初デート(ノア)
「正解、正解、正解……正解」
私が採点するのをアンジュは得意げな顔で眺めていた。
「全問正解です」
「やったぁ!」
「よかったね、アンジュさん!」
「はい! ありがとうございますノア君!」
いつの間にか「ノア君」呼びになっているのはいいとして、全問正解とは。
「頑張りましたね、アンジュ」
「ノア君が意外とスパルタで。でも頑張ってよかったー!」
アンジュは両手を挙げて喜んだ。
こういう仕草が子どもっぽくて可愛い。
「アンジュさんはこつこつやればちゃんと伸びるタイプだね」
「ほんとですか?」
「うん、教え甲斐があったよ。またいつでも力になるよ」
「ありがとうございます!」
うーん、意外と良いペアかも?
ずっと私が付きっ切りで教えるより、たまに講師が変わる方が新鮮で伸びるかしら。
「リシリアも、いつでも頼ってね」
「検討します」
まぁ毎回デートを約束させられたのでは困ってしまうけど。
そういうわけで三日後、私はノアとのデートための服を選んでいた。
デートの場所は学園内にある美術回廊。
ノアが好きなデートスポットだ。
私は落ち着いたネイビーのドレスを選ぶ。
イヤリングは小さなダイヤモンドがついたベーシックなもの。
髪はバレッタでまとめましょう。
靴は低めのヒールにして、白いショールをかければ完成。
ノアが好む清楚系の服装に……って、ノアの好みを突いてどうする!
ただでさえ好感度85%は確定だというのに!
あぁでも時間がありません。
このまま行きましょう。
私がドアを開けると、ブラウンのチェック柄のスーツに身を包んだノアが立っていた。
「お待たせしました」
「リシリア。その服、すっごく素敵だよ」
ぐっ。
これは服装がツボにハマった時の定型会話ではありませんか。
「あ、ありがとう」
「じゃあ行こうか」
私たちは園内にある美術回廊へと向かった。
美術回廊はドーム状の大きな建物で、中はドームに沿うように螺旋階段が続いている。
階段をぐるぐる回りながら美術品を見学出来るという、建物からして芸術的な施設だ。
「へぇ、絵画だけじゃないのね」
ゆったりとしたスペースには彫刻や陶芸もならんでいた。
中でも目を引いたのがガラスの工芸品だ。
「やっぱり女の子はこういうキラキラしたものが好き?」
「うん、とっても素敵」
どの角度から見てもキラキラと美しいし、その透明感に吸い込まれる。
「僕も好きだよ」
「どれが好き?」
「あの青いやつ」
「ノアの持ってるガラスペンも青だものね」
「青いガラスって空を閉じ込めたみたいでさ。小さいのに、見つめてるとどこまでも広がってるような感じがして、何か好きなんだよね」
「ふふ、ノアって結構ロマンティック」
「え、えぇ!? そ、そうかな」
ノアは顔を赤らめた。
「うん、私も素敵だと思うよ」
「そ、そっか」
ノアはあからさまにホッとしたような顔をした。
「こういう滑らかな曲線が出せるのもガラスの魅力よね」
私は丸みを帯びたランプシェードを見つめる。
「色のグラデーションもいいね」
「あ、それ私も思った」
ノアとの初デート、どうなることかと思ったけど意外と楽しいぞ。
やっぱり幼馴染だけあって話が合うんだろうか。
それとも攻略済みだから、相手の好みを把握してるせい?
「今日は楽しかったよ」
「うん、私も!」
「もう少し一緒にいたいけど、どうかな」
おぉ、おかわりデート来ました。
でもこれ以上好感度を上げるわけには。
「休みも大事だなって思って。今日は部屋でゆっくり休むわ」
「そっか」
「うん、今日はありがとう。それからアンジュのことも」
そう言うと、ノアは少し考える素振りをして言った。
「それなんだけどさ、週に1回僕が勉強を見るっていうのはどうかな。そうすればリシリアの負担が減るだろ?」
「負担なんて思ってないけど」
アンジュは可愛いのだ。
それでいて教えれば何でも吸収する頑張り屋さんヒロイン。
「でもこないだみたいに青い顔してると心配だよ」
「心配かけたのは悪かったけど」
「アンジュさんも心配してたよ。自分のせいでリシリアが倒れたらどうしようって」
それはいけませんね。
倒れるのは構いませんが、アンジュが気に病んでしまうのはいただけません。
あの子ピュアだから、すっごく落ち込みそう。
「うーん、そうね」
「大丈夫。もう引き換えにデートしようなんて言わないよ」
「そう? じゃあ――」
「これからは正々堂々とデートに誘うから」
「!?」
それはそれでどうなんでしょう。
「はは、リシリアも余裕のない顔をすることがあるんだね」
「誰のせいですか」
「ん?」
ノアはぐっと顔を寄せ、耳元で囁くように言った。
「僕だったら嬉しいな」
「!! ノア!!」
もう、恥ずかしくて顔から火が出そうです。
「リシリアにとっては友人かもしれないけど、僕はそうは思ってないからね」
「何でそんなこと言うの」
「きちんと自覚してもらわないと、いつまでも幼馴染から抜け出せなさそうだから」
「友達からって言ったじゃない」
「スタートは友達だけど、僕はゴールに向かうために努力するよ」
ゴールって一体どこですか。
努力だなんて勤勉なノアらしいですね、もう。
「あまり積極的だと引きます」
「リシリアは手厳しいなぁ」
ノアは楽しそうに笑った。




