陸上部
「あ、あの。リシリア様! さっきこんなものをもらったのですが!」
新緑も盛りになり、日差しもどんどん強くなってきた頃。
アンジュは手に一枚のチラシを持って私の部屋を訪れた。
「陸上部、部員募集中――。ランカ先輩ですか?」
「ランカ先輩?」
「黒い短髪で、背の高い、筋肉質な感じの。ダンスレッスンの手本で私と踊った――」
「は、はい! そうです! そうでした!」
「す、すごい」
「?」
すごいですよ。
アンジュが自らランカ先輩との出会いイベントを発生させました。
一年の夏までに体力パラを上げていないと、その後登場しない体育会系脳筋!
ランカ先輩!
ということは、アンジュの体力パラはいい感じに上がっているという証拠ですね。
でも体力全振りしたわけでもないのに、5月に出会ってしまうとは。
「アンジュ、あなた自主練しました?」
「はい、もちろんです! 個人レッスンが終わってからも体力づくりは欠かしてません!」
何という模範解答なのでしょうか。
可愛らしくて抱きしめてしまいそうです。
いえもう抱きしめてしまいましょう。
「アンジュ、好き」
「ふぇ!?」
女の子のふにゃふにゃ感、たまりませんね。
って、え??
「少し筋肉つきました?」
何だか微妙に引き締まったような気が。
「ほんとですか? 嬉しい!」
「何だか背筋も頼りなかったのが、少し……きゅっと」
私はアンジュの身体をぺたぺた触る。
アンジュはくすぐったそうに笑った。
「リシリア様にいただいた服でトレーニングすると、何だかすごく効果がある感じがして」
「服……」
確かにパラメータが上がりやすい装備品は存在する。
攻略キャラから誕生日プレゼントにもらえるアイテムがそうだ。
アルバートなら指輪、効果は全パラ1.3倍。
ノアなら眼鏡、学力パラ1.5倍。
ランカ先輩ならリストバンド、体力パラ1.5倍。
そういった具合に、キャラ固有の装備品があるのだが。
「リシリアのトレ着……」
「リシリア様?」
「これは初見ですね」
「はい?」
アンジュはきょとんとしていた。
「あの、リシリア様、私少し興味があるのです」
気を取り直してレモン水を用意していると、アンジュが背中越しに言った。
「陸上部ですか?」
「はい!」
「行ってみますか?」
「いいのですか?」
「いいも何も、前向きに何かをしようという姿勢は素晴らしいと思うわ」
猫背でびくびくしたアンジュの面影はもうどこにもない。
「はい!」
アンジュはとびっきりの笑顔で頷いた。
私はピッチャーのレモン水を水筒に移し替えた。
陸上部。
普通ならマネージャーの勧誘だと誰もが思うだろう。
淑女たるものグラウンドを走るような真似はしない。
「ごきげんよう、ランカ先輩」
私はちょうど休憩していたランカ先輩に声をかける。
ランニングシャツにテカテカとしたショートパンツ。
そこから覗く手足は汗で濡れていた。
すこし焼けた肌が妙にセクシーに見える。
「あぁ、お前たちはチラシを渡した」
「はい」
「トレーニーだな」
「はい?」
どうみても慎ましやかな淑女二人なのですが、トレーニーとは何事ですか。




