたのだ」

「っ!!」


「昼はカンサム公、放課後はアンジュ殿。リシリアはなかなか隙がなかったからな」

「隙って……」


 嫌な予感が頭をよぎる。

 さっき庶民棟でアルバートに会ったのは偶然かと思っていたけれど、偶然ではない?

 

 だいたい、王子が庶民棟の近くになんているはずがない。


「アルバート。先程はなぜ庶民棟に?」

「リシリアが一人で出て行くのが見えたから追った」


 あぁ、やっぱり。


「なぜそのようなことを」

「カンサム公との逢引きなら遠慮しようと思ったが、そうでもなさそうだったのでな」

「あ、逢引きなどいたしません!」

「はは。私が逢引きしようと思って追いかけたのだ。あのような現場に居合わせるとは思わなかったが」

「助けていただきありがとうございます。ですが後をつけるなどおやめください」


 まぁ私もアンジュの後をつけていたので人のことは言えませんが。


「ならば正面から申し込んでも? カンサム公に義理立てして避けていたのだが」

「それもやめてください」

「婚約しているわけでもあるまい」

「それはそうですが」


 というか、そもそも付き合ってもいませんし。


 ノアとのことは何とかしないといけない。

 ノアは私に友達からと言ったけど、アルバートは「想いが通じた二人」だと認識している。


 でもきっとノアの嘘にアルバートは気付いている。

 落馬事件があったから、表向きはノアを立てているだけで。


 沈黙が流れ、何となく気まずい空気が流れる。


「リシリア、少しテラスに出るか」


 アルバートが立ち上がり、私にマントを掛けてくれた。


「ありがとうございます」

「夜はまだ冷えるからな」


 私は促されるまま立ち上がり、アルバートとテラスに出た。


「うわぁ。目がくらみそう」


 私はテラスに手をつき空を見上げた。

 肉眼で見ると、星の瞬きがより一層感じられる。


「倒れないよう支えててやる」


 そう言うと、アルバートは後ろから私をすっぽり包んだ。


「ア、アルバート!? い、今のは比喩ですから!」

「そんなに大きい声を出すな」

「で、ですが!」

「また口を塞ぐぞ?」

「だ、黙ります」

 

 風に揺れる木々の音だけが響く。


「こうして自分だけのものにしたいと思うのはいけないことか?」


 アルバートがぽつりと言った。


「私に聞かれても」

「こちらを見ろ」


 私は体の向きを少し変えて、アルバートの顔を見上げる。

 

 アルバートの目は熱っぽく潤み、頬は赤く染まっていた。


「こんな気持ちになるのはリシリアだけだ。本当はカンサム公の側にいるのでさえ嫉妬している」

「アルバート、貴方の気持ちは恋ではありませんよ」

「何?」

「アルバートが心を惹かれているのは、私の容姿や学力、体力とか、そういう能力に対してです」


 芸術パラ、生活力パラなど、パラメーターの項目は他にも色々ありますが。


「それはリシリア自身に惹かれているということだろう?」

「いいえ。私以上の能力を持った女性が現れれば、きっとアルバートはその女性に心を奪われますよ」

「そんなことはない」

「あるのです」


 正ヒロインであるアンジュが、本来のアルバートの相手なのだから。


「なぜ私の心をリシリアが決める」


 なぜと言われても困る。


 アルバートがゲームの攻略キャラである以上、それは必然。

 でもそんなことは言えない。


「アルバートにはもっと相応しい女性が――」

「いつもそう言うな」

「だって、そうなんですよ」


 悲しいけれど仕方ない。

 私だって正ヒロインに転生して、アルバートと恋をしてみたかった。


 私は卑屈になっているのだろうか。

 拗ねているのだろうか。


 胸が痛い。


「わかった」


 アルバートが短く発した言葉に泣きそうになる。

 これで私に構うのもおしまい。


 アルバートはアンジュとの両想いルートに進めばいい。


「おわかりいただけてよかったです。もうこのようなことは――」

「リシリアは私のことが嫌いというわけではないのだな」

「え?」

「リシリアの発言は、私が嫌いというよりも、相応しい女性とやらのために自ら身を引くというものだろう」

「そうですが」

「なら話は簡単だ」


 アルバートは私の頬に触れた。


「誰が現れても私はリシリアだけを愛する。決して心変わりなどしないと誓おう」

「そんな無茶苦茶な話――」

「無茶苦茶なのはお前の方だ。誰ともわからぬ女のために身を引くなど、荒唐無稽だと思わぬか」

「御心変わりしないなど、信じられません」

「ならば信じられるまでずっと側にいよう」


 アルバートは私を優しく抱きしめる。

 温かい胸に顔をうずめてしまったのは、涙を見られたくなかったから。

 ただそれだけだ。


 アルバートを好きになるなんてだめ。

 それだけはだめ。


 なのに想いが溢れて止まらない。


「こんなのは、今夜だけです」


 私は自分に言い聞かせるように言った。


「ではとりあえず今夜を楽しむことにしよう」


 アルバートはそう言うと、優しく私の髪を撫でた。


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